トラウマ治療:ソマティック・エクスペリエンシング(SE)体験② 自分の体の感覚に気づく

最初にお世話になったセラピストから、まず、自分の身体の中のわずかな感覚に気づく、というそれだけのセッションを初回から何度か行いました。自分の体の中のわずかな感覚、というのに気づけるようになるのは、人によっては、慣れるまでは、難しいかもしれませんが、でも、誰でも、なんらかの自分の体の感覚、というのは、分かると思います。

たとえば、頭が痛いとか、お腹が痛いとか、めまいがするとか、ふらふらするとか。そういう感覚もあるし、あとは、静かに座ったり、横になったりしている時に、自分が何も触ったりしていないけど、どこかがムズムズするとか、とても小さい感覚で、チクチクするとか、ピクピクするとか、それも、体の表面のところに感じるとか、体の中の方で感じるとか、自分の体を静かにじっくり感じていると、そういう感覚に気づくようになっていくと思います。温度であることもあると思います。温かい感じ、冷たい感じ、そういうのを体のどこかで感じることがあると思います。
そういう小さな感覚のことを「フェルトセンス」(感じられた感覚)と呼びます。これは「フォーカシング」という療法で使われる用語なのですが、SEのセラピーとフォーカシングの違いについて、セラピストから聞いたこともあるので、後述します。

まずは私たちの本能的な声に触れることから始めましょう。最初のステップは、その声を聴くためにフェルトセンスを使えるようになることです。このプロセスに取り組むうえで最も大切なのは、無理をしないことです。本能的な自己とつながるのは、とてもパワフルなことです。決して強制してはなりません。気楽に、ゆっくりやってください。どこかで圧倒された感じがするときは、頑張りすぎている可能性があります。また同じように感じることがあれば、スローダウンしましょう。そういう時は確実に、ゆっくり行けば行くほど早く目的に達することができるはずです。フェルトセンスはゆっくり現れることもあれば、稲妻に打たれたようにすべてが一瞬のうちにはっきりと分かることもあります。最良の態度は、オープンに好奇心を持ち続けることです。

ピーター リヴァイン『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(p.88)

フォーカシングとは、からだを使って、自己の気づきを促し、こころを癒していく、独特のプロセスです。それはひどく単純なことです。あなたがどんなふうに感じているかに注意を向けて、その感じと会話をするのです。その会話では、あなたはほとんど聴き役にまわります。
フォーカシングは、生活の中で起こっている事柄について、からだの内側で何かを感じるという、おなじみの経験から始めます。立ち上がって話し始める時、胃のあたりがざわざわする感じとか、大切な電話をかけようとすると胸がきゅーっと締めつけられる感じなど、私たちが「フェルトセンス」(感じられた意味感覚)」と呼んでいるものを、―何らかの意味をもっている身体感覚のことですが―あなたはすでに経験しているわけです。

アン・ワイザー コーネル『やさしいフォーカシング―自分でできるこころの処方』(p.10)

セラピーでは、分かりやすい痛みとか、不快感とかも、感じていればセラピストに伝えるし、自分の体の中の感覚、たとえば、最初にピクピクするような感覚が、足の先の方にあったけど、それがだんだん太ももの方に移動してきた、というのにも、気づけるようになっていくと思います。それを自分で自分を観察しながら、セラピストに伝えます。自分の感覚を「モニターする」「トラッキングする」という言い方をします。

そして、そういう小さな感覚に気づくと、自分ひとりでいる時も、あ、この感覚が、いまここにあって、こっちの方に移動した、とか、しばらく待っていたら、その感覚が、消えていった、とか、そういうのが分かるようになってきます。セラピストから言われたのは、自分のわずかな感覚を「ガン見しないでください、ガン見すると消えます、恥ずかしがっているので、そっと見守るような感じで観察してください」と言われました。

フォーカシングをする能力は、誰もが生まれながらに備えているものです。私たちは、その瞬間瞬間に自分がどう感じているかがわかる能力をもって生まれてきます。しかし、ほとんどは、子ども時代に、あるいは文化の影響で、傷つき疎外される経験を経て、からだや感情への信頼をなくしてきています。ですから、フォーカシングを学習しなおす必要があるのです。

アン・ワイザー コーネル『やさしいフォーカシング―自分でできるこころの処方』(p.15)

ソマティック・エクスペリエンシング(SE)でも、まずは、自分の体の感覚を自分でちゃんと気づけるようになる、観察できるようになる、というところからスタートします。これは「フォーカシング」という心理療法のやり方と似ていて、ある面では、ほぼ同じかもしれません。ただ、フォーカシングの本によると、自分の中の小さな感覚(フェルトセンス)が何を意味しているのか、何を表しているのか、ということを自分に対して尋ねて、確認していく、ということが書かれているのですが、SEのセラピーでは、「自分の中のわずかな感覚が、何を意味しているか、などと考えたり、その感覚を意味づけしないように」とセラピストから何度も言われました。それは、複雑性トラウマというのは、「トラウマ反応を起こした出来事は、沢山あって、自分でも覚えていないこともある、だから、勝手に意味づけしてしてしまうと、気づきを限定してしまうから」と言われました。

これは確かにそうだと私も感じていて、子供の頃の家庭で起こったひどい出来事は、思い出せるだけでもいくつもあって、思い出せないものも入れたら、無数にあるだろうと思います。そういう記憶は、自分の頭では思い出せなくても、体は記憶しているという考え方に基づいたセラピーなので、複雑性トラウマの場合は、「何か自分の感覚があっても、その理由を考えたり、きっとあれが原因だろうと、考えたりしないでください」とセラピストから繰り返し言われました。

フォーカシングの専門でもあるセラピーの先生に「フォーカシングは意味づけするけど、SEでは意味づけしてはいけないのですよね?」と聞くと、その先生は「自分の身体に感じる小さな感覚(フェルトセンス)を意味づけするということではないが、その感覚に導いてもらう、ということをする」という言い方をしていました。自分の体を観察していると、自分の体の中の何かの感覚が、ずっと同じ状態で同じようにとどまっている、ということはありません。どこかに移動したり、広がったり、薄くなって消えていったり、という何等かの変化があります。その変化の過程で、気づくことがあれば、それを尊重する、ということのようです。

日常生活の中で、ひとりで自分の体の感覚を観察していると、それだけで時間が経っていきます。(あるセラピストは何時間でも観察していられると言っていました。)日常で何かしなくてはならない用事があって、途中で観察をやめるときは「また後でね」とその感覚に対して言ってあげる、たとえば、「いま腕にチクチクした感覚があるのは分かっているけど、ちょっと用事をしなくちゃならないから、また後でね、またね」と声をかける。その感覚がまるで人格をもっているかのように。たとえば、足に何かの感覚があれば、「足はどうしたいのか、足に聞いてみてください」ということも言われました。

クライアントは、自分の感覚を意識できるようになるにつれ、それらをうまく利用して自分の内側にある資源にアクセスできるようになる。さらに、からだから発せられるごくわずかな手がかりを通して、自分自身を「知る」力を深めることができる。(略)
この技法は、クライアントの気づきを促し、感覚・感情・知覚・意味がすべて統合されるようクライアントの力を高めていくために用いられている。

ピーター・A・ラヴィーン『身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケア』(p.186-187)

自分の体の中で起こっている小さな感覚に気づけるようになる、ということは、自分の内面に注意を向けて、自分の内面に起こっている、何かの感覚に気づくことになり、それが、自分自身を大切にすることにつながっていきます。自分を大切にするには、まず、自分の感覚や感情に気づくことができないと、自分を大切にすることがどうすることなのか、自分で分からないのですが(複雑性トラウマを抱えた人は、自分が本当はどう感じているのか、分からなくなっていることが多い)それが分かるようになるための訓練をしている、という感じだと思います。

複雑性トラウマの人が、自分が本当は何を望んでいて、どうしたいのか、ということが分からなくなっているのは、幼い頃にずっと自分の欲求を抑え込んできたからです。つらいことがあっても、ごはんをもらって生き延びるためには、そのつらいことをしてきた人や場所から逃げることができない、まだ子供ですから戦うこともできない、戦ったら余計にひどい状況になるかもしれない、だから結局、その場で凍りついて我慢する、ということを繰り返してきたと思います。そんなことを繰り返しているうちに、自分の本当の望みが分からなくなってくる、神経系が乱れる、というのは、当然の結果です。ですので、まず自分に起こっているトラウマ反応は、自分が経験したことから起きた自然な反応であって、それが起きたことに関して、自分は悪くない、ということを、しっかり覚えておいてください。

ただ、それが起こって困っているのは、今の自分です。だから自分がそれを癒していくことができるし、癒していくことによって、いま困っていることが少しずつ解消していく、と考えています。

トラウマを負った人のこれほど多くが目的意識や方向性を失う理由も、内側前頭前皮質が活性化しなくなったことで説明がつく。(略)
彼らは自らの内部の現実との関係が損なわれてしまっているのだ。自分が何を望んでいるのか、もっと厳密にいえば、あらゆる情動の基盤である、体内の感覚が自分に何を語ろうとしているのかをはっきりさせられないのであれば、どうして決定を下したり、計画を実行に移したりできるだろうか。

ベッセル・ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』(p.154)

初回のSE(ソマティックエクスペリエンス)セラピーを受けた感想は、ひたすら自分の体に注意を向け続ける時間がとても素敵な時間だったと感じて、それは初めて味わう感覚でした。セラピストに伝えると「それは自分の潜在意識にアクセスして、それを大切にしているからです」と言われました。

まずは、自分の体の中の感覚に気づく、ということの大切さが伝わっているといいです。これは自分一人でもできることなので、いま、トラウマ反応で苦しんでいる人は、試してみると良いと思います。フォーカシングは、ひとつの心理療法なので、トラウマ反応がそれほどひどくない人は、ここまでのことをやるだけで、だいぶ癒しにつながると思います。ただ、私のようにかなり複雑でひどいトラウマがある場合は、これだけでは解決しないと感じました。

フォーカシングは、「瞑想」と少し似ていると思います。ただ、瞑想にも色々な方法があって、瞑想については、自分の経験や知識をまた別の機会に書きたいと思います。瞑想も助けにはなるけれど、それだけでは複雑なトラウマは解決しないと感じます。ですので、SEのセラピーとしては、まず、自分のフェルトセンスに気づき、それを観察していく、ということができるようになるのが、大切なので、まずはその部分を試して頂けたらと思います。