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元地域おこし協力隊が伝えていきたい「山のこと」、海だけじゃない下田の魅力。

みなさん、「竹たのしみまくる下田」はご存知ですか?下田で5年目を迎える竹灯りのイベントです。2017年のスタートメンバーの前田さんご夫妻(前田聖洋さん、菜都美さん)。お二人は2016年に下田の地域おこし協力隊として移住。任期を終た現在も下田で生活し、仕事と合わせて竹灯りのイベントを続けています。
(運営・設営はアフターサマープロジェクト実行委員会)
竹灯りのイベントは綺麗な灯り(点灯)が目的になりがちですが、もう1つのコンセプトは、「山のことも知ってもらいたい」。下田といえば海に注目されがちですが、海が綺麗であるためには健全な山や森の管理が必要です。地域として考えていかなければならない山の課題にも取り組んでいる前田さんご夫妻にインタビュー。

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――お二人はなぜ下田の地域おこし協力隊に?

聖洋さん(以下、聖):私は新島(東京都)の出身で、前職は建築設計の仕事をしていました。東京以外に拠点を持ちたいと思い移住先を検討している中で、吉佐美大浜の美しさに惹かれ下田への移住を考えていました。そんな中、下田市で地域おこし協力隊の募集がありました。森林や地方の山の問題に触れることができる内容であり、前職の建築設計を地域に活かすことができるかもしれないと思い応募しました。


菜都美さん(以下、菜):私は都内出身で音大で声楽を学びました。小さい頃から音楽と同じくらい植物や自然が好きだったので、移住前は花屋で働き、花束やアレンジメントの製作を担当していました。花を扱っていたので、切り花を育てること(花卉栽培)にも興味を持っていました。より自然の多い環境への移住を考えていたところ地域おこし協力隊のことを知りました。「自然の中で暮らしながら、今の自分にできることがあるなら」という思いで応募しました。下田に初めて訪れたのがあじさい祭りの時期で、圧巻のあじさいに感銘を受けました。

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――お二人は別々の目的で地域おこし協力隊になられたんですね。
二人は下田市の地域おこし協力隊の1期生として、下田市役所産業振興課「美しい里山づくり部門」に採用され、(支援団体である)伊豆森林組合に配属されました。

聖:任期は3年あったのですが、最初の一年は伊豆森林組合の方で主に現場作業をしていました。チェーンソーなどを使った初歩的な作業や、 切った木の太さの計測、獣害対策のネット張りなどです。2年目からは地域おこし協力隊として「自分で何ができるか」を探しながら働き始めました。
菜:森林組合の方も関連のあることに対しては力を貸していただけました。

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――それで竹灯りのイベント『竹たのしみまくる下田』を始められたのですか?
※『竹たのしみまくる下田』は、各地で問題となっている放置竹林の竹を利用し、町中に竹灯籠のオブジェを設置することで往来客の町内回遊性の向上や、市街地活性化を目指したイベントです。

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聖:『竹たのしみまくる下田』は、同じく地域おこし協力隊の一期生として商工会議所の市街地活性化部門に配属された田中剛さんからの相談があり、一緒に企画したプロジェクトです。2017年秋に「アフターサマープロジェクト」の一環としてスタートしました。下田は夏が終わった後、秋のイベントが少ないという課題があり、市街地活性化と、山の資源の有効活用を兼ねた目的で竹灯りのイベントを企画しました。

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菜:私たちとしても、下田の山からの資源を市内のイベントに使用することで、森林や山にも興味を持ってもらう良い機会だと思いました。下田は海が有名ですが、山のことはあまり注目されていません。海が綺麗であるためには健康な森が必要なんです。山の手入れの大切さや、資源の活用方法に興味を持ってもらいたいと思い、そのきっかけづくりとして竹を選びました。

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――山のことを知ってもらうイベントでもあったんですね。

聖:今年で5年目を迎えますが、いつの間にか綺麗な灯りを灯すことだけが先行してしまい、山のことを知ってもらうというコンセプトが伝えきれていません。このイベントを通じて、山、川、里、海という自然の循環を知って欲しいと思っています。

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――市街地活性化だけではなく、山から海までの循環ですか?

菜:竹林は森林と同じく本来は常に整備し続けないとなりません。切った後の竹の使い道も少なく、財産としての価値が低く思われがちで、手入れされずに放任されている現状があります。市内竹林から竹を調達することで、本当に微々たるものですが竹林の手入れができ、イベントで作ったオブジェはその後チップとして農業利用していただいています。竹灯りのイベントを続けることで、山の資源を活用する循環が生まれます。

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聖:綺麗な灯りを楽しむことも目的の1つになりますが、その根本には竹林の維持管理、そして町全体で下田の山の現状を考えるイベントになります。町の人がみんなで竹灯籠を作ることで、少しずつ山の問題に触れることができるんです。

――とても良いお話ですね!今年は山のことを考えながら参加してみようと思いました。

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――菜都美さんは昨年末に下田門松を継承されていましたが、それも竹つながりですか?

菜:山の資源の活用を考えるという意味では同じですね。下田門松は通常は3本のところ、一本ずつの竹を対にしたのが特徴です。発案者の方が市内の竹を使って下田の産業にしたいという思いで、20年以上かけて作ってきたものですが、「体力的にもう続けられないけど、自分が作ってきたものをなくしたくはない」と後継者を探していました。「無くなりそうなものを絶やさない」ことが大切だという思いから、手を挙げた3名ほどがチームを作り下田門松の技術を継承することになりました。技術を継承したので、継承者として定義を崩さずにやっていきたいと思っています。

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――地域おこし協力隊の活動を通じて感じた下田の魅力や課題について教えてください。

前:下田を含め伊豆地域全体の課題として、山の活用がされていないことです。木を伐採しても、一次加工場がないなど、課題もわかりました。任期中に接した林業関係者の方たちの山に対する真摯な姿勢や、山の仕事を楽しんでいる姿に感銘を受けました。サーファーもたくさんいて、波の良い日などは山でしっかり仕事をしたら大急ぎで海に向かうなど、とても楽しそうで素敵でした。下田ならではの仕事のあり方だと感じました。

海に注目されがちですが、山のことも考えていければもっと良い町になると思います。今はまだ新しい事業を始めるとかは考えてませんので、まずは自分のことをしっかりやっていきたいと思っています。

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菜:下田の良いところとして、「ないものはつくればいい」という考え方がとても好きです。竹細工を作れる知り合いが、カゴとか自分で使うものは自分で作るんです。作れる人はいても伝える人がいなければいずれは竹細工もなくなってしまいます。技術だけではなく地域のこと、伝統のこと、方言のことなど、いろいろな話を共有する場を作ろうと思っています。それもあって今は私が発起人の「竹工研究会」という寄り合いのような竹細工教室を週に一回のペースでやっています。私から見ると花や野菜、ものづくりにしても下田の人が当たり前にしていることがキラキラして見えるし、かっこいいと感じます。

また、下田は地域が子供に優しいので、子供を育てる環境としてもとても良いと思います。子供が楽しく過ごしてくれれば嬉しいです。

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海と山の距離が近く、より多くの自然環境の恩恵を受けることができるのは下田の大きな魅力ですね。「山で働きながら、海にも遊びに行ける」など、下田や伊豆での働き方としても近年注目されています。
前田さんご夫妻の考える、地域循環型のイベントとしての「竹たのしみまくる下田」については、参加・協力してくれる人にもしっかりとコンセプトが伝わってほしいと思いました。5年目の今年はwith a treeプロジェクトの空き倉庫が新たな作業場となりました。LivingAnywhere Commons伊豆下田も協力しているプロジェクトなので、町の人だけでなく関係人口の方々にも参加していただき、みんなで下田の海のこと、山のことを考えていきたいですね!下田門松や竹細工など、山のことを考えるその他の取り組みについてもこれからの活動に期待が膨らみます。

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「竹たのしみまくる下田」 Facebookページ
https://www.facebook.com/taketanoshimimakurushimoda/
作業場「with a tree」 Facebookページ
https://www.facebook.com/withatreeshimoda

WITH SHIMODA ライター / 温泉民宿 勝五郎 土屋尊司
写真提供:前田菜都美、土屋尊司


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