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本当はヤバい「脱ステロイド」

2021年9月7日に放送された日本テレビの「ザ!世界仰天ニュース」で「ひどい肌荒れがまさかの方法で回復」という科学的に明らかに根拠のない内容が放送され、患者さんへの悪影響が懸念されたため、皮膚科学会やアレルギー学会などの学会が連名でこの番組へ厳重に抗議を行い、放送一週間後の番組内で内容の訂正と謝罪がありました。

ということで、今回は、みおしん先生と一緒に「ステロイド」というお薬について勉強していきましょう。
私は線維筋痛症と慢性疲労症候群患者ですが、実は、幼少期にひどいアトピー性皮膚炎があったり、18歳ころから毎年ひどい花粉症、33歳ころに咳喘息や声帯炎で声がでなくなった時など、たびたびステロイド様にはお世話になってきました。まもなく37歳になりますが、今では嘘のように花粉症はそこまで悪化しなくなり、ステロイドなしでもコントロールできるほどまで改善しています。(慢性上咽頭炎はくすぶっているので、鼻水はすぐたまりますし、のどはいつも違和感がありますし、鼻うがいは正直しんどいですが笑)

ステロイド:副腎から作られる副腎皮質ホルモンの1つ 
主な効果 :抗炎症作用・免疫抑制
人間のからだには、体の中に起きてしまった炎症を抑えるために、そこの領域の血管を広げ、免疫細胞さんを送りこんで落ち着かせようとする働きがあるのですが、時に、その免疫細胞さんが暴走して「サイトカインストーム」に発展すると、炎症を悪化させたり、正常な細胞さんまで攻撃してしまいます↓

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youtube はたらく細胞 新型コロナ感染症 https://www.youtube.com/watch?v=0WZJ32NqWUA&t=187s

ステロイドは、そんなしゃかりき免疫細胞さんたちの暴走をセーブしたり、血管を収縮させる作用があります。そのため、リウマチやシェーグレン症候群などの自己免疫疾患や、喘息や花粉症などのアレルギーが悪化する時、新型コロナウイルス感染症の中等症Ⅱから重症例などに適応となります。

副作用:易感染性・高血糖・潰瘍・血栓症・精神症状・むくみ・高血圧・白内障・緑内障
これらの副作用は、内服や点滴の際は作用機序的に起こってしまうものなので、一般的な医師は日頃から慎重に処方しているはずです。

<参考>女子医大腎臓内科 http://www.twmu.ac.jp/NEP/steroid.html

逆に、副作用を怖がりすぎるデメリットを知っておかないといけません。
例えば、ステロイド外用薬を使用しないことで、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を大きく悪化させてしまうと顔の湿疹は、その後の食物アレルギーのリスクを高めてしまったり[1]、白内障や網膜剥離(失明になりかねない目の病気)が多く発症したり[2]、成長障害などをきたす報告があります[3][4]。
これらから守ってくれるステロイド外用薬は大切な治療薬です。

[1] PLoS One 2020; 15:e0240980. https://journals.plos.org/plosone/article/citation?id=10.1371/journal.pone.0240980
[2] JAMA Ophthalmol 2018; 136:912-8. https://jamanetwork.com/journals/jamaophthalmology/fullarticle/2683732
[3] アレルギー 2008; 57:853-61. https://www.jstage.jst.go.jp/browse/arerugi/65/7/_contents/-char/ja
[4] JAMA dermatology 2015; 151(4): 401-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25493447/

<ステロイドの歴史>
1948年 臨床で初めて慢性関節リウマチに使用
1950年 「ステロイドの発見」ノーベル賞を受賞
寝たきりだった関節リウマチ患者さんがステロイドの投与で歩けるように
1953年  日本でステロイド外用剤が臨床で使用可能に
1978年  5段階に強さが分類されているステロイド外用薬が登場
1970年代 市販薬としてステロイド外用薬が使用可能に
1990年代 ステロイドの副作用がクローズアップ「悪魔の薬」と命名され、日本大混乱へ

ステロイドの血管収縮作用のおかげで、皮膚は「一時的に」炎症のない色白肌になることと、市販薬として気軽につけるようになったことで、美容目的として用いる方が出現してきたことが背景にあります[5](気持ちはわかる)
また、医師側にも、「外用薬なら大丈夫」と漫然と処方していたかもしれません(だめだめだめ)。

長期間、同じ箇所、とくにステロイドの吸収率がよい顔面にステロイドを塗り続けると、その毛細血管が破れてしまい、『あから顔』となり、さらに続けると『酒さ様皮膚炎』という副作用へ発展します。

[5] Indian J Dermatol Venereol Leprol 2011; 77(1): 42.
https://ijdvl.com/topical-corticosteroid-induced-rosacea-like-dermatitis-a-clinical-study-of-110-cases/

きれいになりたかったのに、あれ???

この後の展開は想像に難くない…。ステロイド外用薬をつよく批判する報道などが増え、ステロイドバッシングの特集が1週間行われ、「悪魔の薬」命名。ステロイドを強く避ける気持ちが強い『ステロイド忌避』の方も多くなったそうです(そりゃそうなる…今のHPVワクチンやコロナワクチンと酷似した流れ)。そして、「脱ステロイド」と呼ばれる不適切な治療が横行した結果、多くの患者さんが不利益を被りました。

日本皮膚科学会HPによると、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を策定し、標準治療の普及にあたってきたことで、ようやくステロイド外用薬に関する誤解や誤った報道が減ってきていたそうです。私自身も、SNS医療のカタチの番組内で少し話題になって知っていたぐらいで、もう誤解は解けていると勘違いしておりました。

ですから、皮膚科医おーつか先生のツイートで今回の放送があったと知った時、歴史は繰り返されるのかァ…と天を仰ぎ深くため息をついたものです。

色んな先生や患者さんが積み上げてきたものが水の泡になってしまうのか。

「薬」や「ワクチン」は、人が人を想って開発され続けているのに…。

ひとりの医者、ひとりの患者として、お薬や治療に関して報道する際は、「その報道を信じたことで、観た人の人生を狂わせるリスクや、不安に付け込む悪徳ビジネスの一助になりえるところまで想像してから編集・放送してほしいナァ」と願いながら、自分がいつかそうならないように自戒を忘れず、今日もせっせと動画や記事をつくる日々を過ごすことにします。

ステロイドに関する報道・発信の心得
其の1 
脱ステロイドを「療法」「治療」言うべからず
ただの放置を「治療」と位置づけてはならぬ
其の2
顔の外用のみで体内のステロイドが作られなくなることはありませぬ
其の3
 脱ステロイドでの白内障、網膜剥離のリスクに触れるべし
其の4
ステロイドに依存があるような印象を与えてはならぬ
其の5
ステロイドを種類も使用法も区別すること無く否定してはならぬ
其の6
その発信が、多くの健康被害をもたらす可能性を想像せよ
其の7
治療中の患者さんに恐怖と不安をあおる内容を発信してはならぬ

『酒さ様皮膚炎』とその治療に関しては、小児科医ほむほむ先生の記事がおすすめです。顔へステロイド外用薬を『長く』『毎日』使い続けると起こりやすい皮膚炎とは?日本アレルギー学会専門医・指導医・小児科専門医 堀向健太(ほむほむ先生) 
https://news.yahoo.co.jp/byline/horimukaikenta/20210909-00257248

「ザ!世界仰天ニュース」で“脱ステロイド”を好意的に紹介。医師が批判「患者さんの心を折りかねない残念な内容」
皮膚科専門医 大塚篤司(おーつか先生) Buzzfeed 2021.9.9
https://www.buzzfeed.com/jp/atsushiotsuka/atopic-dermatitis-steroid-2

誤解されがちな「ステロイド」。効能を正しく理解して適切な使用を。
kindai picks 2021.09.10 皮膚科専門医 大塚篤司(おーつか先生)
https://kindaipicks.com/article/002354

日本皮膚科学会(更新9/15)
【重要】2021年9月7日に放送された日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース」に関して抗議文を提出したことについて」
https://www.dermatol.or.jp/modules/publicnews/index.php?content_id=12
公益社団法人日本皮膚科学会/一般社団法人日本アレルギー学会/日本臨床皮膚科医会/一般社団法人日本皮膚免疫アレルギー学会/一般社団法人日本小児アレルギー学会/日本小児皮膚科学会/認定NPO法人日本アレルギー友の会

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