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自分を自分たらしめるもの
「経験は財産」「苦労は買ってでもしろ」とはよく言ったものだ。学校の先生や、親戚のおじさんがお説教で言及する経験や苦労は、人に自慢できるようなそれのことだろうか。長期の留学経験とか、リーダーを務めた経験とか。私はずっとそれを、カギカッコつきの「経験」のことだと思っていた。つまり、人生の教訓を得たり、学びにつながったような「経験」。
でも当然、誰もがそうした輝かしい経歴をもちあわせているわけではない。自分もそのひとりだ。面接で「学生時代に頑張ったこと」を問われたならば、そういう分かりやすい経験の方が目につきやすいのはよく分かる。しかし、「自分の価値観が形成されるきっかけとなった経験を教えてください」と言われたとき、そんな分かりやすい経験よりも、もっと分かりにくい個人的な失敗や挫折の方が、「自分らしい」のだ。
実際にはだから、経験にはポジティブなものもネガティブなものもある。そして、ネガティブな経験や苦労の方が自分を自分たらしめるものになっていると思う。「失敗を恐れるな」というよくある名言の裏には、こうした想いも含まれていたというのは考えすぎだろうか。
2年生への進級を間近に控えた3月に上京し、一人暮らしの寂しさというのがよくわかった。はじめの1ヶ月はずっと、「誰かといたい」と思っていたし、普段の生活では寂しさから独り言が急増した。それでも、1ヶ月も経てばだんだんと慣れてくるもので、炊事も洗濯もそれなりに板につく。だが、もう一人暮らしを始めて2年が過ぎようとしている今でも、突如襲われる虚無感がある。だからこそ、虚無感と同時に、友達の大切さを実感する。誰かと一緒にいることの意味が一段と深く身に沁みる。高校生のころ、すでに自立していると過信していた自分は、大学生にもなって、こんなことを考えるようになるとは思わなかった。世帯を持ちたいと思う独身男性の気持ちもなんとなく想像がつくようになった。
こうして、初めはネガティブに感じていたことも、「あの経験のおかげで」ということがよくある。そして、同じ経験からも一人ひとりが感じることは違う。一人暮らしをして、「意外と自分、ひとりで生きていけるじゃん」と思う人もいれば、自分のような人もいる。つまり、ひとつの経験から、何を感じ取るか、その中で何を重視するかが違う。それはひとりひとりの個性なのかもしれない。こうした感覚の違いがより集まって、自分という存在がかたちづくられていくようだ。
就活経験者には笑われてしまいそうなほど呑気な話だが、自分の経験を丹念に辿るような自己分析にしたい。自分の知らない自分を探るようなつもりで。
P.S. noteを始めてから約1年。書くことの難しさを知らされた。今度こそ伝わるかなと思っても、なかなかうまくいかないことばかり。でも、だからこそ、書けば伝わるという思い込みは消え去って、少しでも丁寧に書くことを自らに課すようになった。まだ届いてはいないと思うけれど。
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