見出し画像

Case Study-番外編「戦士の休息」

「三時方向に敵の狙撃手発見。伏せろ!伏せろ!」

銃弾が壁を貫く。誰かが叫ぶ。
別の誰かは神に懇願している。殺してくれと。

クィンは戸口へ這い寄った。
銃を構えて狙いを定めようとしたその時、世界が炸裂した。
どういうわけか自分はイラクに舞い戻り、
仲間の頭が吹き飛ぶのをまた見ている。

と思った瞬間、
クィン・ウォーカーはベッドの上に跳ね起きた。
心臓が高鳴り、全身汗びっしょりだった。
上掛けを剥いでふらふらと窓辺まで歩き、
山に広がる草地を眺めた。
夜明けまで一時間足らず。
すでに空の色は、新しい一日の始まりを告げている。

なぜ、繰り返しあの夢を見る? なぜ、忘れられない?
クィンは窓に頭をあずけて目を閉じ、念じた。
悪夢よ、二度とよみがえるな。
しかしの恐怖が消え去る日が本に来るのだろうか。
ケンタッキーの自宅へ戻ったという現実を受け入れられる日が。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)というやつは、
起きて欲しくないときに限って起きる、厄介なしろものだ。
同じ戦地土産でも、寄生虫のスナノミなら、
ティートリーオイルを垂らせば済むが、
PTSDには特効薬もワクチンもない。
魔法の杖をひと振りして終わり、というわけにはいかないのだ。

夜の眠りのさなかに、
あるいは思いを寄らない真っ昼間に、そいつはやってくる。
きっかけは些細なひと言、ちょっとした物音、
場合によってはかすかな匂いだったりもする。

シャロン・サラ「マイ・スィート・ガール」より引用

画像1


これまでの過去記事の中でも何度か、
「死」にまつわる経緯すなわち「死」という行為たる出来事、
が強いトラウマになるということに触れてきた。

自分が死に至った事由、死に至らしめられた状況、
自分を殺した道具、死の原因になったもの、
自分を殺した相手、死んだ場所etc・・・

例えば、カミソリで首を切られた人はカミソリが苦手となり、
とある食べ物が原因で死ぬことになった人は、
その食べ物が嫌いになったり、アレルギーを引き起こしたり、
高いところから落ちて亡くなった人は高所恐怖症に、
水死で水を大量に飲んでしまった無意識の記憶のある人は、
水をごくごくと飲めず舐めるようにしか水分を取れず、
崩落事故や地震で建物や穴倉に生き埋めになっての死は、
閉所恐怖症や暗闇恐怖症を発症していたり・・・など。

人が死する状況は様々であり、
病死や事故死、殺人、餓死、自然災害に巻き込まれての死、
老衰といったもっとも少ない自然死もあれど、
戦争による戦場での死というのは、どんな状況にせよ、
強く、深い影を後の人生にも落とすことになるようだ。

画像2


戦地から戻った帰還兵の心の問題は、
今でこそ、ケアサポートプログラムがしっかりとあるようだが、
湾岸戦争以前はあまり真剣に取り組まれてなかったように思う。

というか、おそらく昔からあったのだと思うが・・・

ベトナム戦争を機に大きく注目されるようになったというか、
アメリカ人のベトナム後遺症ともいうべき、
帰還兵とそしてその周囲の人々が抱え込むことになった
数々の社会的問題、負の遺産のひとつとして、
PTSD(心的外傷後ストレス障害)が有名になったというのもある。

それは主に、ベトナム戦争を題材する映画、
帰還兵のPTSDを扱ったシリアスなハリウッド映画が、
大きなインパクトを人々の心に与えることになったからだと思う。

それまでの戦争映画というのは、
敵を敵として描き、いかに作戦を遂行するかの頭脳戦や、
戦場での駆け引きなどに焦点を置いてはいるものが多く、
人としての葛藤など人間ドラマを扱う部分はあったとしても、
人が人を殺すというジェノサイドを経験することによって負った、
帰還兵の心の傷に触れたものは皆無に近かった。

画像3

例えば、太平洋戦争、第二次世界大戦で言えば、
「史上最大の作戦」「遠すぎた橋」「大脱走」
「トラトラトラ」「バルジ大作戦」「戦場にかける橋」とか、
ちょっと娯楽的な感じで、戦勝国万歳って感じなものが多く。

まあ、「ジョニーは戦場へ行った」とか
「西部戦線異状なし」「戦争と人間」とか、
問題提起している傑作ももちろんたくさんあったけど。

「ディアハンター」「地獄の黙示録」
「プラトーン」「7月4日に生まれて」なんか、
この辺りの映画が問いかけてくることは大きかったよね。

そういう意味では映像の力、
一本の映画が与える力、影響力ってスゴイ。

たった二時間弱で、多くのことをたくさん考えさせてくれて、
たくさんの人の立場、人生を教えてくれる。
(写真もまたたった一枚で真実を伝えてくれたりする)

画像4

とはいうものの、
「精神医学の分野」「心の医学」が
発達したのが近年だっていうのも大きい。
この辺りが飛躍的に発展したのって、本当に最近で。
戦前なんてとんでも理論で妙ちきりんな治療をしてたり、
ありえない非人道的なマッドサイエンスティックな
ロボトミー手術なんてのもほんの少し前まであったし。

今でこそトラウマって、誰でも知ってる用語だけど、
PTSDも、全国区で周知になったのは、
日本でも地下鉄サリン事件以降ではなかろうか。

日本は太平洋戦争以降は戦争に参加してないから。
帰還兵のケアサポートとかの必要性はなく、
社会復帰できない彼らによって引き起こされる、
犯罪が社会問題になることもないからね。

(ただ、
湾岸戦争に派遣された自衛隊の人たちは、
あくまで後方支援的立場であり、ドンパチをしなかったとはいえ、
緊張感あふれる、いつ巻き込まれるか判らない状況下で、
様々な心理的圧迫から、精神的ストレスを引き起こし、
鬱、不眠ほか、ケアサポート要な人が多発したみたいだ。)

画像8


とはいうものの、太平洋戦争から帰還した日本兵が
肉体の障害や後遺症だけでなく、
様々な心理的問題、精神疾患を抱えることになって、
苦しんだってのはたくさん後に語られてもいるんだけど。
フラッシュバックで暴れたり、幻聴や不眠に悩まされたり、
家族に暴力をふるったり、あれやこれや・・・
※映画とかドラマとか小説とかコミックとかで描かれてる。

けど、当時はそれを問題視する世相はなく、
国も国民もそれどころではなかったというべきか。
そういう意味では、どんな時代にもどの国にも
どんな戦争においても、あった問題で、
遅まきにして今さらながらようやっとな感じなのかな。

でも、まあ・・・
生きて戻ってきて、治療を受けられる人は、
まだ救いの道が残されてると言えるのかも知れない。

自分の苦しみの理由、原因が分かるから。
何よりも当人自身が知っているし、
周囲にも説明できるし、理解もしてもらえる。

PTSDから解放されるか否か、完治するかどうかは別として。

画像6


だけれども、
戦地に行って、そのまま亡くなってしまった人は、
生まれ変わって、平和な国、平和な時代に生まれたものの、
平穏な日常の中、とくに何もない生活において、
自分が何故、そのような症状を抱えるのかが分からない。
心の中に広がる不安や得体の知れない恐怖感、
自分の中に巣食う闇の正体が・・・
自分を苦しめる見えない敵の存在が分からない。

現実には何もなく、
親も普通で、とくに問題のない家庭に育ち、
これといった心当たりもないのに、
フラッシュバックに悩まされたり、悪夢に魘される。

それ故に周囲にも、家族にも理解されず、
誰かに説明するにも、自分自身が一番理解できず、

自分は狂っているのでは? 病んでいるのでは?と悩み、
原因の分からない、根拠のない行動規範や無意識の癖、
それらは関わる人を悩まさせ、
周囲との間に軋轢や壁を生じさせもする。

深い、深い、孤独の中、
奈落の底に沈むような閉塞感をもたらして。

その人自身が、他人とは違った自分の異常に気付き、
問題に取り組めば、まだ光明が見つかる可能性もある。

画像7

が、自分の内に閉じこもり、
理解されようとも思わず、問題意識も持たない場合、
その傷や問題を手放すに相当な時間と年月が必要になるだろう。

実際、当人も気づかない「心の傷」を抱えている人はたくさんいる。

無意識の思い癖や考え方の癖に人生を支配され、
深層心理の中に植え付けられ、刷り込まれた「恐怖」がある故に、
心をこじらせ、不要なものを引き寄せ、人生で多くの寄り道をし、
望む人生を生きれずに、本来の自分を生きれずにいる人が・・・

そういう人たちは、
ほんの少し立ち止まって、自分について考え、
自分の人生を邪魔しているものが何であるのか、
それが自分の中にあるものだと、
自分の中に要らない考えや想いがあることに気づいて、
それらと決別する、ほんの少しの勇気を持って、
自分を、人生を変えてみようと決心するべきなんだろう。

過去生の記憶を紐解いてみるのも一つの方法だが、
別にそれをしなくても、他の方法でも何でもいいのだ。

今の人生を生きるのに余計なものがあるかどうか、
それらを見つけて、手放す努力をすれば、
それがきっかけで、きっと何かが動き始めるだろうから。

画像8


友人との会話で、
ご主人に奇妙なクセがあることを聞かされた。

「とにかく神経質で、
物の配置がいつも同じところにないと怒るの。
そして物音にものすごく敏感で、
真夜中に何か音がした時とか、わざわざ起きて確かめて、
異常がないと確認出来るまで、絶対に寝ないのね。
家鳴りとか、家の外で木の葉が落ちる音でもダメなの」

少し他にも気になることがあったので、
彼・・・友人の旦那さんの過去生を見てみようと集中してみると、

ジャングル、密林のように木々が生い茂った場所で、
迷彩服を着て、張り詰めた緊張感でひきつったような、
恐怖に怯えた顔をしている旦那さんの姿が見えた。

『これってベトナムだ。
そして旦那さんはアメリカ兵だったんだ』

過去に何本かの映画を見ていたので、
軍服や状況ですぐにそう理解というか推察できた。

ここから先は

3,291字 / 6画像
この記事のみ ¥ 100

もし、こちらの記事を読んで頂いて、面白かった、参考になった…とそう思って下さったり、サポート下さいましたならば、心から嬉しく思います💛