'Impossible is Nothing.'と'Easy does it.'の文法的説明の試み ━『英文解体新書』のuseとmentionを用いて
前回のカタールで行われたサッカー・ワールドカップでもちょくちょく見かけましたが、adidasの有名な広告に'Impossible is Nothing'というのがありますよね。
これはもともとはモハメド・アリの言葉から来ています。
しかし'Nothing is impossible'「何も不可能なものはない」ではなく、'Impossible is Nothing'なのはどういうことなのでしょう?
このコピーの文法的な説明をネットで調べてみると、いろいろな解釈が散見されます。多いのは、Nothing(S) is(V) impossibe(C).を強調のために倒置してCVSになっているとか!?ただこれぞ決定版というのはないようです。
そこでここでは私なりの文法的説明を試みたいと思います!
まずこの言葉のニュアンスを理解するには文脈が大切なので、以下に全文を引用します。
ポイントは、'Impossible is Nothing'が出てくる一文前の、it's okay to believe there is no can’t, won’t or impossible'(できない、やらない、不可能、なんてものはないと信じて良いのだ)の箇所。このcan'tとwon'tは助動詞ではないし、impossibleも形容詞ではないということ。それぞれcan't, won'tそしてimpossibleという単語のことを指していて、名詞なんですね。
すると同じ構文を経た後にくる、'Impossible is Nothing'のimpossibleも同じく形容詞ではなく名詞だと思われます。すなわちImpossible(S) is(V) Nothing(C).の第2文型SVCで、「不可能なんて言葉は何ほどのこともない!」と。
これは北村一真先生の『英文解体新書』に出てくるuseとmentionという考え方に相当すると思われます。
同書ではどのような単語も実は名詞になることがある、として'Beautiful is an adjective.'(beautifulは形容詞である。)という例文を挙げ、次のような解説がなされています。
そして言語学者John Lyonsによる、単語を文法上持っている機能や役割通りに使うことをuse、その単語そのものを指すような形で使うことをmention、として区別する見方を紹介しています。
この考え方でいえば'Impossible is Nothing'のimpossibleはここでは形容詞としてのuseではなく、その単語そのものにmentionしていると解釈できそうです。「不可能って言葉は何でもない!」
ところで、今回、このnoteを書こうと思ったのは、先日、
こちらの投稿のコメント欄で、はなさんからホームステイ先で見られたという'Easy does it.'という面白い表現を紹介していただいたことがきっかけでした。
これ自体は辞書にも出ている慣用表現で、
はなさんの文脈だと、「ゆっくり(ドアは)閉めてね」といった意味になりそうです。
この'Easy does it.'のeasyは形容詞・副詞または間投詞としてuseしているのではなく、easyという言葉にmentionして、Easy(S) does(V) it(O)というSVOの第3文型となっていると解釈できそうです。つまり「ゆっくり(easy)が上手くいくよ」と。
この'Easy does it'についてもこのような文法解説はすぐには見当たらなかったのでここに記しておきたいと思います!
【追記】
その後、著者の北村一真先生からmentionをいただき以下のnoteを書いています。
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