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【岡山大英語】入試英語の実際【入試出典研究】

普段岡山大学医学部受験生を中心に指導しているということもあって、共通テストに加え、その二次試験の問題は毎年研究している。中堅国立大学の英語入試問題ということで、いわゆる最近の「受験英語」の特徴も色濃く反映していると言って良いだろう。

「受験英語」や「学校英語」は近年のみならず明治以来定期的に批判の矢面に立たされている。いわく、実際には役立たない古臭い非実用的な表現ばかり教えている、試験に受かっても生きた英語は身につかない、などといった具合に。確かに、塾講師としてこの業界に長年関わってきて、「受験英語」に改善すべき点が少なからずあるのは重々承知しているし、できるかぎり自らもアップデートしていきたいと思ってもいる。

一方で、そういった批判をする側も、現在の受験の実態を知らずに、空想上の「受験英語」を藁人形論法で攻撃していることが少なくない。批判すべきはそこじゃないんだけどな、と思うこともしばしばある。

そこでこのnoteでは、一例ではあるが、2023年の岡山大学二次試験大問1の長文を使って、現在の入試英語の内実を具体的に検討してみたい。

(設問パートも気になる方は上のリンクの赤本などをご参照ください)

長文問題の原文は"The Guardian"の'The big idea: have we been getting sleep all wrong'(2022)という記事を出典としている。

ガーディアンはイギリスを代表する日刊紙の一つで、ある程度教養のある一般人が日常的に読むレベルの文章であり、他大学も含め現在頻出の出典元の一つと言えるだろう。

ガーディアンから出題するというのは、学問を志して国立大学に進学する有為の者ならば、このぐらいは読めて欲しいという大学側からのメッセージということもできるだろう。内容も、2022年発表の新しいもので、一般にも関心の高い「睡眠」に関するものだから、これをもって「受験英語」は古臭くて「生きた英語」でない、非実用的だと言うのは無理があるだろう。

ただ大学入試問題で特筆すべきはこういった出典をそのまま読ませているとは限らない点にある。

実際この問題も原文をいくつか入試用に改変している箇所がある。そこにこそ「受験英語」の特徴があらわれていると言えるのではないだろうか?

ここでは以下に実際に出題された長文の第一パラグラフを原文と照らし合わせて改変箇所に注目していきたい。

ガーディアンの該当web記事より引用

①導入部の省略
一つ目は、入試問題冒頭部では'What we can be sure of is that'(「確かなことは」)が省略されて、

Sleep is critical for good health.(入試)

からはじまっている。

ここについては実はこの前に原文では導入の一段落があって、そこが省かれている関係で、このフレーズも除外されていると思われる。

上がその原文の導入部で、実際に読めば分かるように、loathe, dubiously, disdainといった語彙レベルも高いし、'there remains a lingering disdain and suspicion'のような倒置の構文も使われている。

この記事を書いた筆者Russel Fosterは概日リズムの専門家で、おそらくポーやエジソンの睡眠に関する引用も絡めて読者の関心を惹けるよう工夫した書き出しをしたのであろうし、また新聞英語らしさが存分に含まれている箇所でもあるので、この「省略」には、受験生のレベルを意識し簡略化された「受験英語」の特徴があらわれていると言えるだろう。

②オックスフォードコンマと専門用語
次に取り上げるのは、

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