SCOOP Wholefoodsの展開から、地球に優しい消費のあり方を考える
オーストラリア発の量り売りの自然食品のお店、SCOOP Wholefoodsがシンガポールに一号店を出したのは2019年。オーチャードから少し外れたタングリンモールのショップでした。それが2021年7月現在、シンガポールには5店。この8月末にはシティホールのラッフルズシティに6店目がオープンする予定になっています。
私はシンガポールに住んでいるのですが、ドンキホーテ(シンガポールではDon Don Donki)、MUJI、Daiso、ユニクロなど多くの店舗で展開している小売店がいくつかあります。コロナ禍で観光客がほとんどいなくなった状況でも、ローカル顧客の需要を満たしています。そんな中でこのSCOOP Wholefoodsというお店がなぜこんなに人気になっているのかに関して考えてみたいと思います。
まず、このお店の名前についている“Wholefoods”という言葉なのですが、これは、オーガニックフードとか自然食品とかの意味でも使われているのですが、「ありのまま」の食品で、加工をしていないものを指しています。英語の“whole”という単語は、「全体」という意味ですね。「健康な」という意味も含まれています。
このお店は2013年にそれまでマルタに住んでいた夫婦がオーストラリアのシドニーで始めたのですが、最初から、人間の身体のためによい食品ということだけでなく、地球環境にもよい消費ということを考えていたようです。人間という存在が、地球という大きなエコシステムの中の一部であるという考え方がこのブランドの根底にあります。
昨今、SDGsとか、ESG(Environment, Society, Governance)とか、地球環境に対する視点が重要になってきています。プラスチックをやめようとする動きとか、過剰包装や、食品ロスなどに対する注目が高まってきています。こういう動きは、世界的には、ヨーロッパが率先しているのですが、オーストラリアは、意識的にはヨーロッパと直結していると言ってよく、オーストラリアとはかなり関係の深いシンガポールには、こうした動きがすぐに入ってきます。
SCOOP Wholefoodsの人気が高まっているのは、こうした背景があるのだと思います。単に自分の健康にいい物を買うというだけでなく、その消費が地球環境を守ることに結びついていると思えることが重要になってきています。個人の消費は、地球環境全体に比べればあまりにも小さいので、消費と地球環境を結びつけて考えることを大半の人は最初から諦めてしまっています。しかし、たとえ目に見える形での影響はないにしても、こうした動きに賛同していくということが大切になってきているのです。
このお店のメインの商売は、食品素材の量り売りです。自分が必要な量の食材を購入することで、食品ロスを少なくしようということに貢献しています。さらに、余計な商品容器や梱包を不要にすることで、ゴミを減らし、地球環境に優しい消費を可能にしています。
メインは食品なのですが、実はこのお店は、食品だけでなく、雑貨や、台所用品、浴室用品などの品揃えも充実しています。それを眺めているだけで楽しくなるのですが、環境に優しい素材を使っているのはもちろんですが、デザインも素晴らしく、機能性もよいのです。食品以外のグッズ関係だけでも単独で店舗展開できそうな雰囲気です。
SCOOP Wholefoodsの英語のサイトに、“Convenience vs Sustainability”という文章が出ていました。それによると、彼らの調査で、81%の消費者が環境問題の大切さを認識している、しかし、60.4%の人は、手軽に買えて、しかも値段が同じだったら環境問題に配慮した商品を検討してもよいと考えている。さらに、14.6%の人は、価格や利便性に関係なく、環境に配慮した商品を選択すると回答したそうです。日本で同じ調査をしたら、この数ははるかに少ないのではないかと思います。
また、彼らが目指しているのは、環境問題だけに留まりません。“Ethical buying”という言葉が使われているのですが、直訳すれば「倫理的購買」ということになります。「フェアトレード」という概念は以前からありますが、調達先の労働状況なども含めての概念に、いい意味で拡大解釈しています。“Ethical buying”はほとんどの場合、価格は高くなってしまうのですが、それに対して消費者がお金を払ってくれるかというのが問題ですが、消費者に伝えて、理解者の数を増やしていくことが重要だと述べています。
SCOOP Wholefoodsの場合、価格はできるだけ抑えたいと考えているようですが、値段を適正値段より下げることはフェアトレードを犠牲にすることに繋がるので、そこは慎重に判断したいということでした。
先日、ある勉強会で、「人権デューデリジェンス」ということについて学んだばかりですが、強制労働とか、人権に関わる調達を排除する動きが世界的なトレンドになっています。
こういうトレンドを簡単に図式化すると、こんな感じになるのかなと思います。
消費者が商品に対してお金を払うのは、従来は、機能やデザインに対してがほとんどでした。例えば、洋服でしたら、着心地がいいとかの機能、そして見た目のかっこよさ。そこに「ブランド」という要素が加わります。有名なブランドだったら、高い対価を払ってもよいと考えるようになりました。そして「意味」と、とりあえず書きましたが、それを買うことでどのような意味があるか、意義があるかという消費です。
商品やグッズのカッコよさは、デザインや機能や、ブランド名だけが作るのではなく、その会社の社会的な考え方も大きく影響しているのだなと思いました。環境への貢献とか、人権への配慮とか、企業の社会的な考え方に対してお金を払うという消費がこれからは増えてくるのだと、このSCOOP Wholefoodsというブランドのあり方を見て、思った次第です。
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