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忍殺トリロジー感想/書籍第三部(2)『死神の帰還』(下)

◇注意◇

現行AoMシリーズからニンジャを読んだ人が、
旧三部作(トリロジー)に戻って色々読んだ感想記事です。
感想の中でAoMのお話もします。

こんばんは、望月もなかです!
行きつ戻りつの春、いつまで灯油を買い置くのかが目下の悩みです。初夏の陽気になったかと思えば、今度は冷たい風に身を縮める日々。冬コートとウインドブレーカーをとっかえひっかえしております。心身ともについていくのが大変ですね。皆さまもお体に気を付けてお過ごしください。

さて、物理書籍14冊目の感想もラストです。今回は三本立て。わらしべゾンビと、アングラ育児日記と、ヘッダー画像の……アレですよ!

前回感想はこちら。

◇◇◇

今回読んだのはこちら。

ニンジャスレイヤー第3部 ♯2/死神の帰還(下)

「取り留めのない話」は無目的な男に人生を与え、寄せ集めの怪物たちは迷子の赤子に名を与える。拠るべきなき者たちはめいめいが己の心のままに奪い奪われ与え合い、今宵もネオン煌めく電脳都市で生を謳歌している。

【アナザー・ユーレイ・バイ・ザ・ウィーピング・ウィロウ】

カソックコートに腐臭を隠したジェノサイドは、重金属酸性雨の闇から闇へ。今宵の彼は手にした何かと引き換えに、次の依頼達成のための何かを受け取り、スゴロクの逆回しめいて来た道を順に戻っていく。

ジェノサイドさんエピソード!
元気にやっているみたいで嬉しいです。

ホームレスの段ボールハウスから、分厚い封筒を取っていくジェノサイドさん。
分厚い封筒を浮浪者に渡し、木彫りのコケシを手に入れるジェノサイドさん。
木彫りのコケシをコケシ工場の中年女性に渡し……

アイテムをキーに、次々と場面が切り替わっていくのが面白いです。昔ばなしを読んでるみたい。
ひょっとして「わらしべ長者」のような話なのでしょうか?
もっと的確な物語類型があるような気がするのですが不勉強にして思い当たりません。

……と悩みながらアーカイブ版の【N-FILES】を読んでみたところ、イギリスの昔話「ネズミのしっぽ」が発想元とのことでした。なるほどね。

「わらしべ」と同系統の類話みたいです。民話って面白い…

民話、調べれば調べるほど楽しくて好きです。

ジェノサイドはカラテ警戒を解く。そしてアイサツした。「ドーモ。キャプテンジェネラル=サン」「フーム。フーム。ドーモ。ジェノサイド=サン」

キャプテンジェネラル、どこかで見たことある。

が、Kindle合本版によれば本エピソードが初出でした。
でも確かに見覚えがある気がするんですよね……AoMのスレイトとか?

見つけました。

老人は立ち上がった。そしてショットガンをザックに向けた。「名前を言ってご覧、子供」「ザ……ザカリー。ザックって呼んでる。みんな」「ドーモ」老人は片手でショットガンを構えたまま、ニンジャのアイサツをした。「ワシはキャプテンジェネラルじゃ」

AoMスレイト【ネオサイタマ・アンダーグラウンド:ザック】より

地下で白い巨大ワニ(白い巨大ワニ!?)に襲われたザック少年を助けてくれた、風変わりなご老人。変なひとでした。十年後もご健在なんだ……というかニンジャなんですね!? ただの狂人かと思っていました。

 (((最後のお世話、アリガトウゴザイマス))) ジェノサイドはユーレイを見た。ユーレイはジェノサイドを見た。そして、申し訳なさそうに、弱々しい笑みを浮かべた。

ほら〜またそうやって! ジェノサイドさんはすぐに女と儚い縁を結んでは、自らそっとほどいて去っていくんだから。ズルい男ですよ!

◇◇

【アンタッチド・ベイビー・アンド・シーワー・モンスターズ】

キョートから戻ったサヴァイヴァー・ドージョーは、ネオサイタマ地下の下水道網に潜伏していた。彼らのもとに偶然流れ着いたのは、ピンクのバイオ培養カプセル。カプセルの我が子を託し事切れた母の遺言に従って、ハイドラたちは「モタロ」と名付けた赤ん坊を懸命に育てるのだが…

前に書籍限定エピソード投票でも上位に挙がっていた、サヴァイヴァー・ドージョー×子育てエピソードですね。読んでみたかったので嬉しい!

サワタリはバーガンディ色の小さな強化合皮製キンチャクを懐から取り出し、投げ渡した。

バーガンディ色って何かと思ったらワインレッドのことなんですね。知りませんでした。勉強になる忍殺シリーズ。

「ドージョーの目的を忘れたか? 自由そしてサヴァイヴ。我々が日々生存しているだけでも、奴らに対して勝利している

ここ最高でした。
ドージョーが存在する目的と勝利条件を正確に把握しており、集団を統率する方針に一貫してブレがないところ、さすが大将って感じです。

「日々生存しているだけで勝利している」っていい言葉ですね。そう。日々を生きている、ただそれだけで我々は、我々をナメくさってる奴らに常に勝っているのですよ! タフに、不屈に、この精神で生きていきたいものです。

病院に非合法併設されていたバイオエキス・プラントで暴走事故が発生

なんで総合病院に非合法プラントが併設されてるんですか? おかしいでしょ……ヨロシサンさぁ。おかしいよ。

「モタロ伝説だ!」

もしかして「桃太郎」のこと? どんぶらこっこすっこっこの? 「ドラキュラ」といい、私たちの世界に存在する、いくらかのフィクション作品は忍殺世界でも知られているんですね。形は少々変わっているようですが。「フランケンシュタイン」も存在してそう。

それはメタファーに富んだ旧い時代の物語だ。オニの支配下で搾取されていた老夫婦が、ある日、巨大な桃を川で拾う。

いきなり冒頭から偽史桃太郎だった。何かが違うぞ。

成人したモタロは三匹のしもべ動物……モンキー、猟犬、孔雀を餌付けして従えると、オニの本拠地に進攻した。

孔雀

そしてオニを皆殺しにして財宝や姫を奪い、老夫婦のもとに帰ってきたという。

う、うん。だいたい合ってる。合ってるのか?

人間の赤子を前にして盛り上がるハイドラ、セントール、カマイタチ三人組。ツッコミが不在のまま盛り上がっていく育児論に終始ハラハラしていました。大変だ。誰か早くツッコミ役を連れてきてディスカバリーさんとか!

やがて彼らの無謀な企みは、キャンプ帰還から数時間も経たぬうちにフロッグマンに看破された。

よ、よかった。
GJグッジョブフロッグマンさん。きみだけが頼りだ。

火炎放射器を背負ったバイオスモトリが出てきたので、もなかさんの目が死んでいます。何がドッソイヨロシサンだ下水汚染されてしねばいいのに…

サワタリの腕に抱かれて哺乳瓶ミルクを与えられるベイビーの笑顔

サワタリさん育児もできるんですか。
マジでなんでもできますね。

しかし同族嫌悪的腐れ縁関係にあるフジキドさんは実子を失ったのに、サワタリさんはニンジャ化したあと嫁こそ得られないものの家族を増やしながら育児まで経験してるの、残酷ではないでしょうか……うぅ…。

「ファーリーマン、人間に近い。インゴット、あまり減らない」

ファーリーマンさん、人間に近いんだ!?
意外。あんなにフサフサもふもふで可愛いのに。

「「「ドッソイ! ヨロシサン!!!」」」防疫スーツ・バイオスモトリが、害虫駆除用の火炎放射器を背負って現れる。ナムサン!

ねえサトル~~ねえねえねぇ~~! バイオスモトリをリストラしてよ~~! はやくCEOになってさぁ! こいつら全員クビにしてよお! 株主会議で投票したげるからさぁ!!!

脱出するや否やエルトリアトさんをカラテで圧倒して勝負を決める大将がめちゃくちゃ格好良かったです! 大将強い! 迅速! 指揮も的確!すてき!!

ご無沙汰だったドージョーの皆さんが元気にやっていることもわかりましたし、ほのぼのでありながら人情も戦闘もあり、認識タグの小道具でオチまでバシッと決まった良いエピソードでした。相変わらず小説がうまいな~!
面白かったです!

そうそう。
うろ覚えですけど、AoMになってからモタロくんとドージョーの後日談がスレイトで更新されていましたよね? トリロジー読破後に読もうと思っていたのですが、ますます楽しみになりました。

◇◇

【ノーホーマー・ノーサヴァイヴ】

暗殺野球のプロフェッショナル、サブスティテュートの身体は限界だった。潮時だ。引退試合の標的に選んだ大物ニンジャスレイヤーが退職金代わりだ。……だが敵側のハッキングにより、一回表で不戦勝、という当初の目論見は崩れてしまう。問題ない。圧倒的優位は変わらぬ。彼は暗殺野球のプロフェッショナルだ。ならばなぜ、必殺の打球は幾度も飛翔し、サブスティテュートの頭上を超えていくのか……!?

というわけで伝説のニンジャ野球回です。
実は2020年2月のTwitter再放送のときに一度読みました。記念すべき私の初実況エピソードであり、実に3年ぶりの再読です。懐かしいですね。
私のニンジャ歴も長くなりました。思えば遠くに来たものです。

ドーム天井に描かれた聖ラオモトの禍々しきブッダ戦士図面がチバ君の美的趣味なんだったらちょっとヤだな。違いますよね? 普段のお召し物はスマートなので趣味の良い方なのだと勝手に思っていましたが…

ファースト、セカンド、ショート、レフト、ライト、センター……各ポジションでグローブを構えるのは完全武装のサイボーグ野球ヤクザ達だ。

は?
スタジアムにいちゃダメな奴でしょ。武装してる人間は出禁だよ、しっしっ! スポーツマンシップがない生命体はハウス!

「シューフフフ……(略)ニンジャのスポーツマンシップは甘くねェぞ……」そして彼はピッチャーマウンド上のニンジャを見やった。「楽しくなるぜ……」

チッ……(リアルで舌打ち出た)

な~~~ンにも楽しくありませんがァ!? な~にがニンジャのスポーツマンシップだ! 楽しくありませんが! 何も楽しくありませんが!!??

「絶望しろ。奴は……サブスティテュート=サンは暗殺野球のプロフェッショナルよ」

だから暗殺野球ってさぁ!!

「奇遇だな」(略)「私もオヌシらを、このスタジアムから生かして帰そうとは思っておらん」

フジキドさんもおかしいよ!!!!!!!!!

ハァッハァッ……冒頭だけで理不尽に抵抗しすぎてパワーレベルがレッドアラートしている!! 「生かして帰す」とか言う前にまず! スタジアムに! 立ってるのがおかしいですからね!!

私は騙されないから!!! 

クローンヤクザ、それも野球用にサイバネ強化された個体群

うるせーーーーーーっ!もうやだ!!俺は自室に帰らせてもらう!

 サブスティテュートが片脚をほぼ真上、垂直に高々と上げた。砂埃が舞い、その輪郭がぼやける。ニンジャスレイヤーは己の心臓の鼓動を聞いた。
 ゴウ! 砂埃が渦を巻き、次の瞬間には、フォートレスのミットがズシリと音を立てていた。フォートレスはキャッチ姿勢のまま一フィート後ろへ滑っていた。

死ぬほど文章が上手い。上手すぎて逆にむかついてきた……
そうやって私を翻弄してさ……いったい何のつもりだよ!

死……何ッ!?」フォートレスは喝采しかけて凍りついた。

セリフ冒頭からダウトじゃん。
せめて体裁だけでも野球をしろ! 頼むからさぁ!

「死ね!」フォートレスは球をキャッチし、ニンジャスレイヤーの脳天を叩き潰そうとした。

だから!! セリフがおかしいんだよ!! もうやだ! こんな狂った世界は私が壊さなきゃいけないの! だからこの爆弾が必要なのッ! お兄ちゃん止めないで!!

(あらためて野球というスポーツについて、説明しておきたい。

野球のルール解説を虚ろな瞳で追いながら、心が全身の毛並みを逆立ててやんのかステップをし続けています。

ニンジャスレイヤーは呼吸を整えボードを眺める。長い戦いとなろう。スリーアウトで敗北。さりとて出塁もまた敗北。許されるのは本塁打のみだ。それによってこの一回表で128点を取り、UNIX計算システムに極度負荷を与えて爆発させ、以てコールドゲームとするしかない。

あまりにも完成された1ツイートであり「今回のあらすじ」であり、ニンジャスレイヤーという物語の異常性を端的に表した一節だと思います。

実は私の感想記事中にいつも入ってる「あらすじ」は毎回それなりに頭をひねって考えていたりするんですけど(深く考えずさらっと書いている場合もあります)、この話に限ってはもう、上記の一節がすべてですからね。

悔しいけど完敗です。

どこからともなく球場スタッフがグラウンドに現れ、二塁手ヤクザの死体をストレッチャーに載せて去ってゆく。

……ほんとムカついてきた。死者が出たら試合は終わりでしょうが。
それもルール説明に記載しておくべきじゃないですか? ルール以前の問題? それはそう(だったら試合を中止すればいいでしょ!?)

フジキドさんがショックを受けた誓約書、あまりにあまりな内容すぎて、何でそんなクソみたいな偽造誓約書の言うことを聞いてノコノコ現れたんですか? とAoMマスラダを通り過ぎた今、どうしても考えてしまうんですよね。マスラダくんだったらその場で破って焚火に放り込んで芋焼いて終わりだから…(それもどうかと思いますが……)

ギリギリのところでこの契約は妥当性を持ち、成立してしまっている。

成立してないよ!?
地の文さん、たまにキッパリ言い切ることで押し通してこようとしますけど、私は納得しませんからね?

「悔しいか? お前は野球で死ぬのだ! カラテではなく! スポーツで!

スポーツではないでしょ。

「これはイクサだ」

はなからスポーツする気で来てないこの人もどうかと思いますけど!!

「グフフフフ……お前の背中が小さく小さく、頼りなくなってきたぜ……」フォートレスが嬉しそうに言った。「次で終わりだ。ボールフォアでお前の人生もゲームセットよ

うまいこと言ってやったみたいな顔してて腹立ちますわね。こういう奴がオッサンになってからオヤジギャグを心の底から面白いと思いながら連発するようになるんだよ!(きめつけ)

ずっと虚ろな目で試合の運びを読んでいます。
マスラダくんこの記憶見たことあるんでしょうか。ねえどう思う? マスラダくんの感想が聞きたい。ガーランドさんと一緒に副音声でノーホーマー回のオーディオコメンタリーやってほしい。

「「ザッケンナコラー!」」ベンチの控えヤクザがチャカ・ガンを一斉に構える!

いい加減にしろ!!!!!!!!!

勝機はどこにある? ラクダの通る針の穴はどこに! どこにある!

急に見慣れない比喩が出てきました。「ラクダの通る針の穴」…英語の成句でしょうか。

聖書だった! 
勉強になる忍殺。ただ、フォートレスさんの言いたいこととあんまり共通点がないような気もします。それとも仏教由来の言い回しが私たちの生活に根差しているように、英語圏では「不可能なこと」の比喩としてかなりカジュアルに使われているのでしょうか。たまに出てくるこういう箇所、翻訳小説ならではのポイントで面白いですよね。

ニンジャスレイヤーは己を強いて球を打ち上げ続けた。彼は捨て鉢になってはいなかった。(略)必ず勝つために。卑劣なお膳立てを企てたニンジャを後悔させるために。過去の己に克つためにだ!

こんな試合(?)にノコノコと参加した過去の己をまずは何とかしたらどうですか? と思ってしまうのですが私って冷たいのかな……フジキドさんのことは大好きなんだけど……でも……

一方、サブスティテュートには誇りと矜恃があった。それは火鉢の底に埋まった炭めいて、一度は灰にまみれた感情だ。

マウンドに螺旋状の砂煙が渦巻き、紫のエンハンス光が闇を裂いて残像を描く。やや遅れて、質量が空気を貫く音が鳴り響いた。(略)小刻みにブレながら飛ぶボールは残像と並行し、渦巻くようにキャッチャーミットをめがけた。

ほんとに文章が巧くてむかつく!
素晴らしい文章を読まされると降参しそうになるから悔しい!ア゛ー!

「流石ね」ナンシーは微笑んだ。「本当に128点取るなんて。一人で」

微笑んでるナンシーさんも大概おかしいよ。

ニンジャスレイヤーは敗れたドーム天井から差し込む朝日を見上げた。そして言った。「一回表、コールドゲーム、勝利チームはニンジャスレイヤー。……以て試合終了だ」

このラストのセリフ、エピソードの〆として一つも付け加えるところも引くところもなく完璧オブ完璧な一文なんですけど、それはそれとして(なんだこれ……)という思いを抱いた記憶は大切に抱えていきたいです。

3年前、初実況でこの物語を見届けたときの初見感想です

変な話でしたよね……。


以上です!

◇◇

おまけ

手書き感想ノートを端末カメラで撮っただけのやつです。記事では取り上げなかった細かな感想メモや、こんな感じの

ちまちましたノート隅の落書きがたまにあります。

補足代わりにどうぞ。

今回はここまで。
今後の予定ですが、物理書籍次巻に行く前に、ナビゲーターの夫くんから連載版の【ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード】を読んでほしいという希望をもらっているので、次はそれを読もうと思います。
ではまた、次回の感想でお会いいたしましょう!

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次の感想はこちら。

【感想目次】



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