その「一度きり」にわたしたちは、「自分が選んでいまここにいる」。担当チームのJ2降格を見届けた日の取材裏話など
わたしが担当している大分トリニータは、11月20日のJ1第36節・アウェイ鹿島戦に0-0で引き分けて、来季J2降格が確定となりました。今季はずっと苦しい状況が続いていたのですが、その日々を踏まえて見るに、ものすごくエモい試合でした。チームは今季、本当につらかったと思う。残りリーグ戦2試合と天皇杯、今季の意地を見せてもらいたいです。
昨季来、コロナ禍でアウェイ取材に行く記者仲間もほとんどいなくなっていたのですが、ここ2、3試合はみんな復活してきて、ちょっとうれしかった。鹿島で降格が決まって、試合後にみんなで協力して取材して。そんな裏話など、少しお届けしたいと思います。
ひさびさの“ツレ”がいる道中に、欠かせぬおやつは「ぴーなっつ最中」
コロナ禍以後、アウェイも全試合取材に出向くのはほぼわたしと大分合同新聞さんだけになっていて、緊急事態宣言発令中はその合同新聞さんも現地取材を中止。どの社もコロナ禍で感染を警戒したり、またコスト削減せざるを得ずに、記者自身は来たくても来れない事情があったり。対戦チームの記者さんたちにも仲間はたくさんいますが、やっぱりビジター側記者が一人というのは少し心細かったのでした。
ここ最近は世の中の制限緩和への動きも受けて、アウェイ取材記者が戻ってきつつあります。シーズン終盤ということもあって、今回はおそろしくひさしぶりに、往路のみ同業者と連れだっての道中となりました。羽田からレンタカーで鹿島まで爆走。こっち方面に来るときのルーティンとして、酒々井SAでの「ぴーなっつ最中」の買い食いも、ちゃんと遂行できました。可愛いんですよこれ。是非お試しあれ。
わたしは普段、取材現場以外で仕事仲間とダベることをあまり好まないのでたまたまこういう機会があると情報交換で盛り上がります。コロナ禍で廃業や転職した仲間の近況、フリーランスのライターとはお金持ちにはなれない職業だよねえという共感(?)、サッカー以外の仕事ってどうよ的な話などもしながら、もちろんメインの話題は今日の試合と試合後の取材や今季の総括について、なのですが。運転してくれたYくんどうもありがとう。
ひとつの電話に頭を寄せ合った試合後取材
今節にもJ2降格が確定するというシチュエーションだったので、そうならないことを願いながらも、リスクマネジメントとして取材の準備は整えておかなくてはなりません。最初にクラブに交渉すると「アウェイなのでちょっと難しいかも…」という返事。確かにアウェイゲームは対戦チームの運営なのでこちらの事情で動きづらいのですが、いやいやもしも降格した場合に、クラブからの公式コメントだけでは応援してくれているファンやサポーターに申し訳が立たないでしょうと交渉すると、もとよりその思いはクラブも同じだったので、試合後に電話で社長とGMにお話を聞けることになりました。
当初、クラブのほうが気を遣って一社ごとに10分ずつくらい、時間差で社長への取材スケジュールを組んでくれていたのですが、それだと社長も何度も同じことを答えなくてはならないし、効率的ではない。独自ネタを取るような状況でもないし、現地に来ている記者のみんなで割り当て時間をシェアして、電話をスピーカーオンにした状態で囲み取材しようと相談しました。そのほうが効率的かつ多角的に、より多くの質問に応えてもらえる。現地に来ていない人たちは独自に電話取材するでしょうから、読者にはのちほどいろんなメディアを読んで補完してもらえれば、ということに。
実際に話を聞かなくてはならない状況になったのは残念でしたが、晩秋の夕刻、冷え込んだカシマスタジアムの標高高い記者席で(メディア受付後に4階まで急な階段を昇ってさらにもうちょっと昇らなくてはならない、カシマは心臓破りの記者席です)、みんなでひとつの電話に頭を寄せ合って社長を囲むのは、昨季から孤独にリモート会見ばかりだった身としては、これもまたエモく懐かしい感覚でした。
ミックスゾーンというひさしぶりの「場」
社長取材を終えたらGMにも電話する予定だったのですが、急遽、GM取材はスタジアムで対面でということになりました。「すぐ下に降りてきてー」と大分の広報さんから電話があったので、バタバタとパソコンを畳んでみんなで急な階段を駆け下りて。鹿島さんも早くスタジアムを撤収しなくてはならないはずですが、こちらの事情を汲んで、取材用にミックスゾーンを開放してくださいました。昨季もコロナ禍の影響でリモート会見だったので、カシマのミックスゾーンを使わせてもらうのは、19年開幕戦、シンデレラストーリーの主人公として存在が全国にバレてしまった藤本憲明くんを囲んで以来です。片野坂監督体制でのJ1がはじまった場所で、J1チャレンジの終焉を突きつけられるという、出来過ぎなまでの物語。
頭越しにたくさんの腕が伸びてきてICレコーダーを構えるという構図も、あまりにひさしぶりです。最初の緊急事態宣言の頃、小池百合子都知事が「密です」とか言ってたときの、あの感じ。質問したのは数人でしたが、それぞれの視点から補完しあえてよかったです。これぞほんものの囲み取材。
自ら延長を交渉してくれたカタさんの男気会見
社長とGMの取材に先駆けて行われた試合後の監督・選手の記者会見は、通常どおりリモート形式。前日にクラブ広報さんから「チームバスが17時45分に出発するので会見の時間がほとんどないと思う」と連絡を受けていたのでそれなりの心の準備はしていたのですが、17時に試合終了してサポーターへの挨拶やらDAZNインタビューやら着替えやら済ませてから、45分までにどれだけの時間が確保できるだろうとドキドキです。
試合前から「今日決まらずに次につながってくれれば今日バタバタしなくてよくなるんだけどねー」「でも次節で降格決定してその直後にホーム最終戦セレモニー?それも難しくない?」的な目の前の仕事の段取りを相談しなくてはならないことが、J2降格という心の負担を軽減してくれたことは間違いありません。
降格が決まったのでロッカールームでの話も長くなったのでしょう。通常の会見はアウェイチームの監督からはじまるのですが、今節は相馬監督が先に出てこられました。その後、片野坂監督。めちゃめちゃ責任感じてて、なんなら一人で背負い込みそうな表情なのを心配しながら見守りました。出発まで時間がないので質疑応答は2人目までで打ち切られることになったのですが、片野坂監督は自ら、司会の鹿島広報さんに「まだいいですよ」と延長交渉。降格が決まったことでメディアに配慮してくださったのでしょう。それと同時に、選手への質問時間が短くなるように、もしかして選手を庇ったのかな…と思うのは深読みが過ぎるでしょうか。
そして、片野坂監督が「いいですよ」と席に座り直した瞬間に、zoomのマイクをオフにした鹿島の広報さん、さすがデキる。イレギュラーな状況でも舞台裏のやりとりをスマートに隠せる機転、こういう細かいところにビッグクラブのビッグクラブたるところを感じてしまいます。
おかげさまで充実の監督コメントが取れた代わりに、選手コメントは一言ずつのレベル。大分の広報さんがまた「選手にコメント取りたい人は個別に広報まで連絡ください、バス移動中に電話で連絡つけます」と気遣いのLINEをくれたので、記者席のみんなに「らしいよー!」とそれを伝えて、それからはそれぞれの作業。どうやら事故渋滞でさらに時間の余裕がなくなっていたようで広報さんもテンパってて、LINEの文面では「選手」と書くべきところが「戦士」になっていた。いやそれも間違いじゃないけどさ(笑)。
この緻密さこそがカタノサッカーの真髄、という試合
そうやってみんなで取材した数々を、わたしはこちらに記事として掲載しました。すべて無料公開ですので是非御覧ください。クラブオフィシャル情報コンテンツ「トリテン」です。
マッチレポートも是非読んでいただきたい、というのは、この試合にはこのチームがどうしてJ1に定着できなかったかがまるごと詰まっていたと感じたからです。2016年J3からカタさんの采配した全試合をわたしは現地で見てきたけれど、その中でもダントツに冴えた、テンションの高い采配だったと思う。この緻密さ、このバランスこそがカタノサッカーの真髄だと、いまは言える。そしてその緻密さゆえに、主力が入れ替わったチームを再構築するのに手間取った。選手たちも大変だったと思います。試合ごとの戦術的指示は理解できても、本当に細かいニュアンスや匙加減は一朝一夕では体現できないものだと思うから。
勝ちに行くプランはいろいろあれど、ピッチで選べるのはひとつだけ
でも、マッチレポートに書いたとおり、そういうチーム状態だからなおさらのこと、強豪・鹿島とのチーム力の差は歴然。そのパワーバランスも冷静に踏まえた上で「勝機を見出すにはこれしかない」とばかりにハラをくくった戦い方だったと、わたしは感じました。
絶対に勝たなくてはならないというシチュエーションで、世間の人はすぐに「どうしてリスクを負って攻めないんだ!」ともどかしがりますが、現実として今季のこのチームが、鹿島を相手に1点を失ったら2点取って逆転する力をどれだけ出せるか。それを考えたらとにかく失点しないことを優先して粘り、ラスト10分で攻撃陣を次々に投入して勝負を懸ける戦い方はとてもロジカルで、むしろ現実的だったと感じます。
それまでの時間帯の、守備のバランスを崩さずに好機を窺う戦い方も、実によくデザインされていたし、選手たちも効果的に動いていた。けれど、得点は生まれなかった。失点もしなかったけれど、強豪・鹿島に押し込まれて押し返すだけの力が、今季の大分にはなかったのでした。
他人のせいにしてしまったら自分の過ごした時間が無駄になる
もしかしたらもっと違うやり方もあったかもしれないし、違うやり方なら起用される選手も変わっていたかもしれない。だけど人生は一度きりで、その日という日は一度しか来ません。その中で、監督もスタッフも選手も、そしてわたしたちも、「自分が選んでいまここにいる」ということを、きちんと受け止めて生きることが大事。そうすれば自ずと矢印が自分以外に向かうことはないのです。他人や環境のせいにしてしまったら、なによりも自分の過ごした時間が無駄になってしまう。
そんなことを、わたしは、サッカーの取材を通じて体感してきました。つくづくメンタルが鍛えられる仕事であります。
もつ煮うどんがお腹に沁みた、シーズン終わりの帰り道
試合前夜がなぜかほぼ徹夜になってしまったので、スタジアムを出て仲間を駅まで送り、ひとりレンタカーでホテルに着いてからは速報だけ書き終えて気絶しました。朝起きて「やべぇ!」とエルゴラの原稿を入稿。
11時チェックアウトのプランを選んでいたつもりが、うっかり10時のプランだったことに気づいたのが9時30分。ひええ。髪はまだ濡れてるし部屋着のままだし。大体寝過ぎだろ!
慌ててホテルを飛び出し、帰りのサービスエリアで囲み取材の文字起こしの続き。レンタカーを返却して、マッチレポートは羽田空港と機内で書きました。ものすごい集中力だったとわれながら思う。そしてサービスエリアで食べた熱々の「もつ煮うどん」が、ことのほかハラワタに沁みた帰り道でしたよ…こうしてアウェイ取材中にコンビニ以外で外食するのもひさしぶりで。
それぞれの戦いを一緒に戦うという絶妙な距離感
来季J2での戦いに向けて、このクラブがやらなくてはならないことはたくさんあると思います。普段から大分トリニータを取材している番記者仲間たちは、こういういざというときの協力体制も取れるけど、もちろんそれぞれにライバルであるという意識もおそらく持っていて、それでいながらクラブに突きつけるべき質問や課題についてお互いに話しあえる間柄でもあります。
それは、似たような現場をともに経験していることでの積み重ねの賜物なのかもしれないし、それぞれのプロ意識のせめぎ合いなのかもしれません。
普段から仕事の現場以外で同業者とつるむことの少ないわたしですが、彼らそれぞれの個性あふれる仕事ぶりはかなりリスペクトしていて、だからこそ何かあったときには、それほど仲良く話したことはない人とも助けあえる気がしています。実際に機材トラブルなどで助けていただいたことも何度もある。いつもわがままで迷惑かけてごめんなさい。(いま言う)
そんな大分や九州の記者仲間たちですが、今年は転勤や担当替えで来季は一緒に取材できなくなる人が結構多い。ここ数試合の現場で「実は転勤に…」と言われて「えーーーーー!! 頼りにしてたのにーーーー!!!」ということが続いていて、なんだかそれもちょっとダメージです。
そういう背景もありつつ、リーグ戦残り2試合と、天皇杯を1試合、出来れば勝ち上がって2試合。それぞれの戦いを、一緒に戦いたいと思ってます。