夏の最期にお気に入りの野菜Tシャツを着た
外は寒かった。それでも「これが最後かもしれない」と思ってお気に入りのTシャツを着た。朝、玄関を出たときは、まあまだうん、耐えられると思って歩き出した。
月曜日の雰囲気を醸し出した火曜日。
歩くのが遅かったのか、信号に引っかかったのが悪かったのか、電車を1本乗り過ごしてしまった。それでも私は夏の終わり、お気に入りのTシャツを着ている。強い。
ちなみにTシャツはベージュ色で、中央にビタミンカラーのいろんな野菜たちがプリントされている通称、野菜Tシャツ。命名は私。可愛い。
1本遅れてやってきた電車は、最寄り駅には止まらない通勤快速だった。プアーー--っと目の前をすごい速度でホームを抜けていく。はっきりとは見えないのに、特急電車に乗っている人は止まっているように見える不思議。スーツを着てる人が多かった気がする。
電車が入ってくる先頭車両はまだ空いてる席があるのに、中央に行くに連れて人の数が増える。大学生のころ、「この現象に名前をつけよう」と友達と話したことがある。うーんうーんと二人で並んで友達が言ったのが「おにぎり」だった。具ということか。うまい。うますぎる。
次にやってきた各駅停車の電車に乗り込む。ぶおっと冷たい風が吹いた。エアコンだ。外よりも冷たい。外よりも冷たくて嬉しいのは、夏だけだ。肌寒い。いや、でもこれが野菜Tシャツを着たかった私が受けるべき宿命なのだ。仕方ない。
乗り換え駅で電車を降りると、ホームの温かさにびっくりした。ぬるい。知らぬ間に鳥肌が立っていた。冷たいからあったかいへ、あったかいから冷たいへ、ぶわっと立つ鳥肌は関西ではサブイボと呼ぶらしい。
仕事をして夜。会社を出ると外の冷たさにまたびっくりした。ぶわっとサブイボが立つ。小雨も相まってなかなかに寒い。空気が冷たい。
そうか。もう、夜も肌寒いのか。秋がそこまで来ている。濡れたコンクリートの匂いが鼻につく。雨の匂い。焼きすぎて焦げたクッキーがオーブンから漏らす匂いのよう。
そういえば私が持っていた折り畳み傘は、傘の部分が小さすぎて背負っていたリュックも、一人なのになぜか肩も濡れてしまった。
シャワーが暖かくてくしゃみが出た。
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