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「朝メシまで。」働く人たち

大学生のとき、ライブハウスでバイトしていたことがある。シフトはわかりやすく前半と後半制。

前半シフトのスタートはだいたい16時から。会場準備やドリンクのチェック、チケットもぎりの準備。人気アーティストのときは入場で人が溢れかえってしまうから、その導線づくりも仕事だった。アーティストが会場に入るとリハやスタッフパスの受け取りもあって、某有名アーティストは私が書いたスタッフパフをギターケースに貼り付けている。ある意味では夢のあった仕事だ。

前半シフトの終わりは、お客様を全員外に出してそのあとの会場掃除まで。終わると後半シフトと交代。終わりは終電の1本前か、2本前か、終電か、そのぐらいだった。


バトンタッチした後半シフトの仕事は……わからない。

なぜなら、私は後半シフトに入ったことがないからだ。当時、大学生の私は授業があったりサークル活動にいそしんでいたから、ずっと前半シフトだった。


でも、私が帰ったあとから働く人がいて、私が寝ている間に働いている人がいることを実感した。

もちろんそれまでも夜に働く人がいることはわかっていた。わかっていたけれど、なんというか、「いるんだろうな」という妄想に近い感じだった。

それが同じ職場で「お願いします」とバトンを渡すことで、ほんとうの現実であることを実感した。


最近、夜に働く人たちが主役になる番組「朝飯まで。」がテレビ朝日で放送されている。

私が見た最初の放送は、クリーニング屋さんだった。

夜に働くクリーニング屋さん? と思うかもしれないけれど、そのクリーニング屋さんは野球選手のユニホームを洗濯しているのだ。

ナイターまで試合をした後、泥だらけのユニホームが各チームから送られてきてから仕事が始まる。洗濯機を使ったり、手洗いをしたり、さまざまな技術を駆使してユニホームを真っ白に戻してゆく。


「なんかね、テレビで野球の試合を見てると嬉しくなるのよ」

そう言ったのは、手洗いで汚れを落としていた方だ。

「汚れたユニホームは、奮闘した結果よね」

そう言ったのは、チーム間違いがないか最後のチェックをしている方だ。それぞれ名前が入ったユニホームと用紙を見比べながら話す。


今にも試合が始められるぐらいに真っ白になったユニホームは、チーム間違いのダブルチェックが完了したあとまた選手のもとに運ばれていった。その後、作業場の掃除が行われて朝7時。みなさんの仕事が終了する。


この番組では他にも、一晩かけて出荷用の牛乳を安全に瓶詰する工場の方や島と島を繋ぐフェリーの夜間運航を担当する人が紹介されたりしていた。

見るたびに、夜に働く人がいて、夜に働く想いがあることに毎回感動してしまう。何よりも番組タイトル通り、仕事を終えたあとの「朝メシ」を、かーっと食べるみなさんが素敵すぎる。

この前放送していた牛乳工場の人たちは、仕事終わりの一杯に詰め立ての牛乳をぐぐっと飲み干していた。

そうか、仕事終わりの一杯はビールだけじゃないのだと教えてもらった。

今日もまた、彼らは夜に働いている。昼に働く私を含めた人たちと、夜に働く人たち。交わる瞬間はわずかかもしれないけれど、そうして今日もいろんな人の一日が回っている。

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