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新人が成長するOJTトレーナーのコミュニケーションとは 第6話

OJTは単なるコミュニケーションではなく、その目的はあくまで育成であるが故に、トレーナーは様々なジレンマに向き合うことになります。本コラムでは新人トレーナーが葛藤に遭遇し、乗り越え、成長していく一年間のストーリーとしてOJTに対するヒントをまとめました。<目次>

ウィル・シードがOJTトレーナーに研修を行う中、ご質問が多い項目として「叱る」があります。特に育成する側として「伝えるべきこと」を伝えられない、伝え方がわからないという悩みも多いようです。本シリーズでは育成上のコミュニケーションとして重要であるものの、トレーナーが難しさを感じている「叱る」にフォーカスを当ててストーリーを読んでいきたいと思います。

6ヶ月目:矛盾に要注意

【登場人物】
鈴木佐和子(28):飲料メーカーの商品開発部に勤務。入社6年目。圭太のOJTトレーナー
田中圭太(22):商品開発部に配属された新入社員
佐藤博(38):商品開発部の課長。佐和子、圭太の上司

【ストーリー】
圭太が入社して6か月。街のディスプレイはハロウィン一色で、ところどころにかぼちゃを使ったジャック・オ・ランタンが飾られている。

そろそろOJTの振り返り面談の時期だが、佐和子はどういう点に着目し、どんな形で進めれば良いかよくわからず悩んでいた。

いつものように、バイブルである『OJTで人を育てる』を開いてみると、振り返り面談のページに「まずは、本人の話、振り返りを聴こう」と書かれていた。
(そっか。こちらから課題を伝えたり、アドバイスする前に、まずは本人に話してもらうというのが大事なんだな…)
佐和子は手帳にメモし、赤字のアンダーラインを引いた。

昼休みが終わり、佐和子は佐藤課長に声をかけた。

佐和子「佐藤課長、振り返り面談について、ちょっとご相談したいのですが、今日お時間ありますか?」
佐藤課長「今いいよ。会議室へ行こうか」

佐和子と佐藤課長はコーヒーを持って会議室へ入った。

佐和子「振り返りの面談は、どんな形で進めれば良いでしょうか? まずは本人にこれまでを振り返って話してもらうのが良いと思うのですが」

佐和子がそう言うと、佐藤課長はうなずいた。

佐藤課長「そうだね。まずは本人から。その後はどうしたら良いと思う?」

佐和子はしばらく考えてから、答えた。

佐和子「課題を明確にして、改めて目標を設定したり、取り組みの道筋を一緒に考えてみるのはどうでしょうか?」
佐藤課長「いいね。でも、その前に大事なことがあるよ」

佐藤課長は立ち上がり、ホワイトボードに何か書きはじめた。

1.これまでのプロセスを承認し、ねぎらう
2.課題を明確にする
3.残り半年の目標、取り組みについて考える

佐藤課長「新入社員は、初めての社会人生活で半年間頑張ってきたんだよね。まずは承認やねぎらいがあるといいんじゃないかな」
佐和子「承認やねぎらいですか…」
佐藤課長「そう。そこがあると、結果はもちろんだけど、これまで頑張ってきたプロセスに焦点を当てることができるからね」

(結果だけではなく、プロセス…)
佐和子は手帳にメモし、深々とお礼を伝え、来週の面談に備えることにした。

面談の日――。

まずは圭太から振り返り、自己評価をしてもらい、佐和子が圭太のこれまでの頑張りについてねぎらいの言葉をかけると、圭太は嬉しそうに笑った。

その後、改善点を話した時に、圭太の顔がさっと曇った。

佐和子「田中さん、何かひっかかることあった?」

圭太は佐和子の目をまっすぐ見つめて、話し始めた。

圭太「鈴木さん、今、報告書や議事録の作成について少し改善が必要とおっしゃいましたが、具体的にはどんなところですか?」
佐和子「外部セミナーに参加した後の報告書や部内ミーティングの議事録を作る時、何が話されたかを正確に書くのも大事なんだけど、田中さんが提出するものって、結構分量が多いじゃない?見出しをつけたり、要約をつけたり、大事なところにアンダーラインを引くとかした方が、他の人も読みやすくなると思うんだ。あと専門用語もなるべく少なめにして…」
圭太「あ、はい。そうですよね。でも、鈴木さん…」
佐和子「何?」
圭太「その場の細かなニュアンスも伝えてって、先日おっしゃっていましたよね」
佐和子「えっ?」
圭太「それと、話された言葉をそのまま使うように言われたので、専門用語もそのままにしているのですが…」
佐和子「…」

佐和子は、一貫性を持って叱っていなかったことに気づいた。冷や汗がすうっと背中を流れた。

<終>

7ヶ月目に続く

【佐和子のOJTメモ】
 叱る基準を自分の中で明らかにする
 一貫性を持って叱る




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