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新人が成長するOJTトレーナーのコミュニケーションとは 第10話

OJTは単なるコミュニケーションではなく、その目的はあくまで育成であるが故に、トレーナーは様々なジレンマに向き合うことになります。本コラムでは新人トレーナーが葛藤に遭遇し、乗り越え、成長していく一年間のストーリーとしてOJTに対するヒントをまとめました。<目次>

ウィル・シードがOJTトレーナーに研修を行う中、ご質問が多い項目として「叱る」があります。特に育成する側として「伝えるべきこと」を伝えられない、伝え方がわからないという悩みも多いようです。本シリーズでは育成上のコミュニケーションとして重要であるものの、トレーナーが難しさを感じている「叱る」にフォーカスを当ててストーリーを読んでいきたいと思います。

12ヶ月目:叱った後は・・・

【登場人物】
鈴木佐和子(28):飲料メーカーの商品開発部に勤務。入社6年目。圭太のOJTトレーナー
田中圭太(22):商品開発部に配属された新入社員。11月にトレンドリサーチ室へ異動
佐藤博(38):商品開発部の課長。佐和子、圭太の上司

【ストーリー】
関東では桜の開花が始まった。圭太が入社して、間もなく1年になる。

最後の振り返り面談を来週に控え、佐和子は圭太との面談をどのように進めるか、育成計画書を見ながら考えていた。

(入社6か月の振り返り面談の時には、本人の振り返りから始めたよね…)

佐和子は手帳にフローチャートを書き、一番上に「本人の振り返り」と書いた。

(その後は、これまでのプロセスを承認して、ねぎらったんだよね。そして「うまくいったところ」「うまくいかなかったところ」の振り返りをして…)

そう手帳に書き込んだところで、手が止まった。

(最後の振り返り面談は、前の面談と同じやり方で良いのかな。どんなフィードバックやアドバイスをすれば、彼の未来につながるのだろう…)

なかなか考えがまとまらないので、まずはランチへ行くことにした。会社のカフェテラスの席に荷物を置いた瞬間、昨年春に佐藤課長から言われた言葉を思い出した。

佐藤課長「OJTトレーナーは、相手の成長や可能性を信じているからこそ叱るんじゃないかな。目標達成をサポートするのも、OJTトレーナーの大事な仕事だ」

(そうだ! まずは田中さんの目標に触れながら、これまでの成長について話してみよう)

佐和子は急いでランチを終え、自分の席に戻り、手帳に書き込んだ。育成計画書を見ながら改めてOJTトレーナーとしての仕事をふり返ってみると、佐和子は、「叱る」ということに向き合った1年だったことに気づいた。

(ならば、これまで田中さんを叱った後、彼がどんな風に変化したかについて焦点を当ててみようかな)

佐和子は「よしっ」とつぶやき、手帳を閉じた。

いよいよ最後の振り返り面談の日がやってきた。佐和子は始まる10分前に会議室へ行き、気持ちを整え、圭太を笑顔で迎えた。まずは、圭太から振り返りをしてもらい、それをしっかり聴いてから佐和子は話し始めた。

佐和子「田中さん、この1年間本当におつかれさまでした。初めて社会人として仕事をしていく中で、いろいろな戸惑いがあったかと思います。また、ご家族が病気になったり、部署の異動があった中でも、コツコツと仕事をやり続ける田中さんの姿勢、見せてもらいました」

それを聞き、圭太は微笑んだ。佐和子も微笑み、言葉を続けた。

佐和子「田中さんの入社1年目の目標は、①商品開発の流れを理解し、仕事のスケジュールを管理する、②飲料業界の動向を把握する、③当社の人気売れ筋商品の分析と新商品の提案、――の3つでしたよね。田中さんは、日々データをまとめ、資料を作成することで、商品や業界の理解力、分析力がつき、年末に発表したトレンドリポートというアウトプットにつながったのだと思います。素晴らしい成長です」

「ありがとうございます」と照れる圭太を見て、佐和子はうなずいた。一呼吸置き、声のトーンを少し下げて、また話し始めた。

佐和子「課題という点では、報連相と仕事のスケジュール管理ですね。先日、締め切りを守らないことで、他の人が積み重ねてきた信頼も壊してしまうことを伝えたけれど、ここ2か月位は、必ず締め切りを守っていると聞いています。これは社会人としての基本中の基本ですが、そこを改善しようと努力されていることを感じます」
佐和子「それから、マンデースーパーさんの件があってから、田中さんの話し方が変わりましたよね。以前は、話していることの何が事実で、どこが解釈かわからないことがありましたが、すごくわかりやすくなったと思います。話す時に根拠を出してくれるので、納得感があります」
佐和子「これから3年後、5年後にどんな自分になりたいか、どんなことを実現したいか、ぜひ考えてみてください。素直で粘り強い田中さんだからこそできること、生み出せるものがあると思います。来年度も目標を持って仕事を進めていってくださいね。応援しています!」

佐和子が成長への期待を告げると、圭太は目をうるませながら言った。

圭太「鈴木さんが日々励ましてくれたこと、叱ってくれたことが、本当に力になりました。この1年間、大変お世話になりました。ありがとうございました。これからもご指導よろしくお願いします!」

「了解です!」と笑った佐和子の目にも涙が浮かんでいた。

<終>

【佐和子のOJTメモ】
 叱った後、どんな変化や成長が見られたか観察して伝えると、本人の学びになる


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