心と呼吸を整える鐘の音
"Your True Home" by Thich Nhat Hanh
#187 "Mindfulness Bell"
原文:
When I was a young monk in Vietnam, each village temple had a big bell, like those in Christian churches in Europe and the United States. Whenever the bell was invited to sound, all the villagers would stop what they were doing and pause for a few moments to breathe in and out in mindfulness. At Plum Village, the community where I live in France, we do the same. Every time we hear the bell, we go back to ourselves and enjoy our breathing. When we breathe in, we silently say, “Listen, listen,” and when we breathe out, we say, “This wonderful sound brings me back to my true home.”
訳:
私がまだ若い僧侶としてベトナムに暮らしていた時、ヨーロッパやアメリカのキリスト教の教会にあるような大きな鐘がそれぞれの村の寺院にもありました。その鐘が鳴ると、村人は皆仕事の手を止め、呼吸を意識し整えます。私が暮らすフランスのプラム・ビレッジでも同じことをします。鐘の音を聞くたび我に立ち帰り心して深呼吸をするのです。息を吸い込む時は、心の中で「耳を澄まして聴け。」と唱えます。息を吐く時は心の中で「この素晴らしい音色が私を心の故郷へ連れていく。」と唱えるのです。
訳者より:
マインドフルネス、という言葉は昨今良く聞かれる言葉になりました。ですが、「なんぞや?」と思われる方も多いと思われます。この言葉を日本人に受け止めやすく訳すには私には一言でピタッと、おさまる言葉をまだ見つけられずにいます。「瞑想」という言葉は日本の宗教を少しばかり敬遠するカルチャーではとっつきにくく感じられ、「禅」という言葉は厳格な仏教の修行、という意味合いが根付いているからだと観察しております。
ですが、私は50年以上過ごしてきた人生の後半、時として怪しげに思われる瞑想や掴みどころのないマインドフルネスという生き方にたびたび助けられてきました。月並みな言い回しですが、この行き過ぎた情報化社会において私たちの(少なくとも私の)脳は常にフル回転で働き、心は疲弊しています。この仏僧が言うような「鐘の音を聞いてしばし忙しい手を休めて深呼吸をする」そして「我に立ち帰る」時間こそがマインドフルネスである、と私は考えます。
この文章に出会った時、生活に仕事に追われた私の心はもみくちゃになっていました。もうどこへも抜け道が探し出せないような、切羽詰まったような状況になんとか心のバランスを取り戻したいと手にした一冊の本。パッと開けた最初のページがこのエッセイでした。「そうだ、私はすっかりマインドフルネスを忙しさを理由に怠けていた。忙しいからこそ、こんなふうに立ち止まる時間を作るのが大切なんだ。」と思い出させてくれた大切な一冊です。
原文は
"Your True Home" by Thich Nhat Hanh - Shambhala Publication
より抜粋。
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