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組織に必要な「適度な自尊心」

採用、人材育成を効果的に進める上で、「自尊心」を評価・測定することはとても重要です。ストレス耐性やレジリエンスと関連する特性として「自尊心」は、高い方が望ましいと考えられがちですが、本当にそうなのでしょうか。

アメリカの社会心理学者のロイ・バウマイスターは、「ほめる」効果と実際の成績の関係について実験を行いました。バウマイスターは、中間試験でC以下の学生を対象に、毎週励ましのメッセージ(君ならできる!)を送り続けました。その結果、なんと、メッセージを受けた学生は、そうでない学生よりも成績が悪化してしまいました。バウイマイスターは、著書の中で、それ以外にも、学生の自尊心が高くなると成績が下がるという証拠が次々と見つかっていると述べています。

ここから言えることは、自尊心を外部から刺激して高めても、必ずしも望ましい方向には進まないということです。ほめることで本人が根拠のない自信を持ち、努力を怠ってしまうこともあるのです。

これまで長い間、組織開発に携わってきた私の経験からも、頗る高い自尊心を持つ社員は、やや自己中心的な言動が目立ち、周知の関係構築に苦労するケースが多かったように思います。逆に、低すぎる自尊心も、直ぐにリスクを回避しようとしたり、自己防衛のために攻撃的になる等、課題が多くありました。

自身を過大も過少評価もせず、等身大の自分を把握すること。そんな「適度な自尊心」を社員一人ひとりに持ってもらうことが、組織マネジメントにとって重要です。

採用では、自尊心が高ければ良いという基準を修正すべきでしょう。適度な自尊心を持つ人材を評価し、高い自尊心があると思われる候補者については、他者との軋轢を生んだ経験やそれをどのように修復してきたか、過去の経験を聞きながら面接で再確認していくと良いと思われます。

マネジメントでは、自尊心が低い社員は、必要以上に自己否定的になっていることが多いので、1on1などで本人の強みを中心にフィードバックし、自己肯定感を持たせていくことが大切です。一方、自尊心が高い社員には、まず本人の主体性を尊重した上で課題を指摘することが必要です。例えば、対人面に課題のある社員であれば、タスクやプロジェクトについて、本人の理想通りに進めるたいのであれば、自分を押し通す前に他者への配慮が欠かせないことをしっかりと認識させていく必要があるでしょう。

自尊心は高すぎても低すぎても問題があります。大切なのことは、そのことを理解した上で、人事施策やマネジメントを最適化していくことです。


【参考文献】
・橘玲著. スピリチュアルズ「わたし」の謎. 株式会社幻冬舎. 2023.
・ロイ・バウマイスター著. 意思の科学. 株式会社インターシフト. 2013.