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村上春樹の小説が苦手だ。

初めて読んだ村上春樹の小説は「ノルウェイの森」だった。はっきり言って感動した。小説でこんなに心が動かされる事があるんだと、正直驚いた。ノルウェイの森は恐らく僕が読んできた小説の中で、ベスト5には入るだろうと思ったし、その日から僕は村上春樹が好きになった。

次に読んだのは、「ねじまきクロニカル」だった。読みやすくはあったが、作者が何を伝えようとしているかを読みとるのは難解で、そもそもこれにメッセージなんかあるのかな、とさえ思った。長い小説だったが、最後までまだ一気に読んだ。最後まで読んだが、自分の中では謎だらけで終わってしまった。正直これで終わりだとは思えなかった。まだ続きがあると信じたかったが、続きなんてものはなくて、残された謎にモヤモヤして終わった。理解力が不足していたのかも知れない。

それからは読んだのは、「風の歌を聴け」「1Q84」「羊をめぐる冒険」だ。どれも面白いとは思えなかったが、苦手までとは思わなかった。決定的に村上春樹の小説が苦手だと感じたのは、「羊をめぐる冒険」を読んだ時だ。読んでいて、怖い、早く読み終えてしまいたい、と本気で思った。まるで出口がいつ見えてくるか分からないトンネルをずっと歩いているようなもの感じがした。そしてその瞬間、「ああ、村上春樹の小説は苦手かも知れない」と思ってしまった。

どうして苦手に感じてしまったのか、自分なりに考えてみた。

①主人公に共感できない

村上春樹の小説を何冊か読んでみて思ったこと。それは多少の差はあれど、主人公が非常に似ているという事だ。もちろんまだ数冊しか読んでない自分がそれで結論を出すべきではないとは思うのだが、数冊読んで、主人公が非常に似ていると思った。村上春樹の小説の主人公には以下の傾向がある。まず人生に対して熱がない。熱がないといっても人生に絶望しているわけではない。だが、どこか諦めの気持ちを持ち、良くも悪くも自分の人生を達観している。外部と距離を保ち、積極的に外部と関わろうとしない。恋愛に関しても熱がない。が、よくセックスはする。物事の変化に対しあまり感情が動かず、どこか淡々としている。

僕が村上春樹の主人公に関して感じるイメージはこんな感じである。別にそういった人物像が嫌というわけではない。ただなんというか、上手く共感ができないのだ。村上春樹の小説の中では不思議な感じ事がよく起こる。そういった事に対して、彼らは驚くことも、慌てることもなく、どこか淡々としている。まるでそれは仕方ない事だというように。ただ、読者である僕自身はそういった出来事をすんなり受け入れられる訳ではない。月が二つになったり、いきなり彼女が消えたり、不思議な事だらけだ。そういった時に主人公の感情が揺れて、驚いたり、慌てたりしていたら、まだ共感できるのだが、主人公は何事もなかったようにそれを受け入れている。それは自分自身が置いて行かれたような気持ちになってしまう。

「ノルウェイの森」の主人公のワタナベは、そういう傾向はあれど、傷ついたり、落ち込んだりしてとても人間味を感じさせた。そこがストーリーに深く入り込めた要因の一つかも知れない。


②読み終えても謎が残る

村上春樹の小説には、ある物事が抽象化されて表現される事が多い。それは、「綿谷ノボル」であったり、「リトルピープル」であったり、「星の印がついた羊」であったりするが、それが何を伝えようとしているか、具体例を想像するのは難しい。恐らく目には見えないもの、例えば「社会の悪意」や「どうしようもできない事実」、「気付かない内に侵食される怖さ」などを、それぞれの形で表現しているのだろうとは思う。ただ、その表現の仕方、メッセージの意図が僕には難し過ぎた。村上春樹の文章は読みやすいが、言わんとしている事が分かりづらいと思うのは、ここに起因しているのだろう。

「1Q84」はまだ、具体的、現実的に表現されている部分が多く、各登場人物たちの背景がしっかりしていて、理解はしやすかった。ただその分現実的ではない表現が出てきた時は、余計に戸惑ってしまった。

最終的にはそれらの謎が分かるのなら良い。でも最後まで読んでも結局分からないままで終わってしまう。それは、読み終わった後に、どうしようもないモヤモヤ感を感じさせる。

③不可思議な出来事が起き、置いていかれる

僕が村上春樹の小説が苦手だと決定的に思ったとは、「羊をめぐる冒険」だが、この話は別は読んでいて少し怖かった。正確にいうと、「早く読み終えてしまいたい」という、読んでいて味の悪さがあった。 

どうしてそう思うのか。

まだ不可思議な出来事がいきなり起こる。その出来事に何か意味があるのなら良いが、果たして意味があるのかどうかよく分からない。だからそこで置いていかれる。例えば、ずっと一緒にいた人がいきなり消えたりするのだ。村上春樹の小説の人物はよく消える。「ねじまきクロニカル」でも妻が謎の失踪をするのだ。村上春樹の主人公は、孤独になる運命を背負っているように感じられる。そして喪失感を感じる。小説だから、「何で消えちゃうんだよ」と突っ込んでも仕方ないのだが、どうしても突っ込んでしまう。「消える」のに明確な理由があれば納得できるのだが、消える理由が良く分からず、そのままストーリーは進行してしまう。そしてそのまま置いて行かれてしまう。長いトンネルを歩いているような錯覚に襲われるのだ。


以上、村上春樹の小説が苦手だと感じる理由を書き出してみた。それでも「ノルウェイの森」は僕の大好きな本だし、村上春樹が訳した小説(グレートギャツビイとか、ティファニーで朝食をとか)は大好きだ。

だけど、他の小説は僕には合わないでいる。それは僕の理解力のせいかも知らないし、僕の性格的なものも大きいのだろう。

ビールの美味しいは年齢によって変わって来るのと同じように、小説も年齢によって感じ方が変わってくるという。これから先、僕の村上春樹の小説に対する感じ方は変わってくるのだろうか。

今は正直しばらくは読まなくて良いかなという心境だが、数年したら、まだ読んでみようかな。






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