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藤井風”FreeLive”が見せつけた素っ裸の音楽

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 107 m x 72 mの天然芝の上に、ポツンとグランドピアノが一台。モノクロームの映像が映し出す光景は想像よりもはるかに寂しげで、てるてる坊主に託した願いも虚しく、雨に濡れる藤井風を見守る観客は誰1人としていない。

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 だが終わってみれば、日本最大のスタジアムを軽く2回満席にするほどのオーディエンスが、藤井風の音楽に酔いしれ、唖然とし、踊り、笑顔と涙で顔をクシャクシャにしたことだろう。拝んだ人もいるかもしれない。

「圧巻!」と言う言葉しか浮かんでこなかった。

 シンガーソングライターとしてエンターティナーとして、まだ新人と言っていい24歳が18万人を魅了したのだ。その身ひとつで。日本国内だけではないのはYouTubeのコメント欄を見れば明らかだ。

素っ裸になった歌の強度

 今、多くのポップソングは、幾層にも積み重なった楽器や声やデジタルデータなどによって構成され、複雑且つ奥行きのある音が鳴っている。スタジアムライブともなればライティングやVJ、特効などの派手な演出に観客の熱気も加わる。

 例えるなら入念にヘアメイクが施され、計算され尽くした衣装に身を包んだ”歌”が、さらに加工され光輝くかの如く。。

 しかしこれらの”歌”の中で、すべてを脱ぎ捨て、洗い流し、素っ裸になってもその強度を失わないものがどれだけあるだろうか?

 音源同期はもちろん、バンドもコーラスもダンサーもいない、照明も演出もない、観客もいない上に、降り止まない雨。。。。この日の藤井風ライブは文字通りの”ないない尽くし”。

 この一糸纏わぬ音楽をスタジアムで披露するのは相当な覚悟と自信、そして実力が必要なのは言うまでもない。

雨さえも演出に変えた恐るべきパフォーマンス

 「恵みの雨・・」天を仰ぎ、気持ちよさそうにその聖なる自然を受け入れる姿。髪の毛から滴り落ちる雫。力強い打鍵に弾き飛ばされる雨粒。スケルトンのカバーにできた水溜りが震え、踊る。

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 この日のために、天が用意した唯一の演出が雨だったのかもしれない。そんな気さえするドラマチックな光景だった。

歌う人「藤井風」のもうひとつの声

 藤井風にとってピアノとは、伴奏ではなく指から出る声だと思う。

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 グランドピアノは大きな図体でスタジアムのど真ん中に鎮座していたが、もはや藤井風の身体の一部として完全に一体化していた。ピアノから離れ、芝生に寝転んだり、ハンドマイクで歌う彼は肉体から抜け出した魂そのもののようだ。

 オリジナル楽曲はもちろん、カバー曲でも、何なら歌わなくても、ピアノの隅々にまで藤井風の細胞が息づいている。いや、もしかしたら藤井風DNAの二重らせんが黒鍵と白鍵でできているのかもしれない。

 声帯と指から出る2つの声が奏でる美しいハーモニー。生まれたままの姿から立ち昇る幸福の芳香が画面越しに漂ってくる。まさに身体ひとつで勝負できる実力と、恐ろしいほどの才能をまざまざと見せつけた60分。

 あのだだっ広い空間をたった88の音と10本の指と声だけで埋め尽くせるアーティストが他にいるだろうか?

素顔が良ければ厚化粧も映える

 この日、初披露された「ダサいくらいまっすぐ、ストレートな」新曲”燃えよ”。本人が言うように確かに「ちょっと子供っぽく青臭い」

quite straight forward, and little bit childish and green
(MCより)

 しかし、ライブ直後にデジタルリリースされた”MO-EH-YO”は、アレンジャー、プレイヤー、エンジニアなど磨き抜かれたプロの技でコッテリとお化粧され、おめかしして、煌々としたスポットライトを浴びるにふさわしい高揚感あるリッチな音源になっていた。

 特に間奏からCメロ以降の疾走感あるエレピ、絡み合うコーラスとリズム隊のゴージャスさ。MVへの期待も高まる。

 類稀なる才能と培われた確かな技術による、骨組みのしっかりとした音楽は、あとから何を盛っても映える。ライブ中、深呼吸する彼のTシャツ越しに浮かび上がった美しい骨格が、モード服からタンクトップ1枚でも着こなす全ての土台となっているように。

 来月からのアリーナツアーで、彼の音楽はどんな姿でどんな顔を見せるのだろうか?そして、多くのファンが待ちわびるセカンドアルバムは、この2年弱、静かに潜航していたJ-POP界の地殻変動を決定づける”激震”となるのかもしれない。


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