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笑いながら傷口に塩を擦りつけるキタニタツヤの荒療治

ボカロ出身アーティストの快進撃

 ネットからヒット曲や人気アーティストが生まれることが普通になりつつある。特にボーカロイド界隈の躍進は凄まじく、ボカロPのみならず”歌い手”の活躍も目覚ましい。ボカロ出身の先駆者である米津玄師以降、まさに雨後の筍のように輩出されるボカロ関連アーティストの存在感が日に日に増している。


YOASOBI

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ヨルシカ

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yama

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Ado

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Eve

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ずっと真夜中でいいのに

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須田景凪

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神山羊

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そらる

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まふまふ

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 ボカロに明るくない筆者が、上記アーティストの代表曲を一通り聴き、ざっと調べてみた雑な感想は、

「みんな歌上手いな」

「みんな顔見せないな」

である。

 証明写真なみの解像度で堂々と顔見せしているのは、紅白出場ですっかりメジャー化したYOASOBIくらいで、他のアーティストはイラストや仄かなライティングでミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 ”まふまふ”に至ってはCGかと思っていたら実写で、さらに地声による超人的な音域と歌唱力も相まって「もはやVRなのでは?」疑うレベルである。

 上記ラインナップを見るだけでも、ボカロ出身アーティストに共通するのは、アバターっぽいと言うか、よくも悪くも肉体性が希薄なことだ。さらに、闇や孤独を抱えていたり繊細で内向的なイメージがある。

間違ってもこんなのを配信したりはしない。



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異彩を放つギャップの塊「キタニタツヤ」

 このキタニタツヤもまた、ボカロ出身だが明らかに毛色が違う。酒、タバコ、女、タトゥー、鼻・唇ピアス…と、イマドキ珍しいくらいのロックなエレメントを纏いながら、バカみたいに明るく、バカみたいに面白く、バカみたいにバカだ。

 なのに偏差値73の都立西高校から現役で東京大学文学部に入学し、音楽活動をしながらも留年も中退もせずサラッと卒業している。どうもバカではなさそうだ。

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 他のボカロ系アーティストと変わらないオシャレなアー写から、パンツも履かずにゴキゲンで弾き語る姿を誰が想像できようか。

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↑公式インスタグラムより

 もしこれを須田景凪が、神山羊が、米津玄師がやってるところを想像してみて欲しい。まともなファンなら笑うに笑えず本気で心配すると思う。

 しかし、昨年のTHE FIRST TAKEでの大人びたイケメンっぷりはまるで別人だ。ちなみに、この時まだ24歳である。

 以前、藤井風について「プラスの面に別のプラスを見せられても、それは多面的な魅力であってギャップではない」と言う記事を書いたことがある。

 そう、キタニ のように激しすぎるプラスとマイナスの落差こそギャップと呼ぶにふさわしい。ギャップ萌えするか、幻滅するかは好み次第だが。

癒しと優しさの時代に放つ鋭利な言葉のナイフ

 ファンやオーディエンスに向ける視線は粗野で鋭利だ。代表曲「悪魔の踊り方」の歌詞然り、このTweet然り。

 そして、このライブでの客の煽り方は、これが元々ボカロ曲で”鏡音リン”が可愛く歌っていたとは信じがたい。また、大胆なボーカルアレンジを加えた激しいステージパーフォーマンスはライブハウス叩き上げのバンドマンのそれだ。

↓原曲(こんにちは谷田さん=キタニ のボカロP名義)


 他にもリスカを繰り返し、夜の街を彷徨うビッチなメンヘラ少女を歌った「Sad Girl」という曲がある。その歌詞がこうだ。

殺してやろうか?お望み通りに、なぁ?

 傷口に塩を塗りつけるような歌詞はまだ続く。

Now I know
Your wrist have rusted away
(お前の手首が錆びついてることを知ってるよ)
And I know
You're prey to boys like me
(俺みたいな男の餌食だってこともな)
They want you only for temporary desires
(一時の欲望のためだけにお前が欲しいだけなんだよ)
I’m so sorry but just as you do
(悪いがお前もそうだろうよ)

SadGirlより(和訳は筆者による意訳)

 優しさと癒しの大安売りみたいな時代に辟易しているのか?自堕落な者への怒りなのか?それとも愛のムチか?

 相手の痛いところに狙いを定めて抉ってくる歌詞がオシャレなサウンドの上で踊っている。それこそ”真善美に背いた悪魔の踊り方”で。

 この他にも人間の暗部を暴き出すようなダークな曲を多数書いておいて、ニコニコしながら「有名になりたいw」と話す本人はめちゃ陽キャと言うギャップ。

ずっと小中高ではクラスの中心人物だったんですよ。
陽キャラだったんですよね。

卒業文集とかでクラスの面白い人ランキングで常に1位の人だったんですよ(笑)。

(SKREAMインタビューより)
わりと僕はアーティスト的な孤独とか苦しみには鈍いんですよね。
ハッピー人間なので。
(SKREAMインタビューより)

 コミュ力も高く、2年連続でBillboadJapan年間総合チャートにランクインしている「ヨルシカ」のベーシストであり、自らのバンド「sajou no hara」やアイドルグループのメインコンポーザーを務めるなど活動の幅も広い。

 共感をもとに人の痛みに寄り添うとか、一緒に頑張ろうと優しく背中を押すとか、そっと包み込む…。そんな今の時代に求められているものをガン無視し、「んなの、知らねーよ。ただ俺はこう思うけどね」というスタンスを崩さない。

 理解できない他人の闇・歪み・傷をわかったようなふりをしない。無理してわかろうともしない。

 その根底にあるのは「お前の痛みは、お前だけのもんなんだ」という、厳しくも嘘偽りのない本音だ。

アルバム「DEMAGOG」に込めたメッセージ

 昨年発売されたメジャー第一弾アルバム「DEMAGOG(煽動者の意)」はBillie Eilishを手掛けるJohn Greenhamがマスタリングしたと言う贅沢な1枚だ。

ドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」な感じで。(略)
強い人がいて、そこに弱いものが集まって「行くぞ!」っていう。
そんな引っ張っていけるアルバムにしたかったんです。
(funplusインタビューより)

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 と言いつつも、自身を煽動者に見立てているわけではない。

嫌なことって、実は誰とも共有できないと思っていて。
(略)つまり最後は自分でなんとかするしかないし、
自分で自分を煽動してほしい。
(ナタリーインタビュー)
"嫌なことから目を背けるんじゃねぇぞ"っていう説教臭さを出すためにも、"お前ら、これを見ろ"っていうことですよね。
これは、自戒でもあるんですけど。(SKREAMインタビュー)

 あくまでも個人の感想だが、キレッキレにゴン攻めしたアルバムの中で、表題曲の「DEMAGOG」だけが異質で嘘くさい。こう言う曲は”ゆず”にでも歌って貰えばいいと思う。

 悩み多き若者たちへの処方箋はひとつではない。キタニ はキタニ の荒療治ともいえるやり方で誰かを救おうとしている。

「本当にあつかましいですけどね。(略)そうありたいと思ってしまいますね。」と、かなり控えめに。

 「逃げてもいいんだよ」と囁かれラクになる人もいる一方で、「自分のツラを見てみろよ!!」と痛いところを突き、ケツを蹴り上げてくれるアニキに励まされた人もいるだろう。パッパラパーなバカ配信に、さっきまで泣いていたのについ吹き出してしまった人もいたかもしれない。

売り方次第で大化けしそうな逸材

 キタニ の曲は最新曲でアニメ主題歌の「聖者の行進」のように、10代のファンが「キタ兄!カッケー!!!」叫ぶようなカリスマティックな楽曲が目立つが、大人の苦さを熟知しているような都会的で色っぽく切ない歌も少なくない。

 ソングライティング、演奏、歌唱、ライブパフォーマンス、ビジュアル、キャラ、演技力…。落差の激しいギャップだらけの絶叫マシーンのような彼が、いつ何をきっかけにブレイクするのか注目だ。

 ソニーミュージックが本腰を入れ知名度が上がればすぐにでも売れそうだが、売りどころが多すぎて路線を決めるのは難航しそうだw

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<おまけ>
大人にもおすすめのクセになる曲

 ボードレールの詩集、惡の華「髪」から着想を得たと言う「CINNAMON」は香りが呼び覚ます記憶の艶かしさが揮発している。


失ってしまったものへの追憶を歌うメロウな一曲「記憶の水槽」


MVと合わせて聴くとエモいとしか表現できない「I DO NOT LOVE YOU」。
特にエモいのが、1'38"のタバコの煙が流れてゆくシーン↓

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 狂気を帯びたホラーみたいなMVと「あなたまるで人間みたいね、ケダモノのクセにさ」と言う強烈な歌詞が刺さるオシャレなダンスチューン。


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