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J-POPのヒットMVを分析したら新たな傾向が見えた件

拡大するMVの影響力

 かつて楽曲の宣伝ツールのひとつに過ぎなかったPV(プロモーションビデオ)が、MV(ミュージックビデオ)と名を変え、その再生回数はヒットチャートにも影響するようになった。

 音楽が聴くものから見るものになりつつある今、MVはシングル曲の必須アイテムと言っても過言ではない。というわけで、今回はJ-POPの多種多様なMVを分析しカテゴリー分けしてみた。

MVの分類

  このチャートでは縦軸に「ストーリー性の有無」、横軸に「本人出演の有無」をとり、そこに6つに分類したMV内容をプロットした。

図1

 
 上段(A型・B型)は、ストーリー性がある短編映画風でセリフやSE(効果音)入りの作品もある。

<A:ショートムービー型(本人出演なし)>

 映画のようなストーリーを俳優やモデルが演じ、アーティスト本人は出演しない作品。

ケツメイシ「さくら」

 リリースから17年経った今でも桜の季節が巡るたびに、人々の甘酸っぱい記憶の花びらを舞い散らせる名作MV。

出演:萩原聖人、鈴木えみ


Vaundy「恋風邪にのせて」

 社会の片隅にはみ出した男と女の刹那的で危うい恋。行き場のない孤独が破滅していく痛みを主演の2人が見事に演じている。

出演:成田凌、蒔田彩珠

 他にはKing Gnuの「THE HOLE」、最近では優里のMVの多くがこのA型である。さらにこのA型カテゴリーには、下記のようにCGアニメや漫画でストーリーを展開している作品もに入る。

King Gnu「カメレオン」

 人形劇風のCGアニメ。美しい恋人との不釣り合いに悩む男が魔法の薬を飲んだ時に露わになるすべてを抱きしめる愛の物語。


Saucy Dog「シンデレラボーイ」

 静止画の漫画で構成される失恋ストーリー。歌詞と漫画のセリフが違うためちょっと混乱する。MVを見ていると歌詞がまるで頭に入ってこないのに感情移入はできるという不思議な現象が起きる作品。


<B:ショートムービー型(本人出演あり)>

 B型はアーティスト本人が物語における何らかの役を演じているもの。

菅田将暉「虹」

 出産シーンの普遍的な感動、一生懸命子育てする若い夫婦の絆が平凡な幸せの尊さを物語る。ハートウォーミングな映画予告編のような仕上がり。

出演:菅田将暉、古川琴音


桑田佳祐「東京」

 ワケありの刑事の愛人が桑田本人が扮するタクシー運転手と恋に落ち事件へ・・・というサスペンス仕立て。ドロリとした大人の欲望と悲哀が充満している。R指定しなくていいのか?

出演:桑田佳祐、中尾彬、小島聖

 

図1(再掲)

 中段(C型・D型)は、主に楽曲のテーマや歌詞のメッセージをイメージとして捉え、心象風景や曲の世界観を描く。

<C:コンセプトイメージ型(本人出演なし)>

 C型は本人ではなく第三者が出演、またはイラスト等を使った下記のような作品が含まれる。

YOASOBI「夜に駆ける」

 小説を元にした楽曲とMVなのだがストーリー仕立てというよりも、イメージ寄りの作りになっている。YOASOBIはこのC型、あるいはA型とC型の中間に入るようなMVが多い。


Vaundy「踊り子」

 まるで小松菜奈の持ち歌かのように見える作品。曲だけでも十分イマドキでエモいのだが、この映像と合わさることでファッション性がグッとアップし、化粧品のCMのようなオシャレな雰囲気を醸している。


<D:コンセプトイメージ型(本人出演あり)>

 本人出演のD型では海や街など様々な場所で歌っていたり、イメージカットに歌唱・演奏シーンがインサートされる。これはMVの基本スタイルと言っていいほどよくあるパターンで枚挙にいとまがない。

藤井風<まつり>

 藤井風のMVはデビュー曲「何なんw」から新曲「まつり」まで、全てがこのD型。曲ごとにかなり振り幅があるキャラを、全く違う顔で演じ切るエンターティナーっぷりはまさに”見る音楽向けアーティスト”だ。


椎名林檎&宇多田ヒカル<浪漫と算盤>

 トップアーティスト同士のコラボにふさわしいゴージャスなMV。デカダンな世界で2人が興じているのはテトリスという大人の遊び心。監督を努めた児玉裕一のコメントが心憎い。

「神々の戯れをどうぞご覧ください」

浪漫と算盤 プレスリリースより


 下段(E型、F型)は楽曲からイメージするストーリーや歌詞のテーマなどから距離のある作品。

図1(再掲)

<E:VJ型>

 クラブやライブの背景で見るようなサウンドの雰囲気に合わせた抽象的な映像。CGやイラスト、タイポグラフィなどを多用したデザイン系やシュールなアート系、もしくは風景中心で本人出演はない。

Vaundy<不可抗力>

 VaundyはMV制作にも自ら携わっているためか映像表現の幅が広い。このMVはC型とE型の中間のような作品だが、グラフィカルなイラストはどこでポーズしてもそのままアパレルやグッズに流用できそうなほどデザイン性が高い。


<F:パフォーマンス型>

 ライブ映像、歌唱・演奏もしくはダンスシーンをメインとした作品。アイドル系に多く見られるパターン。アーティストはほぼ出ずっぱり。歌唱シーンだけでなく、ちょいちょいイメージ映像がインサートされることもある。

DA PUMP「U.S.A」

 わざとベタを狙ったようなサカナクションの「新宝島」星野源の「恋」などもこのカテゴリーだが、何から何まで清々しいほどのベタを貫き「ダサかっこいい」というジャンルにまでなったのがこのMVだ。


米津玄師「TEENAGE RIOT」

 殺風景なスタジオにバンドセットでただ歌うだけの米津を撮ったモノクロ映像。潔く装飾を削ぎ落とすことにより、米津作品唯一と言っていいほど”生身の男を感じる”ロックな仕上がりになっている。


ヒット曲MVの変化

 以上のカテゴリーを踏まえ、BillbordJapanの年間総合チャートトップ10のMVを同チャート開始時の2008年と最新2021年で比較すると、その内容に明らかな変化が見られる。

 2008年は7位の嵐「truth」はMVがなく、9位のコールドプレイは洋楽なので、12位までの邦楽10曲を分類図にプロットしてみた。

 Greeeenは元来顔出ししていないので唯一左側に位置しているが、それ以外は全て本人が出演している。

 それが、2021年ではこうなっていた。

 2008年と比べると多少なりともストーリー性のあるものが増え、本人出演作が減っている。この期間に制作されたMV全てを分析したわけではないので、あくまでも年間トップ10に入る大ヒット曲に限ってのことだが。

 再生回数を見ても、”推しの姿が拝めてなんぼ”のアイドル系以外では、アーティスト出演なしのMVにもかなりの需要があることが窺える。

ドライフラワー 8649万回
群青      9532万回
廻廻奇譚        2.3億回
夜に駆ける    2.5億回
怪物       2.0億回

2022年4月23日現在

 EDMやプログレ系をはじめ洋楽ではよく見るものの、J-POPの上位ヒット曲ではあまり見ることがないE型(VJ型)作品も”穴場として”今後増えてくるかもしれない。

米津玄師のMV傾向

 最後にMV総再生数が国内ダントツの米津玄師のMVをチャートに当てはめてみた。

 圧倒的にD型が多いが、2020年以降、直近では「死神」「POP SONG」と自らが何かになり切って演技をするB型の作品が続いている。

 本人出演なしのMVは全てアニメ。C型の4作品は本人による描き下ろしだが、2015年の「メトロノーム」を最後に自作イラストのMVを出していない。CDジャケットなどで見せるあれだけの画力を生かした新作MVにも期待したい。

MVは諸刃の剣

 米津も「できれば全曲にMVをつけたい」と言っていたように、VaundyやKingGnu(ミレパ含む)など映像制作に長けたアーティストも増えている。音楽業界全体でも今後ますます映像の需要は高まるだろう。

 ただ、視覚情報というのは強烈なもので、よくも悪くもイメージが固定されたり、阻害されたりすることもある。原作ものの映画をみたときのような「これじゃない!」という苦渋を舐めさせられる恐れも孕んでいる。

 あ”〜!!MV見なきゃよかった・・・っていう曲ないですか?

私はある。

 音楽から無限に広がるイマジネーションを邪魔することなく、さらに深めたり、飛躍させるようなMVがたくさんリリースされますように!


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