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バインミーとフォーと13人のベトナム人。

久しぶりに電車に乗って、大きな街へ友人と出かけた。

PASMOの残高は驚くほど余裕があり、腕時計はムズムズするし、ハンカチを持って出るのを忘れてしまった。

100日ぶりのお出かけともなれば、色々と設定がバグるらしい。

「お昼は何にしようか」

到着早々、かなり重要な議題がテーブルにのぼる。ふと、視線をやったその先にベトナム料理屋さんがあった。

バ  イ  ン  ミ  ー

友人がこの世で最も愛でる5文字のひとつがでかでかと書いてある。そっと顔を見合わせてうなずいた。「ここだな。」

先客は一組だけだが、どうやらベトナムの方らしい。楽しそうな会話が耳に飛び込んでくる。これは期待できるな、と直感が働いた。

友人はバインミーとフォーのセット、私はフォーと生春巻きのセットを注文。「人の作ったごはんって美味しいよねえ」などと、外食の楽しさに浸るのもつかの間、大量のベトナム人が店内になだれ込んできた。

押し寄せた人たちが顔見知りなのかはどうかは分からない。が、「え、何?店の前にはとバスでも止まったん?」と言わんばかりの勢いである。

あっという間に席はすべて埋まり、全15席のうち、日本人は私と友人の2人だけ、という異国状態に。ここでは、ソーシャルディスタンスも治外法権。

そりゃあ私だって、ニューヨークに激うまうどん店があれば足を運びたくなるかもしれない。私たちは、期せずしてこの界隈に住むベトナム人たちの心のオアシスに足を踏み入れていたらしい。

それにしたって、来店した人数があまりにも多くて、あまりにも突然で、コントのような出来事に私も友人もしばらく笑いが止まらなくなった。

こんなに記憶に残るランチは、後にも先にもそうそうないだろう。

誰かと積極的に関わるのが憚られるこんな時代だけれど、事件は人の交わるところにあり。まさに「書を捨てよ町へ出よう」な出来事だった。

やっぱり、外の世界はおもしろい!

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