春は雪解け
春は雪解け
真っ昼間のまぶしい太陽に照らされて、静かな雪のかたまりから盛んな水の流れが生まれる。
屋根から地面へ、ぽたぽたっ とととっ と滴る音が心地よい。リズムが身体のなかをまっすぐ突き抜け、響く。
坂道は小川になる。ぎらぎらと反射し、時折あぶくが立つ。砂利のつくりだす波線。インスタントのカフェオレに似た濁りが渦巻く水溜まり。水の流れがある景色は、退屈を知らない。
道路状況はぐしゃぐしゃだ。小川と、シャーベットと、氷のかたまりと、土ぼこり━━━滑り止めに撒いた砂利が乾いて、走り去る車に巻き上げられる━━━とがあちこちにあり、靴選びを間違えると水が染みたりはねたりする。砂利が靴のなかへ踊り入り、到着までしばしばお供する。長靴が最適な気がするけれど、靴箱の下段にびっしり埋まった長い靴たちを思い出して、つい短めのレインシューズを選んでしまう。
空気に混じる春のあたたかさと、景色の移ろいに歩くよろこびを感じているあいだ、不甲斐ない自分を忘れることができるのだ。
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