そうしてB.Bは抵抗することにした#2

【小説】

 マックで昼飯を食っていると、不意に着信が入った。どうやら、昨日寝た「マリー」のようだ。
「もしもし?」
「もしもし? B.Bであってる?」
 電話に出ると、マリーは不安そうな声で俺に尋ねる。ハンバーガーとフレンチフライを咀嚼し、応答する。
「ああ、ベン・ベッカーだよ。君は、マリーだよね?」
「ああ、よかった。ベンなのね? 昨日は、ありがとう。楽しい夜だったわ。よければ、今日も飲みに行かない?」
「……今日か」
 ここであまり、乗り気じゃないと見せかけるのは、俺の常套手段だ。すぐにがっつくのは、正直童貞臭い。
「今日は何か都合がある?」
「……いや、ないよ」
「じゃあ、7時に【アシュリー】でいい? 昨日と同じお店だけど、構わないわよね?」
「あそこなら、雰囲気もいいし、いいよ」
 じゃあ、決まりね。と言って、彼女は電話を切った。
 マリーは、フランス人だが、英語が堪能な23歳の大学院生だ。大学院では、文学、特にフェミニズム系の文学研究をしているようで、スピヴァクなんかの話をすると、そこそこ楽しんでくれたのを覚えている。
 ただ、夜の方はあまり上手くないようで、少々淡泊なのがたまに傷だ。
「今日もまた、女性の権利について話すのか……」
 俺はそれがあまり好きではない。何故なら、彼女は女性の権利を主張するばかりで、他のマイノリティについては、目に見えていない部分があるからだ。
 特に、トランス・ジェンダーの男性の権利には疎く、彼らを「女性」として扱わない節もときたまある。すべてのフェミニストがそうであるとは言わない。しかし、マリーはその典型のように思えた。
「男性、女性の権利は平等であるべきだが……」
 LGBTの権利もまた、平等でなければならないはずだ。
 俺は、ずっとそう考えている。
 しかし、中々理解はされないのが現状だ。
 人々は、何を「守りたい」のだろうか。誰かに植え付けられたイデオロギーを、普遍と考えているのは、馬鹿げている。にもかかわらず、人はそれを保守したがるのだ。
 僕はマックを出て、隣のスターバックスへ移動した。コーヒーを頼み、それをチビチビやりながら、Macを開く。ネットサーフィンをしつつ、暗号通貨の相場をチェックする。持っていた分の通貨の値が上がっていたので、それを売りさばき、利鞘を稼ぐ。
 せこい作業だが、これで当面は暮らしていけるだろう。窓の外では、移民達が先ほどからずっと抗議運動をしている。
「俺たちの賃金をあげろ!」
「俺たちの休みを増やせ!」
 横暴のように聞こえるかもしれないが、彼らは彼らなりに「生きたい」のだ。
「格差を楽しむのか、それとも……」
 様々な格差に思いを馳せつつ、俺は暗号通貨を売り続けた。
 

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