(連載小説)秘密の女子化社員養成所㉖~女になるために通る道・その1~
穂波とさくらの婚約が決まってから1週間後、総務課社員の松岡 春菜(まつおか はるな)は三浦所長に頼まれて館内にあるATMで研修所名義の口座の通帳記入をしていた。
「えっ!?・・・・・。ちょっとこれ・・・・・。」
驚いた春菜は通帳記入を終えると急ぎ足で所長室に向かった。
「しょ、所長!、こ、これご覧ください!。」
「あら松岡さん、そんなに慌てちゃってどうしたの?。えっ・・・・・!」
そこには金額欄に「10,000,000円」、また相手先の欄には「ミフネ キョウコ」と印字されているではないか。そして二人が驚いて通帳を見ているとほどなく所長の机の上の電話が鳴った。
「御船でございます。先日は娘のさくらが大変お世話になりました。」
声の主は京子で、そしてこう続けた。「先程研修所の口座に先日のお礼の一部として1千万円入金させていただきましたのでどうぞお収め下さい。」
「早々に、また過分なお気遣いをいただきまして・・・・・。」と三浦所長は大層恐縮しながら電話応対をしている。
「あとの残りは無事披露宴が済み次第改めてお支払いさせていただきます。そうそう、穂波さんの口座にもお支度金として些少ですが3百万円程送金さていただきましたのでその旨お伝え下さい。ではごきげんよう。」
と上機嫌そうな口ぶりで京子は言い、電話を切った。
実はこの1千万円は御船家から「成婚料」としてビューティービーナスに振り込まれたものだった。
会計処理上は後から送金される分も含め「研修所への寄付金」と云う事で処理されるのだが、事実上穂波とさくらの婚約成立に対してのお礼や成功報酬として京子はこの多額の金額をビューティービーナスに支払ったのだった。
後から払う分や穂波への支度金や結納金まで入れると2千万円は軽く超えるのだが、そうまでしてでもぺ二クリ娘を自分のところの嫁にしたいと思う需要は御船家のみならず底堅く、最近は百合花倶楽部を通じてセレブな独身レズビアンたちがこぞって小瀬戸島にやってきていた。
需要はあるので会社にとってもメリットはあるし、また自分の子供も欲しいレズビアンにとっては性自認はもちろん何もかもまるっきり女性と遜色がなく、性的嗜好が女性のみと云う小瀬戸島に居るぺ二クリ娘たちは結婚相手としてこれ以上無い願ったり叶ったりの存在で、おまけに穂波の様に頭脳明晰で容姿端麗とくれば当然のように高値で「取り引き」されていた。
穂波に触発された訳でもないのだろうが、ここ最近悠子たちの指導役でもある一期、二期上の女子化された元男子の社員の中からも何人かが百合花倶楽部の会員の元に嫁ぐ事が決まり、寿退社で島を出て行った。
またぺ二クリ娘だけでなく、先日京子にいい人がいたら紹介して欲しいと懇願していたバーシトラスのナンバー2キャストでもある阿部沙彩も京子の紹介で小瀬戸島にやってきた百合花倶楽部の会員女性と事実婚のカップルとなり、同様に寿退社をして会社には寄付金名目の高額な金銭が支払われた。
確かにこの研修所や保養所を維持・管理していくのには多額の費用が必要なので会社としてもそれの足しにと云う思惑があった。
それでこの島の研修所や研究・商品開発の施設の存在意義を認めた個人や企業・団体から会社への寄付金と云う形で募っていたのだが、実際のところそれは社員や研修生を「商品」として扱う「人身売買」の代金でもあった。
「それにしても御船先生ってやっぱりお金持ちなのね・・・・・。」
「そうですよね・・・・・。」
そう三浦所長と春菜が会話していると再び机の上の電話が鳴り、取ると今度は藤川社長からだった。
「聞きましたよー。御船先生のお嬢様と園田穂波がご婚約ですって?。これも三浦所長はじめ皆さんの躾が行き届いている賜物ですね。」
「いえいえ、そんな事はございません。社員や研修生それぞれの努力あっての事ですから・・・・・。」
「いずれにしてもこのレズビアンのマッチングビジネスがここのところとても好調だから私としてもうれしいわ。なので次期からはより多くの女子化研修生を島に送り込みますのでご指導よろしくお願いしますね。うふふっ。」
そんな事は露知らず、悠子や穂波たちは今日も女子化研修に励んでいた。
穂波がさくらと云う「純女」から「女性」として認められ、しかも婚約が決まると云う一番身近な人物のおめでたい出来事と重なって同期の研修生は皆女子化への意欲がより増していたし、自分も頑張れば玉の輿に乗れるかもと云う気持ちも持ち始めるようになっていた。
「おはよー、あら?今日は涼子ちゃんはどうしたの?。」
そしてある日、朝のメイドとしての朝食準備や掃除を終え、OL制服に着替えて研修室にやってきた悠子だったが、そこに涼子が居ない事に気が付いた。
「今日は涼子ちゃん”手術の日”で研修はお休みって昨日言ってたわよ。」
「あ、そうだったわねー。でも早いよねー、いよいよ涼子ちゃんも”手術の日”か・・・・・。」
「手術の日」と云うのは女子化研修を進めていくうえで、普段はウィッグの研修生たちが地毛がある程度伸びると自分の髪の毛を女らしい髪形にカットされ、同時に豊胸手術によってバストをつけられてより女らしい体にされると云う日の事だった。
既に何度かに分けて永久脱毛をされ、他にも二重瞼にされたり唇が女らしくプルンとなるようにヒアルロン酸を注入されたりと美容整形やエステで女らしい顔つきや身体にほぼなってはいるが、この日を境に地毛でも女らしい髪形になり、女らしい膨らんだ胸のある身体になる事でほぼぺ二クリ以外は身体的には女性そのものになってしまうのだった。
ちなみに穂波はこの島に来る前から中性的な髪形をしていたので女性的な髪形にできる長さに伸ばすまで余り時間が掛からなかった事もあり、先日のお見合いの時には既にカットと豊胸手術は済ませていた。
他の3人はまだ髪がそこまで伸びてないのでもう少し時間は掛かりそうだが、いずれにしても研修終了までには髪を女性らしい髪形にカットされ、豊胸手術を受けさせられる見込みとなっていた。
その頃涼子はまずは地毛で女らしい髪形にするために館内の美容室に居た。もうあと研修終了まで1カ月ちょっととなり、島に来た最初の頃とは比べものにならないくらい研修生たちはどこから見ても女らしくなっていたが、その仕上げのひとつがこのカットと豊胸手術だった。
「涼子さんおめでとう。今日はいよいよ”手術の日”なんだって?。」
「ええ、そうなんです・・・・・。」
「そっかー、涼子さんもいよいよ女らしい髪形に地毛をカットして胸も付けてもらうんだー。」
「はい・・・・・よろしくお願いします・・・・・。是非可愛い髪形にしてくださいね。」
「任せて!。涼子さんの髪、すっごく可愛くしてあげるから!。うふふ。」
そして洋服の上からカット用のケープを掛けられ、涼子がより女らしくなるためのヘアカットが始まった。
美容師がウィッグを外すと無造作に伸びた地毛が現れ、いずれ地毛を女らしい髪形に整える事は分かっていたからちゃんとリンスもしているなど髪自体は割と手入れされており、その手入れされた髪を美容師はカットしやすいようにまずは霧吹きで湿らせていた。
「髪形だけど研修生の最初の地毛の髪形は慣例でおかっぱボブって決まってるの知ってるよね?。」
「はい、知ってます。お、おかっぱボブにし、してください・・・・・。」
数年前にこの女子化研修が始まった最初の頃から研修生が最初に地毛を女らしい髪形にする時はおかっぱボブにするのが慣例となっていた。
特に意味はなく、ただ髪がそれなりの長さでもまずは手っ取り早く女らしい髪形にできると云う事でおかっぱボブにすると云うだけの事なのだがそれがいつしか慣例となっていた。
なので穂波も髪をおかっぱボブにしてから豊胸手術を受けたし、悠子が初めてこの島にやってきた時に指導役の遥香がおかっぱボブの髪形だったのは今日の涼子と同様に女子化研修の仕上げの一環として慣例でおかっぱボブにされ、そして髪を切った日から間が無かったからでもあった。
髪形に関しては最初はおかっぱボブでもその後は伸ばしてもいいし、そのままおかっぱボブでもいいし逆にショートでもいい事になっている。
ただ穂波は悠子たちが研修終了直前にならないと地毛をおかっぱボブにできそうにないと云う事を知っており、そこで研修終了時は同期は全員同じ髪形でいた方がいいだろうと思い、伸ばさずにそのままおかっぱボブの髪形を維持していた。
「はい、出来上がり。涼子さんかわいくなったわよー。ほら、鏡で見てみて。」
ケープを掛けられた後はいよいよウィッグではなく地毛を切って女らしい髪形にされる事への緊張感もあり、なすがままの状態でカット椅子に目をつむってじっと座っていた涼子は恐る恐るそっと目を開けた。
「は、はい・・・・・。えっ!・・・・・これがあたし・・・・・。」
「わあー、涼子さんすっごくおかっぱが似合うねー!。かわいいー。」
「あ、ありがとうございます。か、かわいくてなんだかいい・・・・・。」
そこには鏡にはさっぱりとしたおかっぱボブの髪形に仕上がった涼子が映っていた。
涼子は元々少し童顔なのもあるがおかっぱボブにした事で女としてのかわいらしさがより前面に出る顔立ちになったように自分でも感じ、この新しい自分の姿と髪形に少しだけ見とれていた。
そしてカット後は穂波たちと同じく軽めのブラウンにカラーしてもらうと医療棟に連れて行かれた。
「あらー、とっても初々しくてかわいらしいおかっぱちゃんねー。じゃあこのかわいらしいお顔にあたしがこれから胸を付けてあ・げ・る。うふふ。」
すると島常駐の整形外科担当医師の村上瀬奈はそんな風に楽しそうに言うと涼子を手術着に着替えさせ、いよいよ豊胸手術が始まった。
執刀する瀬奈は強制的に豊胸手術を受けさせると云う世間一般の常識からすればとてもサディスティックな行為なのにも関わらず、その辺り全く気にしていないどころか楽しそうにさえしていた。
そして涼子は麻酔をされ、その後はずっとウトウトしていて気が付くと手術は終わっていた。
「目が覚めたかしら?。無事おっぱい付いてるわよ。じゃあせっかくなんでおっぱいのついた自分の胸を見てみましょうか、うふふっ。」
麻酔から覚めた涼子はそう瀬奈に言われ、少し胸のあたりに痛みを感じつつも恐る恐る胸元を覗き込んでみた。
「えっ・・・・・お、おっきなおっぱい・・・・・。」
手術の終わった涼子の胸には大きなバストが付いていて「どう?安藤さんのバストは上と相談してDカップにする事にしたの。すてきでしょ?。」と瀬奈が言う。
実は研修生のバストの大きさは自分の希望ではなく上から決められたサイズで強制的に豊胸手術が行われる事になっていて、手術が終わって初めてどのくらいの大きさになるのか分かるようになっていたのだった。
「あたしのおっぱい・・・・・お、おっきいですね・・・・・。」
予想以上に大きな自分の胸を見て涼子は少し戸惑っていた。
ただ上層部は研修生ながらバーシトラスのキャストとしての評判も高い涼子には大きな胸をつけて童顔で可愛らしい顔立ちなのにエッチな事もこなせるセクシーさを兼ね備えた路線で売り出したいと云う事でそうしたのだった。
その後涼子は2日程経過観察で医療棟に入院し、退院後また普段の女子化研修に戻ってきた。
「きゃー!!涼子ちゃんがおかっぱになってるぅー!!。」
「ほんとねー!!おかっぱ似合っててかわいいー!!。」
と口々に言いながら無事戻ってきた涼子を温かく迎える同期の研修生たちだったが、そう言いながらも目線がどうしても涼子の髪形だけでなく胸元にもいってしまう。
「ただいま・・・・・。あ、やっぱりあたしの胸が気になる?・・・・。」
「う、うん・・・・・ずいぶんとおっきな胸になったのね・・・・・。」
涼子はこれまでずっとパットを入れていただけだったのにいきなりDカップの大きな胸になっているとあっては周りも気にならない訳がなかった。
ひと足先に豊胸手術を済ませた穂波はバーシトラス等で和装での接客も多かった事から胸が大きすぎると着崩れしやすいし、また着物が似合わなくなると困るという事で敢えてBカップと云うやや小さめの胸にされていた事もあって涼子の「巨乳」はより目立っていた。
「ま、これからはこの巨乳キャラで女としてやっていきなさいって事だよね。」
「・・・・・。」
そう自虐ぎみに言う涼子を見て、まだ豊胸手術の済んでいない悠子、紗絵、純子の3人はさすがに不安になってしまっていた。
もう自分たちは女になるしかないし、ちゃんとした女になって無事研修を終えてこの島を出たい気持ちには変わりはない。
その反面、自分たちは「商品」として会社から扱われている現実を目の前で見せつけれられている訳で、上のさじ加減ひとつで胸の大きさをはじめ自分の意志の全く入らないところで色んな事を決められ、場合によってはぺ二クリ娘としてお客や百合花倶楽部の会員の相手を今後もしなくてはならない。
かと言って会社や先輩社員に逆らう事なぞできる訳もなく、今はなんとしても無事にこの女子化研修を終える事しか道は無いのもまた事実だった。
「はーい、今日の研修始まるわよー。みんな席につきなさーい!。」
「は、はい・・・・・。」
そう言いながら研修室に入ってきた渚に促され、今日もまた女子化研修が始まった。
(つづく)
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