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(連載小説)気がつけば女子高生~わたしの学園日記㊾ 新女子たちの京都修学旅行/3日目 舞妓姿の新女子たち 午前の出来事~

「おはようございますー。メイクスタッフの者です。こちらのお部屋は2年りんどう組の岸辺様、浦田様、神原様のお部屋でよろしかったでしょうか?。」「はーい、あってまーす、どうぞー。」そう言って部屋のドアを開けるとメイク道具を抱えた女性スタッフさんが入ってくる。

今日は修学旅行の3日目で毎日が楽しい事で盛りだくさんのこの修学旅行のハイライトの日だ。

今日の予定はなんとわたしたち優和学園2年生全員が舞妓姿に扮装し、しかも扮装して写真を撮ったり散策をするだけでなく、なんと舞妓姿に扮装したまま踊りを披露するものでもう何年か続いている「恒例行事」にもなっている。

修学旅行で舞妓の扮装をするのは少人数で個々の自由行動中とかでならよく聞く話で、観光客向けのレンタル着物屋さんや変身処のHPを見て見ると「お得!修学旅行生向け舞妓扮装プラン」とかを設定しているお店も珍しくはない。

たださすがに団体旅行で大人数が舞妓になると云うのは聞いた事がなかったのだけどこれもJPNトラベルの波方さんが企画書・お見積り書をコンペで提出する際に盛り込んだのがきっかけだった。

企画の段階ではさすがにいっぺんに200名も舞妓の扮装はできないと思い、2日目の着物で自由行動の日と組み合わせて半分の生徒は2日目に着物自由散策を済ませてから3日目にこの舞妓扮装をしてもらい、残りの半分の生徒は逆に2日目に舞妓扮装を先に済ませて3日目に着物自由散策をしてもらうと云う案を提示し、更に舞妓扮装も白塗りメイクやだらり帯などの着付けのスタッフと衣装の関係と撮影スペースの問題もあって午前と午後に分けて実施して、舞妓扮装をしていない生徒用には空いた午前と午後のどちらかで貸切バスで半日京都ミニ市内観光を時間調整的に用意すると云うプランだったらしい。

そして波方さんの考えたこの友禅を着ての京都自由散策と舞妓扮装が含まれた修学旅行プランは先生方に大変好評のうちに採択され、ただプラン自体が斬新なのとあれこれとお願いする旅行会社も内容も初めての事が多かったので一度先生方何人かと京都に下見に行く事になったのだった。

校長先生や行事担当主任の大島先生はもちろん三条理事長先生までお越しになられた下見当日、京都に到着して今回わたしたちも泊っている京都洛北プリンセスホテルに先ずは荷物を置いて館内の施設やお庭の見学を済ませてからホテル周辺を下見方々どんな場所にあるのかなどを確かめる目的で先生方と波方さんのご一行様は支配人に案内されながら歩いているとすぐ近くに大きな建物があるのに気づいた。

「支配人、あの建物はなんでしょうか?。」と理事長先生が尋ねるとなんでも京都でも有数のホールで、有名アーティストのライブをはじめ各種催しものや会議・会合が行われる場所なのだそうだ。

「そうなんですね。それだったらもし可能ならあそこで着物で生徒が何かできませんか?。例えば生徒が舞妓の扮装をして踊りを披露するとか。うちの生徒って日本舞踊部の生徒以外も授業で日舞とか一通り2年生なら基本的な事は習ってて踊れるからいいと思いません?。是非一度検討してみませんか?。」そう言われ、理事長先生がやりたいとおっしゃるのであれば是非とも検討しないといけない訳でその日のうちに早速検討会が開かれた。

確かに半分の生徒は舞妓の扮装をしてもう半分の生徒は着物で自由行動と云うのは結局同じことを2日続けて行う訳で、しかも舞妓扮装自体も午前と午後に分けて実施し、空いてる時間は観光バスをチャーターして半日市内観光と云うのだと別途バス代や入場料や駐車料金などのコストも掛かる訳だし、それといつも道路も渋滞している京都市内で半日で市内観光と云っても時間的に見るところは限られてくる訳で全体的に無駄がどうしても多くなってしまう。

だから波方さんとしても本来ならいっぺんに3日目辺りに舞妓扮装を全員でできるのが理想なのだが、プランを実行できるかどうかよく考えずに提出して実際にできないといけないので舞妓扮装が可能なレンタル着物屋さんや変身処の対応可能な数を事前に調べて机上でシュミレーションすると舞妓の衣装の数や対応していただくスタッフさんが生徒全員が一度に扮装だと足りそうになかったのでこのように分割方式でやむなく提案したのだけれど理事長先生は「ねえ、本当に生徒全員がいっぺんに舞妓扮装ってできないのかしら?。修学旅行は2月の平日だし早めに予約したり準備したりすれば衣装やメイクさん、着付け師さんの手配だって可能じゃないのかな。一度再度調べたり業者さんにもお願いしてもらえませんか。これって実施出来たらかなり印象に残ると思うの。」と調べるだけ調べてそれで無理なら仕方ないけどやるだけはやってみましょうと云う意向を示された。

会議中にホテルからホールの方に問い合わせをしてくださっていてホール自体には修学旅行の当日は空きがあるとの事だったのでとりあえずホールの仮押さえを済ませて再度学校側と波方さんで3日目のプランを練り直す事になった。

下見から戻って再度調べてみると京都市内で舞妓扮装ができそうなお店は約20軒から30軒あり、ただ全部が全部のお店とJPNトラベルが利用契約を結んでいる訳ではなく、また旅行会社を経由する予約を受け付けずに直予約かネット予約のみのお店も多かった。

再度ざっと計算してみたところ200名がいっぺんに舞妓扮装をするとなると1軒あたり10名分をお願いするとしても20軒のお店の協力が必要となるし、大まかに白塗りメイクがひとりあたり30分、着付けも時間短縮のために生徒の方で予め肌襦袢、長襦袢まで着ておいてから着付けに掛かるとしてもやはり最低ひとりあたり15分から20分はかかるだろうからその辺りの時間の制約も含めて白塗りメイクや着付けに協力いただけるスタッフさんの確保が課題だと思われた。

それでもがんばって波方さんは城西支店と関西地区の手配セクションで協力して交渉を重ね、なんとかいっぺんには無理だけど2日目と3日目の2回に分けてならスタッフさんと衣装のやりくりがつける目途が立ち、理事長先生のご意向とは少し違うけど、それでもやるだけの事はやらせてもらったのでその件を正直にご報告するために波方さんは優和学園に出向いた。

すると「あら、波方さんちょうどよかった。今こちらも波方さんにご連絡しようと思ってたところなの。」と言われ、なんだろうと思っているといっぺんに行なうには足りないはずの舞妓扮装のための衣装とメイクや着付けのスタッフさんの確保に目途がついたと大島先生はおっしゃるのだった。

それは大島先生がおっしゃるのにはあの後理事長先生が再度別件で京都に出張した際にたまたまお取引先と祇園で舞妓さんがお席に来ていただいての宴席を一席設けていただく機会に恵まれ、その際にお茶屋さんに修学旅行での舞妓扮装の手助けを理事長先生自らお願いしたところ快諾を頂いたとの事だった。

さすが投資ファンドを経営していて日頃から関西の財界にも太いパイプのある理事長先生が祇園のお店の常連でもあるお取引先さんと一緒になってお願いされたら断りにくかったのと、プランの面白さを買って下さり快くご協力を頂ける運びとなったのだった。

それに舞妓さんのお仕事の場でもある宴席は夕方からなのでお茶屋の着付けの方も午前中は時間に余裕があるし、舞妓衣装やメイクに関しても祇園の舞妓変身処さん・レンタル着物屋さんで普段は旅行会社の予約をあまり取っていないお店からも「祇園の近所のよしみ」で衣装を借りれたり、スタッフさんにも来てもらえる事となり、なんとか体制がこうして整ったのだった

こうして全員でいっぺんに舞妓扮装が実施可能となり、実際に行なってみると準備に手間を掛けただけあって大変好評で修学旅行の毎年3日目は舞妓扮装をして踊りを披露すると云うのが恒例行事化し、定着したのだった。

そんなこんなで今日はわたしたちを含めた2年生全員で舞妓の扮装をしてステージに立って踊りを披露させていただく事になり、朝からこうして仕度に励んでいる。

予め時間短縮のために肌襦袢を着て足袋を履き、ホテルのお部屋備え付けのバスロープを羽織ってメイク・着付けスタッフさんをお待ちしていたわたしたちにさっそく舞妓さんらしい白塗りメイクが施される事になった。

一応ちゃんとしたメイクをして振袖を着た事はあるけど舞妓さんの白塗りメイクをするのはわたしもあゆみちゃんも弥生ちゃんも初めてで少し緊張する。

そしてそれぞれが椅子に腰かけてひとりにつき1名づついらっしゃる担当のメイクさんによっていよいよ白塗りメイクがスタートしてまずは丁寧に下地クリームが塗られていく。

一通り下地クリームを肌に馴染ませて塗り終えた後は刷毛で白塗りを塗るのに取り掛かる。まずは舞妓さん独特の後ろから見るとWのような波打つ文様に背中からうなじに掛けて白塗りがひんやりとした感触と共に塗られていく。

「ごめんなさいねー。冷たくないですかー?。」と優しくほんのりとした京都弁で白塗りをしつつメイクさんが気遣って声を掛けて下さるので「いえ、大丈夫ですよ。」とお返事すると「そうですかー。それならよかったです。ほならどんどんと白塗りさせてもらいますね。」と京都弁のメイクさんが言いながらうなじや肩を塗り終わるといよいよ顔も白塗りへとメイクが進んでいく。

「さすがにお若いんで肌きれいですねえー。うらやましいですー。」そう適度におしゃべりを挟みながらメイクしてくださるのはなんでも初めての事に対しては緊張したり尻込みしがちなわたしはもちろんあゆみちゃんや弥生ちゃんにとっても緊張を和らげてくれる感じがするし「この前なんか男子の修学旅行生さんが自由行動で何か面白い事したいって言わはって、団体でお越しになられてグループ全員で女装舞妓さんにならはったんです。もうめっちゃかわいくてびっくりどした。」とわたしたちが「新女子」と知ってか知らずかお店でのエピソードをお話しして下さる。

それにこのメイクさんの所属している変身処は男性客が女装して舞妓さんになるのはお店から外出しなければOKとの事でホームページにも謳ってある事から結構女装のお客さんが多いのだとか。

「もうみなさんほんまに元から女性ちゃうかなあって思った位にうちがメイクさせてもろたらきれいにかわいい舞妓さんに大変身しはるんです。」と楽しそうにお話ししてくださるメイクさん。わたしもバイトで時々男の娘振袖無料試着会にお越しになられる男子のお客様をお世話させてもらっているけどパス度の高い女装子さんも結構いらっしゃるから「元から女性ちゃうかなあって思う」と云うのはよく分かる気がした。

そんな風におしゃべりしながらメイクは進み、白塗りを重ねた顔の上に時々ピンクのチークを使って肌をほんのりとした顔色に整えると眉毛を舞妓さんらしく小さめに描き、続いて目元にこれまた舞妓さんらしく赤い色のシャドウを入れてアイラインを引いた後は真っ赤な口紅がわたしの唇に紅筆で塗られていく。

「ああ、わたしって今どんどん舞妓さんになっていってるんだ・・・・・。」と舞妓さんが実際に使っていると云うおしろいや化粧品の匂いに包まれてメイクをしてもらっているとそんな風に気持ちが段々と変わっていく。

そしてマスカラを入れて目をぱっちりさせ、全体的なメイクの修正をして舞妓メイクがして続けて半かつらをつけてのヘアメイクが始まる。

わたしと弥生ちゃんは髪が長いので地毛と組み合わせた半かつら、あゆみちゃんはおかっぱボブなので全かつらでそれぞれヘアメイクとなるのだが、わたしと弥生ちゃんは半かつらと地毛を組み合わせてのヘアメイクでところどころにビン付け油を使ったりと結構本格的なヘアメイクをしていただいているとますますわたしは舞妓に変身している実感が沸き、気分がのってきた。

元結を付け、前髪をセットし鹿の子絞りの前髪の飾りを付けると半かつらとは一瞬見ただけでは分からない本物そのままの舞妓さんの髪型の桃割れに結われたようなヘアメイクは完成となり、「はいメイクとヘアメイク終了です。おつかれさまでした。とってもかわいくできてますよー。どうですか、鏡で見はります?。」とメイクさんに言われ、わたしは「まな板の鯉」状態のままで自分の姿がどうなっているのか分からなかったのもあって興味津々で鏡を覗き込んでみる。

「えっ・・・・・これがわたし?・・・・・。」

するとそこにはきれいな白塗りされ、ほのかに赤やピンクの色が彩られたメイクに少女の可憐さを残した桃割れに髪を結った舞妓さんが鏡に映っていた。

「これってわたしだよね?・・・・・。」

白塗りで大変身した鏡に映るきょとんとしたわたしを見てこれが自分だとはにわかに信じられなかったのだがわたしが首をかしげると鏡の中の白塗りの舞妓さんも同じように首をかしげ、メイクさんに「とってもメイクしてかわいくならはりましたねー。せっかくなんでにっこり笑顔でいきましょー。はいスマイルスマイル。」と言われ笑顔を見せると鏡の中の舞妓さんもにっこり微笑む。

振り向くとあゆみちゃんも弥生ちゃんもいなくて、そこにはわたしと同じように白塗りをして桃割れのかつらをつけた「舞妓さん」がいるだけでそしてその「舞妓さんは」二人ともわたしと同じように鏡の前できょとんとした表情を見せている。

「お友達もちゃあんと舞妓さんにならはってますよー。ほらお互い見てどうですか?ー。」と言われてわたしたち3人はメイクしたての顔を見合わせた。

「あゆみちゃん、だよね・・・・・。」「うん・・・・・そう・・・・・。」「弥生ちゃん、だよね・・・・・。」「うん・・・・・弥生だよ・・・・・。」

そう白塗りの背の高い二人の「舞妓さん」は恥ずかしそうに少しうつむきながら言う。「由衣ちゃん、だよね・・・・・。」「うん・・・・・わたし・・・・舞妓さんになっちゃった・・・・・。」

そしてメイクを終えたスタッフさんが隣の部屋で待機している生徒のメイク・ヘアメイクに向かうと今度は着付け担当スタッフさんにバトンタッチ。

わたしは予め選んであった白地にところどころピンクのグラデーションの入ったかわいらしさと上品さが合わさった色柄の着物を、あゆみちゃんは背の高さを活かした「松皮菱」と云う大き目の柄が映えて遠巻きにもよく目立つ古典柄の着物を、そして弥生ちゃんはいつものようにチャームポイントのクールでかわいいイメージに合った淡い色の地に小花がいっぱい描かれた着物をそれぞれ手慣れた手つきで着つけていただく。

派手で映えそうな大きい台襟を長襦袢の上に載せ、それぞれが選んだお気に入りの裾の長い着物に袖を通すと6メートルほどあると着付けの方がおっしゃる長い長い帯を舞妓さんらしくだらり帯に結んでくださる。

「帯きつくないですかー?。」と着付けの方は気遣っておっしゃってくださるけど日頃授業や行事、それに最近ではプライベートでも着物の着る機会の多くて慣れたもののわたしたち優和学園の生徒にとって少々帯は最初はきつ目に結んで頂いた方が着崩れしにくくてこの位はかえってちょうどいい位なので「全然大丈夫ですよー。」とお返事させていただく。

そして舞妓さんをを表す特徴のひとつでもあるぽっちりと云う帯締めのような帯飾りをつけて最後に帯揚げをすると着付けは完了し、まるで今日がデビュー初日のような初々しい「新人舞妓」3人組ができあがった。

「わあー、ほんまにかわいくならはりましたねー。とってもメイクもお着物もお似合いでまるで本物の舞妓さんみたいですー。」とスタッフさんにおっしゃっていただき改めて部屋の姿見で着付けが終了して舞妓さんになった自分の姿を見ると白塗りメイクのおかげもあり、これが自分とはとても信じられない・・・・・。

でもあどけない少女らしい楚々としつつ可憐でそれでいてお座敷や舞台と云った人前に出ても映えそうな艶やかな独特のあの裾の長い着物を着て帯をだらり帯に結んだ舞妓姿の自分を見ると今まで結構色んな着物を着させてもらったけどそのどれとも違った感じでわたしは胸が少しキュンとしてそしてどきどきしていた。

思い出すと中学の時にはじめて着物女装をした時や高校に入る時のはじめて袴制服に袖を通した時、そして展示会のアルバイトではじめて本格的に振袖を着た時などそれぞれ異なる衣装とシチュエーションでわたしは変身した自分を見て「これがわたし?」とびっくりした体験をしてきたけど今日もまたこの舞妓姿の自分を見ると今までの体験と負けず劣らずまるで自分が自分でないみたい・・・・・。

横を見るとあゆみちゃんも弥生ちゃんも舞妓姿になった自分を姿見で見て見事なまでの変貌ぶりにしばし声が出ないまま鏡に映った自分にじっと見入っていて特にあゆみちゃんは部活もなぎなた部か日本舞踊部にするか最後まで悩んだくらい踊りに興味があるくらいだからこの姿を見てさっそく気持ちはもう舞妓さんになりきっているよう。

スタッフさんに舞妓姿で歩く際の着物の裾の持ち方や姿勢や歩き方を教わり、用意されていた舞妓さん独特のおこぼと云うかかとの高い木で出来た下駄を履いて部屋の中で少し歩く練習をしてみると台の底をくりぬいたところに鈴をつけてあるこの下駄から「こぽ、こぽ」とかわいらしい音がする。

そうやって練習をしていると「由衣ちゃんー、準備できたー?。写真撮影行くよー。」とドアをノックする隣の部屋の千尋ちゃんたちの声がする。

「はーいお待たせ―。ちょっと待っててー。」と言いながら舞妓さんがよく持っている大き目の巾着袋に貴重品やスマホを入れてドアを開けるとそこにとてもきれいでかわいらしい3人の「舞妓さん」がいた。

(つづく)









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