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贖罪、一生償う事が出来ない罪。絶望から繋がる愛とは?東野圭吾さんの手紙を読み終えて

非常に考えさせられました。犯罪とは無縁の僕たち一般人ですが、いつ何時自分が犯罪者側に立つ時が来るのかはわかりません。決して他人事ではないからです。だからこそ、僕達は知る必要がある。理解する必要がある。人と人との繋がりは、いつどの様な形で繋がるかわからない。そしていつどうやって崩れるのかわからない。それが人生というものなのでしょうか?

自分と血の繋がった兄弟。竹島剛志は弟の大学受験の為に、自分の人生を捨て死に物狂いで働いていました。兄弟が幼い頃に父がいなくなり、母親の手で兄弟を育てていました。大学へ行き、いい職場へ就きなさい。自分の人生を切り開きなさいという母親の教えも虚しく、母親は病気で亡くなってしまいます。剛志は自分の不甲斐なさに絶望し、せめて弟の直貴のこれからの人生のため、一生懸命に働きます。ですがその過酷な労働のせいで身体を痛め、思うように働けなくなります。直貴はそんな兄を見て、高校を卒業したら兄のためにも働く決心をしますが、母親の教えを守る為に、直貴に大学受験を受けることを願います。

引っ越し業者で訪れた資産家の家。そこの家主の老婆は剛志に温かい言葉をかけてくれた事を思い出します。どうしてもお金が必要であった剛志は、ある時その老婆の家に忍び込みお金を盗もうと考えます。家主が不在だと判断し、家に忍び込みます。封筒に入った百万円札を手にし、後にしようとした時、ふと弟が好きだった天津甘栗の袋を見て、持って帰ろうとします。そして裕福な暮らしに憧れていた剛志は大きなテレビに惹かれ、そこで少しだけ滞在してしまうのですが、その時寝室で眠っていていた老婆と鉢合わせしてしまうのです。警察を呼ばれそうになってもみ合いになった際、剛志は老婆を刺殺してしまいます。

強盗殺人の容疑で逮捕されてしまった剛志は、罪の償いとして弟に手紙を送ります。自分のしてしまった罪の重さ、そして弟を裏切ってしまったという罪悪感。人の人生を狂わせてしまった自分の行いを改めて思い知らされるのです。

高校も卒業間近だった弟の直貴は、大学受験を諦め就職をする事に決めました。犯罪者の家族として生きていく事はとても辛い事でした。働き先が見つかっても、いずれ兄の罪がバレてしまう。幾度も幾度も自分は迫害され続ける人生。ようやく居場所を手にした工場勤め先で、白石由美子という女性と出会います。彼女だけが彼の過去を知っても理解してくれた、拒絶せずに向かい合ってくれた。ですが直貴は彼女の手を常に振り払ってしまいます。

通信制の大学から一般大学へ進学し、そこで出会ったバンドマン寺尾祐輔に歌の才能を見出され、バンドに誘われます。地元のライブハウスで実績を重ね、レーベル会社からプロのスカウトを受けました。自分を理解してくれるバンド仲間と居場所を手に入れた直貴ですが、やはり兄の影が彼を邪魔します。彼がいてはレーベル会社はオーケーしてくれないとわかった直貴はバンドを脱退します。

昼間は大学へ通い、夜はバーテンダーの仕事を始めた直は、苦しいながらなんとか人生を立て直そうとします。大学の合コンに誘われた際に出会った中条朝美と恋仲になり、両親に挨拶へ向かいますが。彼女の家は地元でも有名な資産家でした。自分とは釣り合わない、そう思い知らされた直貴は、彼女と縁を切ってほしいと投げかけられます。そこでもまた兄の存在が彼を邪魔しました。

一歩進めば戻される。自分はずっと兄のせいで自分の人生はめちゃくちゃになる。毎月送られてくる兄の手紙にも、返事を書かなくなり、終いには住所を伝えることがなくなり、手紙が届かなくなります。その間もずっと由美子は彼の為にサポートをしてくれます。届かなくなった手紙にも由美子は直貴の代わりに返信してくれていました。

どんなときも、由美子は陰ながら直貴をサポートします。電気会社へ就職が決まった時、兄の存在がバレてしまいますが、それを繋ぎ止めてくれた由美子の手紙。彼は1からまた頑張ろうと決意します。

由美子と直貴は結ばれ、裕福では無いですが娘も授かり人生は上向いていきます。ですが娘の保育園でもまた、兄の影響のせいで最愛の娘が被害に遭ってしまいます。見かねた直貴は兄と決別を決意します。15年の実刑の後、自分とは会わない事、関わらない事。その約束を彼自身の字で手紙を書きます。

そして罪の償いとして、改めて被害者の家に訪れる直貴。償いをして自分はもうその影に怯える事は無いと思ったからです。被害者遺族の息子緒方忠夫から、沢山の手紙を預けられます。それは兄からの償いの手紙でした。

自分のしてしまった罪の愚かさ、弟の人生を狂わせてしまった自分自身の愚かさ、そして弟をどうか憎まないで欲しいという兄の願い。その手紙を読んだ直貴は決別してしまった事を後悔します。

贖罪。兄はずっとその罪を背負っていく。そして弟と決別してしまった悲しみ。彼の最後の手紙を読んだ直貴は、昔のバンド仲間の寺尾と最後の演奏の為に、兄の刑務所で歌うことを決意します。最後の兄への面会の為に。

最後のシーンは涙無くして読めません。差別がない世の中、争いがない世の中。ジョンレノンは強く歌っています。ですが残念ですが、世の中からは差別も争いも無くならないです。差別も争いも、時には自己防衛でもあるからです。

何かを守る為には、何かを手放さなければいけません。優しさとはそういうものです。そのどちらも救えるなんてことはないんです。もし自分が同じ立場に立ったとして、犯罪者の遺族であっても、自分に被害が無いとは言えません。世の中はそういうものだと僕は実感しました。

以前の僕はそのどちらも出来るはずだと信じていました。でもそれでは自分が壊れてしまう。自分はずっと幸せにはなれないと身を持って実感したんです。ですが、自分がどんな状況にいたとしても、自分だけが辛いわけではない。自分が辛い時は必ず理解してくれる人がいる。そしてその逆も然りなんです。

どんな時もどんな状況でも決して直貴を見捨てず、見限る事なくサポートしてくれた由美子の様に、必ず人は見ていてくれている。理解してくれる。どんな時もサポートしてくれる人がいるという事をこの作品で知ることが出来た。世の中は残酷です。ですが自分だけではない。どんな時も、どんな状況でも自分は一人ではない。その事をこの作品は教えてくれたのだと思います。

そして獄中で罪の償いをしている兄もまた、彼自身の課題なのです。彼もまた何かを支えて、支えられて生きていくんです。彼は決して悪人ではない。彼の弟への強い想いがこの様な結果を招いてしまった。そして自分はずっとクリーンで居続けられるわけではない。いつか自分も同じ立場になるかもしれない。だからこそ、人生というものを甘く見てはいけないですし、簡単に投げ捨ててもいけないんです。

この世の中、若者の自殺が後を経ちません。他殺は認められないが自殺は正しいとは思いません。どちらも誰かの心を傷つける。命はとっても重いものだと理解して欲しいです。綺麗事だけは世の中ってうまくはいかないものですからね!

久々に感動できる作品に出会えました!やっぱり小説は良いものですね。

それではまた📚📚📚📚📚📚




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