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つづく、ひととき

目を閉じて、あの空間を思い描くと、
五感がすべてを思い出す。


客室に入った瞬間に、全身を包み込むような木の香り。

素足に触れる優しい木の肌触り。

ねころがった時の、やわらかい、ベッドのような木の床の感触。

外から差し込む光がつくりだす、木漏れ陽と木に映る、木の影。

見上げると、一枚一枚似ていたり、違ったりする木目。

窓から見える、きらきら輝く河と、青々としたゆれる緑の木々。

そこに鳥のさえずりが相まって、自然が戯れている音。

まるで、人と木の狭間のような、

いや、もはや木々の一部になりつつあるような、

とんでもない、佳境にいる。

人間は、自然の一部である、と言っていたある人の言葉を思い出した。


目を開ける。


そこに広がっているのはなんでもない、
いつも通りの日常。

けど明らかに、その日常に、

あの時のあの空間、あの日々が溶け込んでいる。

街中の木々がゆれているのを見て、あの時の木々と重ねたり、

大学の窓から差し込む木漏れ陽を、あの空間と重ねたりする。

いつも何気なく歩いていた道が、木に囲まれた小路のように思えて、わくわくしたりもする。

身近にも、こんなに素敵な景色があったんだと、気づかせてくれて、

日常に埋もれた、大切な何かを見つけ出してくれるような。


こうして、

ふとした瞬間の、ふとした景色が、あの日々へ連れていってくれる。



そうそう、

あの場所を去るとき、置き手紙をそえてきた。

溢れる余韻、届いているといいな、
と思っていたら、

2日後にお返事があった。

"いつでもここでお待ちしております"

そう締めくくられたそのお返事は、

まさに木のようにあたたかい、あの場所のご夫妻、家族からの、

特別な贈り物のようだった。




いつでも帰る場所が、少し遠くにできた感覚。

また、あの日々(hibi)に、逢いにいこう。