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ESGの分水嶺


ESGの使用を止める

     ブラック・ロックのラリー・フィンクCEOは「ESG」と言う用語を今後使用しないと発言した。ブラック・ロックは世界最大の運用会社であり、その影響力は甚大なものである。同用語の使用を止める要因として、「政治色が強くなった」や「大きな分断」を生み出しつつあることを挙げた。ロイターによると、フィンクCEOは「極右も極左もESGを攻撃材料として使うため」としている。但し、同用語の精神を否定するものではなく、これからも投資先を選定する際にはその点を考慮していくことを付け加えている。また、すでに年次書簡で同用語の使用をやめている。

   使用をやめた背景にはそれだけでは無い。ブラック・ロックは世界最大の運用会社が故にその投資先は多岐に渡っている。勿論、その中には石油関連セクターも含まれる。近年、この点を環境活動家やリベラル派に攻撃されていた。更に、退職者の年金も運用している。この中にはESGに懐疑的な州の年金資産が含まれており、その州の知事から批判の的にされることもあった。これもフィンクCEOが同用語の使用をやめた一因と考えられる。

サウジアラムコCEOを取締役に

    ブラック・ロックはサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナセルCEOが取締役会に加わると発表した。発表文によると、フィンクCEOはナセルCEOが2015年にアラムコの上場する際に関与し今日に至るまで同社を率いていることを鑑みて、同氏が「ユニークな視点」を提供してくれると説明している。

    現在、ブラック・ロックの取締役会にはアラブ経済社会開発基金のバテル・サード氏がいる。同氏は次の取締役候補に立候補しないとしているが、ブラック・ロックが長期的な視点で中東に関与して行こうとする姿勢を反映している。中東は言わずもがな石油の一大生産国である。脱炭素社会に向けた取り組みとして、中東の存在が欠かせないと判断したと思われる。

曖昧さ

    そもそもESGとは、2006年にUNが提唱した「責任投資原則」の中で使われた用語であった。企業価値を測定する際に従来の財務諸表等だけに求めるのではなく、環境(Environment)、社会(Society)、統治(Governance)を考慮することが求められた。これにより、機関投資家や企業自体もその様な観点に配慮しながら資産運用や企業活動を行なっている。

    しかしながら、ESGの判断基準として個別具体的な数字が存在する訳ではない。つまり、各人が自分の物差しにおいて判断を下している。ここにESGの曖昧さが伴うのである。例えば、一般的な人から見れば十分にESGを考慮していると考える項目でも先鋭的環境団体からすれば「不十分である」と見做される可能性もある。確かに、一応、国際的な基準が存在するがそれに従うことは絶対ではない。

   また、ESG離れは他の業界でも起こっている。保険会社で作る「ネットゼロ保険同盟(NIZA)」から離脱社が相次ぎ現状、加入者よりも離脱社が多い状況になっている。表向きは、同同盟に加入することが独禁法に抵触する恐れがあるとしているが、本音は反ESGの圧力だろう。

    この様に各所でESG離れが起こっている。各社とも脱炭素社会の実現や企業活動における社会的責任を果たす姿勢は堅持している。しかし、フィンクCEOの言葉を借りれば、「政治色が濃く」なり過ぎESGをめぐる論調は「醜悪」と言わざるを得ない。昨今はSDGsと言う用語も流行っているが、同じ道を辿るのでは無いかと危惧している。当たり前のことを当たり前にやるだけ。これに尽きるのではないかと思う。

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