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「小講座制」と「大講座制」

「講座制」とは

以前の記事で「講座制」とはなんぞやということを簡単に説明したのですが、今回は「講座制」をさらに詳しく掘り下げたいと思います。

そもそも、「講座制」は、教育だけでなく研究の機能を持つ旧制の大学、それも帝国大学に固有の組織原理でした。「講座制」の講座は、ある学問分野の専門領域を表しています。原則として、教授:1、助教授(今の准教授):1、助手(今の助教):1〜3が配置され、教授・助教授・助手という3職階の教員がワンセットになって一つの講座が構成されます。


大学院重点化に伴う移り変わり

この「講座制」ですが、1990年代以降の大学院重点化に伴って、旧来の「小講座制」から「大講座制」へと移り変わっていきました。

大学院重点化に関しては、また別の機会に詳しくお話しできればと思いますが、簡単にいうと、日本の研究能力を活性化させるために、大学院生の定数を大幅に増加させるというものです。



「小講座制」の問題点

話を元に戻しますが、旧来の「講座制」=「小講座制」には構造上の問題点がありました。

それは、教授・助教授・助手という定員のある教員が上下関係を構成しているということです。

例えば、「小講座制」では、ある講座を運営している教授が定年退職をする際には、その下についている助教授・助手がそのままスライドして、一つ上の階級に上げてしまうという教員人事が行えてしまうのです。
つまり、体外的には「公募」というかたちをとっていながら、実際は最初から結果が決まっている出来レースが実施されていたり、もしくは研究能力ではなく教授とのコネや人間関係で教員の職が用意されたり、ということが起きていました。

2000年代の教員によるブログにも、当時の教員人事が描かれています。

さらに学科の中には、講座というのがあって、たとえば機能センサー工学講座とかね。一つの講座には教授、助教授、助手が複数人いていわゆる大講座というものを今は形成しています。ただ、数年前までは小講座制で、山大工学部の場合は一つの講座すなわち研究室には教授、助教授、助手が一人ずついたんですよ。学科によっては今でも書類上は大講座制でも、実は運営は小講座制という極めて外から見ると分かりにくい構造になっているところがあります。ですから、教官人事も昔ながらの小講座の教授が助教授や助手人事を決定できる場合が多いです。たとえば、教授は自分の講座の助教授席が空くと、助手をエレベーター式に昇進させたりできるわけです。あとは学科の教授間で話がつけば、人事委員会で承認され、最終的には教授会で投票して承認します。教授会の構成メンバーは助教授以上です。人事を起こす場合には、実際には一応一般公募という形をとりますけど、7割くらいの人事はすでに決まってるデキレースの場合が多いですよね。自分の助手を助教授にするとか。ですから、他大学のポストに応募するときは、その大学の知り合いの教官にそれがデキレースかどうか確認しないと、時間の無駄で、あとで不愉快な思いをするわけです。だから、日本では大学間での人の動きが少なくてね、不健康なよどんだ社会になるんですよ。それから、他学科や他講座の教官人事にチャチャを入れると自分の学科や講座の人事の時にチャチャ入れられるから、基本的には他学科、他講座の教官人事にはノータッチですね。おかしいと思っても、そのまま通しちゃうわけです。極めて日本的ですよねえ。

城戸の独り言

それによって、優秀な若手研究員であっても、教授との関係性が良くないと、いつまで経っても教授にはなれず、研究室を運営できないという事態が発生し得ました。


「大講座制」による改善の試み

この問題を解決するために採用されたのが、「大講座制」です。
多くの場合は、それまで存在していた講座を統合する形で形成され、より民主的な研究室運営が行われることが目指されました。この制度では、一つの講座に対して、複数の教授・助教授・助手を配置することが可能になりました。そして、教授と助教授はそれぞれが独自に研究室を運営するようになり、助手は名目上は特定の教授もしくは助教授の下につくということは無くなりました。

「小講座制」の場合は教授・助教授・助手など多くの教員の指導を受けるのに対して、「大講座制」の場合はある一人の教授(or 助教授)の指導を受けることになります。

学生側から見ると、制度名と指導教員数で大小関係が逆転しているのが面白いですね。


「大講座制」の問題点

しかしながら、「大講座制」もいくつかの問題点が指摘されています。

一つ目は、「大講座制」をとっているように見えて、実際はいくつもの「小講座制」の研究室の集合体になっているということです。制度上は「大講座制」であっても、かつての運営形態を維持している大学も多くあるようです。「小講座制」は、絶大な裁量権を持てる上位クラスの教員陣にとってはメリットがあるので、なかなか変わりにくい面があるようです。

二つ目は、学生の指導環境の悪化です。「大講座制」では、従来の「小講座制」と比べ、一つの研究室を運営する教員の数が減少しています。それによって、学生一人あたりの面倒を見てくれる教員数が減少し、手厚い指導を受けられなくなっているという側面が指摘されています。




まとめ

今回の記事を通して、研究室の構造について少し理解を深めてもらえたのではないかと思います。

現在と昔では、アカデミックの世界で生き続けるための処世術が変化してきていると思います。また、大学教員になるだけでなく、外部の民間企業で働くという道もあります。

少しでも読者の皆さんが将来の進路を考える助けになればと思います!

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