週G1227-6

「つづく」のフライヤーには、揺らぎがある。

東京都現代美術館で絶賛開催中の展覧会、「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」

2020年にブランド設立から25周年を迎える「ミナ ペルホネン」と、デザイナーの皆川明さんのクリエイションの数々が展示され、これまでの軌跡と、これからも変わらないテキスタイルや服づくりに対する考え方・理念に触れることができる充実の展覧会です。

連日、多くの人で賑わっています。ミナの服を着ている人やバッグをお持ちの方も多く、ファンを大事にしてきたブランドであること、ブランド理念が多くの人々の共感を集めてきたことを感じさせます。

さてこちらの展覧会、「つづく」という一言で見事に表されたタイトルと、皆川明さんがあやとりを行う手を写した印象的なビジュアルも話題です。

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(東京都現代美術館 公式ホームページより)

展覧会のメインビジュアルは上田義彦さんが撮影され、グラフィックデザインをサン・アドの葛西薫さんが手がけています。

GRAPHはこの展覧会のポスターやフライヤー、招待券などの印刷物のプリンティングディレクションと印刷を担当しているんです。

2種類のデザインに、10種類の紙を

印刷物制作は、まずは皆川明さん、そして葛西薫さんが展覧会ビジュアルを通して表現されたいと考えていらっしゃることを共有することから始まりました。

GRAPHでものづくりや印刷物に関するPMといえばこの方、若狭さん。

手がけた印刷物をずらりと並べていただき、お話を伺ってきました。

つづく_若狭さん

若狭さんにはPMとしてこちらの記事にも登場していただきましたが、今回はプリンティングディレクションも含めてお話を聞くことができました。

「ひとくちにプリンティングディレクションといっても色んなパターンがあります。大まかなイメージだけをお客さまから伺い、紙の選定から製版・印刷の方法、機械の設定方法、インキの提案など印刷に関する部分を丸ごとお任せいただく場合もあれば、基本的にはデザイナーさんやお客さま側が決めるものの、イメージを実現するためにGRAPHがサポートを行う、という場合もあります。『つづく』展の場合は、後者でした」

印刷を含むクリエイティブディレクションをサン・アドさんメインで行うことになり、最初に共有されたコンセプトは次のようなものでした。

「今回の印刷物に関する基本的なコンセプトは、皆川さんと葛西さんでまとめていらっしゃって、そのうちの重要なキーワードのひとつに“無駄にしない”というものがありました。皆川さんのクリエイションでは、手間ひまをかけて大切につくった布を少しでも活かすべく、余り布を無駄にせずにさまざまなアイテムに展開されたりしていらっしゃいます。印刷物についても同じような思いで、当初は『倉庫に眠っている廃盤品や、印刷の際に出てしまう捨て紙など、捨ててしまう紙を集めてつくりたい』というお話があったんです」

とても面白いコンセプトだったものの、別の印刷物に転用できるような“余り紙”を集めることは難しく、コンセプトを表現する質感をもった紙を選ぶことに。

最初に制作されたのは、ポスターと、断片的な情報のみを掲載したティザーフライヤーです。

フライヤーは「つづく」の部分がブルーもしくは黒の2パターンのデザインに対し、10種類の紙を使って印刷しているそう。

↓紙の違い、お分かりでしょうか?

ティザー紙の違い

↓裏返してみるとわかりやすいですね。

ティザー紙の違い2

「余り紙を集めるという方法は実現できませんでしたが、その代わりにいろんな印象の紙を使ってつくろうということになったんです。さらに、印刷もあえて揺らぎがあるように設定していて、全て少しずつ違っていて1枚として同じものはない。そのような組み立てを行いました」

先ほどの写真を見ても、特にオモテのクリーム色の部分はそれぞれかなり違っているのがわかりますよね。これ、全て同じインキ、同じ機械で印刷しているのです。

印刷現場はライブのよう。職人の技術と感性で、1枚ずつ違う仕上がりを実現

印刷においては、1つのアイテムに対して使う紙は通常1種類です。機械の設定もインキの仕立ても固定され、職人さんも専任で担当します。同じ見え方に仕上げることが普通ですし、そのためにできるだけ環境を安定させます。

10種類もの紙を使うなんて、イレギュラーなことなのです。紙の厚さも紙目もバラバラなので、印刷結果もぶれますし、うっかりすると機械が壊れてしまう可能性もあります。

「今回は、その“ぶれ”を良しとする案件でした。通常の印刷では予備紙を入れて、印刷が安定するまでしばらく試し刷りのようなことをしますが、今回は“予備をつくらず、ロスを出さず、全数納品する”という話になっていましたので、印刷は本番一発勝負。職人さんの腕にかかっていました」

ティザーフライヤーの仕上がりイメージは、均一できれいなインキののりではなく、少しかすれていたり、ムラがあったりして奥行きを感じるようなもの。仕上がりの差異も楽しめるように、との意向があったそうです。

↓こんな感じ。ブルーの部分が均一でなく少〜しだけムラがあり、機械的すぎない空気感があります。

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印刷機を動かす日、若狭さんも日程を合わせることができ、兵庫県加西市の本社工場にて立ち会うことができました。

フライヤーは1枚ずつ印刷するのではなく、大きな紙に同じデータを複数配置して(面付け、といいます)印刷していきます。

複数枚分のフライヤーが印刷された大きな紙を印刷後に断裁して、1枚のフライヤーがつくられます。

「今回はあえて仕上がりが1枚ずつぶれるように、面の場所によって機械の設定を微妙に変えています。

色校正も実施しませんでしたので、印刷機を通すまで、どんな印刷物が出てくるかわからない状態。

本社工場の職人さんが、出てきたフライヤーを見ながら、その場で色の濃い薄いやインキののり具合を微妙に調整していってくれました」

まるでライブのDJのような職人技。

こうして、 10種類の違う紙の仕上がりが異なることはもちろん、同じ紙であっても、1枚1枚印象の違うフライヤーが完成しました。

↓こちらは全て同じ紙に印刷されたものですが、このくらい色が違います。並べてみると一目瞭然ですよね。

ティザーちらし

印刷機で刷られた順番によっても違うし、面付けの位置によっても違うので、目にすることがあったら、きっとその場にあるものを一つひとつ比べてみたくなると思います。

ティザーフライヤーの制作・納品が終わると、上田義彦さん撮影の写真が入った本番フライヤーや、ポスター(こちらもティザー版と本番があります)、招待券など、さまざまなアイテムを同じようなイメージでつくっていきました。

アイテムによって紙が違ったりデザインが違ったりするため、その都度同じ印象に仕上げるには細やかな気配りと確かな技術が必要です。

たとえばポスターに関していえば、美術館や駅などに掲出される本番ポスターは、場合によっては屋外に貼られたり、屋内であっても人や風がよく通る場所だったり触ることができる位置に長期間にわたって貼られるものであるため、より耐久性のある丈夫な紙を使用しています。

つづくポスター

「丈夫な紙、ということは目が詰まっている紙であるということです。そこに印刷をすると、表面がきめ細かいのでインキののりがよくなり過ぎてしまうんです。きれいにインキがつきすぎると、コンセプトに沿った仕上がりイメージである“奥行きのある空気感”を表現できません。職人さんが機械の設定を変えながら試行錯誤してくれました」

印刷は、まるで生き物のようなもの。

「つづく」展のフライヤーやポスターは、まさにそのことを教えてくれる印刷物なのです。

そうそう、最後にひとつレアな秘密をお教えします!

「つづく」部分が黒いタイプのティザーフライヤーは、実は黒インキだけでなく、ブルーを下にこっそり敷いています。

だからものによっては、このように・・・・・・

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ブルーがチラリしているものがあるそうです。(八木、美術館で探しました)

もっと激しくずれているものもあるとかないとか……。

見つけたらかなりレア!!!

「ティザーフライヤー(上田義彦さんのメインビジュアルがないデザインのフライヤー)、黒バージョンだけ」に見られるそうです。

フライヤー1枚1枚に宿る空気感の差異を、ぜひお楽しみください。

展覧会もとてもよくできた構成で、感動が待っていますので、ぜひ足をお運びください。


<展覧会情報>

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」

会期:開催中〜2020年2月16日(日)

会場:東京都現代美術館

<お知らせ>

「週刊GRAPH」は毎週金曜日更新です。

来週2020年1月3日の更新はお休みいたします。次回更新は1月10日の予定です

GRAPHでは新年を迎えるにあたってなにやら楽しい企画を考えているもよう・・・! 

どうぞお楽しみに。

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2019年12月連載開始。Design×Printing=GRAPHを標榜する、グラフ株式会社のことについて、主につづります。おおむね毎週金曜日更新。 執筆者:八木美貴 編集・ライター。 デザインや建築、インテリアなどのジャンルでムックや雑誌、ウェブ等を編集執筆しています。
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