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みっしょん!! 第10話「鋭い目の男との戦い」
第10話「鋭い目の男との戦い」
壁画の描かれた遺跡の中を走っていく、若矢。
少し走ると、前方にあの男が歩いているのが見えた。
ファブリスたちに任せてきた若矢だったが、やはりあの魔族の力は危険だと感じていた。
そこでイチかバチか、あの男に共闘をお願いできないかと考える。
「あのっ!! ま、待ってください!!」
「なんだ? もう追いついたのか……」
追いついた若矢が叫ぶと彼は一度立ち止まって振り返るが、再び遺跡の奥に向かおうとする。
「待ってください!! あの戦いに加勢しないと……ファブリスさんたちが危ないんです! ディドロスって魔族は想像していたよりも強いみたいなんです」
「そうか、あいつは思ったより強かったか……なら急いだ方がいいな。レリクスは俺がいただく」
そう言って歩き出した男の前に、若矢が立ちふさがった。
「……何の真似だ? どけ」
さして興味もなさそうに男は若矢の横を通り過ぎようとする……が、その手を彼に押さえられる。
「お願いします! 俺と一緒に戻って、ファブリスさんたちを援護してください! あの魔族は強いんです!」
若矢は必死に男を説得しようとするが、彼は聞く耳をもたなかった。
「先を急ぐんだ。そんなに助けたければ、お前1人で戻ればいいだろう? ここで誰が死のうが俺には関係ないからな」
男は若矢の手を払いのけると、遺跡の奥に向かって歩き出す。
「ファブリスさんたちが負けたら、新たな魔王が誕生するかもしれないんですよ? そしたら大勢の人がきっと死ぬ! 世界を救いましょう! ディドロスって魔族はきっと魔王ムレクよりも強い!」
なおも必死に説得しようとする若矢だが、男は振り向きもしない。
「俺の知ったことか。お前は他人に、自分の要望を押し付ける気か?」
「そ……そんな! だって世界を救うのは当たり前じゃないですか!?」
若矢は男の言葉に思わず声を荒げる。
すると男はようやく足を止めて、彼の方を振り返った。その目は昨晩と同様に、鋭い光を放っていた。
「お前には俺が善人に見えているのか? なぜよく知らない奴らを助けなければならないんだ? ヒーローごっこなら1人で勝手にやってろ」
彼の一言に戸惑いを隠せない若矢。
「ヒーローごっこ……!? 俺はそんなつもりで……」
「じゃあお前は、その”世界を救う”という言葉をどう考えている? それはお前自身の意思なのか?」
再び歩き始める男。
「俺の……意思……? そ、そんなの! そんなの当たり前だろっ!! 強い力を持った人は弱い人たちを助けてあげないと! 俺にはわかります! あなたも強い人だって、だから……」
「……くだらん。お前と話をしている時間が惜しい。俺は先を急ぐ」
「ま、待って……」
……ドンッ!!
次の瞬間、若矢は男に突き飛ばされていた。
思わず尻餅をついた彼を見下ろすように男が言う。
「俺に関わるなと言ったはずだ。これ以上邪魔をするなら、容赦しないぞ」
その瞳はまさに、獲物を噛み殺そうとする猛獣のようだ。
再び歩き出す男の背中に、彼は叫んだ。
「だったら力尽くでもあなたを止めて見せます!」
そんな若矢を、男は鼻で笑う。
「お前、自分の言っていることがメチャクチャだと気付いてないのか? 俺に構っている暇があるならさっさと……」
そう言いかけたとき、男の腹部に衝撃が走る。
若矢の拳が彼を殴りつけたのだ。
「くっ……。貴様……」
男は腹部を押さえ、若矢を睨みつける。
しかし、彼はひるむことなく男に対峙する。
「俺はみんなを守りたいんだ!! あなたも助けたい! だからここで力づくでも俺の力を認めさせて、一緒にファブリスさんを助けに行ってもらう!」
「ふん……人間ってのは急に力を手に入れると、気が大きくなるらしいな」
男は不敵に笑い、自らの拳を握りしめた。
「若矢くん、彼と戦うつもりなの?」
ラムルが若矢の方を見て、心配そうな表情を見せる。
「ラムルごめん……でも俺は……この力で全てを守りたいんだ」
若矢は拳を強く握りしめ、男を睨む。
「まったく、すべて支離滅裂だ……。だが、このままウロチョロとされても面倒だ。お前には死んでもらうとするか」
男は、来い、と手をクイッと曲げた。
「よし……全力で行かせてもらいます! 俺の力がどれほどか、あなたに見せてやりますよ!!」
若矢は男に向かって駆けていく。そして勢いよく右手を突き出す。その一撃は確実に男の体に叩きこまれた。
「ぐっ——先ほどの一撃と言い、やはり転生者の一撃は重いな。だが、この程度ならたかが知れている」
若矢は一旦距離を置き、すぐに男に向かって再び駆け出す。
そのスピードは今までとは比べ物にならないほど速い! 目にもとまらぬ速さで男に肉薄し、今度は蹴りを繰り出す!
しかし男はその一撃を簡単にいなした。
「やはりな。身体能力は驚異的なものだが、技術が全く伴っていない。対処は簡単だ」
「う……うるさい!!」
若矢は連続で男に拳や蹴りを繰り出すが、男はそれを全ていなし反撃に出る。
そして若矢の攻撃の合間を縫って彼の腹部に一撃を叩きこんだ。
「……ぐはっ!」
若矢は大きく後ろに飛ばされるが、なんとか体制を立て直す。
「ま、まだまだ!」
若矢は再び男に向かっていく。
そんな彼に男は余裕の笑みを見せた。
そして次の瞬間、男の体は黄褐色のオーラに包まれる。
「一撃で決めてやる」
その様子に驚愕の表情を浮かべた若矢だったが、
「こんなところで……こんなところで俺は負けるわけにはいかないんだぁぁ!!」
そう叫ぶと、若矢の体は緑色のオーラに包まれる。
「……何だとっ!? なぜ、こいつが闘気を扱える?」
次の瞬間、2人の拳が激しくぶつかり合う。
ほぼ互角の打ち合いだったが、パワーで勝る若矢の拳が男の拳を力で押し込んでいき、ついには男を弾き飛ばしてみせた。
男はそのまま、遺跡の壁に激しい勢いでぶつかる。
「くっ……」
その衝撃で壁は崩れ落ち、男は瓦礫の中に埋もれた。
若矢も予想外の力の発揮に驚き、その場に膝をつく。
「す……凄い! これが俺の力……」
若矢は男に視線を移すと、男は瓦礫の中から立ち上がる。
「くっ……こんなバカなことが……」
しかしその瞬間、男の胸に衝撃が走る!
「ぐはっ!」
男が視線を落とすと、自分の胸に若矢の拳が突き立てられている。
「あ……あなたは強い。でも、ここで負けるわけにはいかない!」
若矢の体からは、これまで以上の闘気が吹き上がる! 男は再び若矢に向かって拳を振りかぶった。
しかし若矢の繰り出す目にもとまらぬ攻撃は、男に反撃の機会を与えない。そしてついに男の一撃をかわすと、彼の腹部に渾身のパンチを叩き込んだ!
「うおぉぉぉっ!!」
その一撃で、男は遺跡の天井にぶつかる。
「お……おのれぇぇぇ!!」
そして、そのまま地面に叩きつけられたのだった。
若矢は男を倒したことを確認すると、その場に倒れこんだ。
「や……やった……」
だが疲労からか、彼の体の緑色のオーラも輝きが弱まっていく。
「はぁ……はぁ……」
「わ、若矢くん。だ、大丈夫?」
ラムルがそう言って駆け寄ろうとしたとき、崩れた遺跡の壁から男が立ち上がった。
「くっ……」
「そんなっ!?」
若矢とラムルは愕然とする。
しかし……男の表情はそれまでのものとは違い、どこか嬉しそうだった。
「まさかここまでとはな……。いいものを見せてくれた礼だ。お前に協力してやる」
「え……?」
若矢は男の思いがけない一言に驚き、そして喜びの声を上げた。
「ほ……本当ですか!?」
「あぁ、本当だとも」
男はニヤリと笑い、そして言った。
「お仲間の勇者くんたちを助けに行こう。あのディドロスとも、レリクス関係なくいずれは戦う運命だしな」
その言葉に若矢が答えようとした時だった。
「ふははははっ! 残念、一足遅かったなぁ!」
ディドロスの声と足音が近づいてくる。
彼が追いついた、ということはファブリスたちは……。
若矢が青ざめた顔を見せると、ラムルが言う。
「大丈夫! まだ彼らの気配は感じられるから」
ディドロスは、軽い足取りで若矢の前に来る。そして得意げに言った。
「あまりに弱かったのでなぁ。ある程度痛めつけて、あとはインプどもに任せてきたわ。アークデーモンすら必要ない雑魚だったぞ?」
若矢は怒りを露わにする。
「お……お前! よくもファブリスさんたちをっ!!」
そんな若矢を見て、ディドロスは嘲笑う。
「お前もすぐに後を追わせてやろう。フハハハハ!」
ディドロスは手にした斧で若矢に切りかかる。
若矢は咄嗟にディドロスの攻撃を躱すが、その重い一撃の衝撃は地面にも伝わり、彼は思わず膝をついてしまう。
だが、次のディドロスの一撃を男の剣が防ぐ。
驚く若矢に男が告げる。
「言ったろ? いいものを見せてくれた礼に協力してやると。さっさと立って手を貸せ」
若矢は頷き、立ち上がる。
2人はディドロスを挟みこむような位置に陣取った。
「ふむ……この俺相手に2人がかりとはな」
2人を前にしたディドロスはそう呟くが、
「いいや、2人じゃないぜ! 誰が雑魚だって?」
という声と共に、ファブリスたち4人が姿を現す。
彼らは多少傷を負っているようだったが、まだまだ余裕そうだ。
「な、お前らの始末を任せておいたインプどもはどうしたんだ? まさかあの数を?」
ディドロスの声色は驚きと共に、多少の感心を含んでいるようだった。
「あのインプたちは確かに厄介だった。でもな、俺たちのチームワークと経験には及ばなかったぜ?」
ファブリスが剣を構えると、他の3人もそれに続く。
彼らの表情は自信に溢れ、それを見た若矢は思わず笑みを浮かべる。
「ふっ、どうだディドロス。俺と、俺より高い潜在能力を秘めたこいつ、それから勇者パーティー4人を相手にするのはさすがにお前でも骨が折れるんじゃないか?」
ディドロスを押し返した男が剣を向けながら言う。
ディドロスはにやりと笑い、その斧を振りかぶる。
「そうだな……確かにお前がいる以上、俺とて苦戦は必至だ」
そしてディドロスは頭上に掲げた斧を勢いよく振り上げ、勢いよく遺跡の天井にぶつけた!
それは若矢たちを狙った攻撃ではなかった。
「なんて無茶苦茶なヤツだ。レリクスも破壊する気か?」
男が忌々しそうにディドロスを見据えるが、彼の方は愉快そうに口元を歪めている。
「ふははははっ! レリクスは破壊されれば、また世界のどこか別の場所に復活する。それに……そもそもレリクスの力などなくとも俺は俺自身の力で魔王になるのだ! クレフィラやベルにあの力が渡らなければそれでよかろう」
ディドロスは斧を振り下ろす。巨大な振動と轟音が響き、遺跡が大きく揺れる。そして天井が崩れ始めた。
「ちっ、脳筋め! ここは退避しないと全員生き埋めになるぞ!」
男が剣を構え直し、若矢たちに言う。
「で、でもどうやって……!!」
若矢が叫ぶが、その問いにはラムルが答えた。
「僕がなんとかするよ!」
ラムルが口笛を吹くと、辺り一面が眩い光に包まれる。若矢たちも、その光に包まれるのだった……。
「う……うぅん……」
若矢が目を開けると、そこは空洞の入り口付近だった。
今も激しい音と共に地鳴りが起こっている。
ディドロスの放った一撃によって、遺跡が倒壊し続けているのだろう。
「ラムル、ありがとう……」
若矢はそう呟くと、周りを見渡す。
ファブリス、エレーナ、リズ、カルロッテの姿があったが、あの男の姿がなかった。
「ラムル。あの人は……?」
するとラムルは首を横に振った。
「彼はどうやら僕の存在に、なんとなく気付いていたんだ。その上で自分は残ることを選んで、みんなを逃がす時間を稼いでくれたんだ。でも……彼はもう……」
若矢はラムルの言葉を聞き、思わず唇を噛む。
その後、地鳴りも終わり遺跡の倒壊も収まったようだ。
遺跡が倒壊したことで魔物たちも撤退していったらしく、島には再び静けさが戻るのだった。
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