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勇者ファブリス一行の動向 その5

それぞれの道へ 新たなる旅立ち

「脈導師の誘い 勇者パーティーの解散」の続き

夜も更けてきたころ、ファブリスは1人宿屋の天井を見上げていた。
今後のことについて、1人思案していたのだ。

(これからどうする……。……いや、俺は勇者だ!)

『悪いことは言わない、さっさと旅をやめてどこかの町で平和に暮らしなさい。それがあなたたちのためですわよ』
『これ以上、あの魔族どもを相手にしてはいかん! 返り討ちに遭うぞ!』

マリナに脈導師、2人の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
「くそっ! じゃあ俺はどうすればいいんだよ——!!」


そしてカルロッテは、トントンッと、とある部屋をノックしていた。

「はい、どうぞ」
優しい声で扉を開けてくれたのは、ビブルスだった。彼はカルロッテの姿を見て、少し驚いたような表情を見せる。

「カ、カルロッテさん!? こ、こんな夜遅くにどうされました? あっ! もしかしてファブリス殿がお呼びですか?」
ビブルスは慌てた様子で尋ねてくる。

しかし、カルロッテは首を横に振った。

「いえ、ビブルスさんに用があって来たの……」

「私に? 一体どんなご用件で……?」
ビブルスが不思議そうに尋ねると、カルロッテはゆっくりと口を開いた。

「あの……中に入れてくれるかしら? 少しお話ししたいことがあるの」
ビブルスは戸惑いながらも、カルロッテを部屋の中へ招き入れたのだった……。

「それで……話とはなんでしょうか?」
ビブルスが尋ねると、カルロッテは彼に抱き着いた。

「カカカ、カルロッテ殿!!」

「お願い……しばらくこうしていて……」

カルロッテの体は震えていた。ビブルスは優しく彼女を抱き寄せると、彼女の髪を撫でる。

「もちろん。カルロッテ殿の気が済むまで」
「ありがとう……」
カルロッテは小さくお礼を言うと、ビブルスに寄りかかるようにして目を閉じるのだった。


遅い時間にも関わらず教会で祈りを捧げているのは、リズだった。

「我らが神よ。本音を言えば私は旅を続けたい……。ですが、これが私の使命なのですね? 脈導師の能力を開花させ、受け継ぐことが。ならば私はその使命に殉じます。みんなにも、若矢さんにも感謝してもしきれません……。でも、私は私の使命を全うしたい。それが世界のためになるのなら……」

リズの目からは涙が流れ落ちる。彼女は嗚咽を漏らしながらも祈り続けるのだった……。


そしてエレーナは1人、宿屋の屋上で夜空を見上げ、佇んでいた。

「若矢……どうしてなの? なんで死んじゃったのよ! あんたさえ生きていれば、あたしは……!」
彼女の目から涙が溢れ出す。

『じゃあ、エレーナさんの故郷にも行けるんですね!』
『エレーナ、あいつらの好きにはさせないから安心して!』
彼女は若矢の嬉しそうに笑う顔や、自分を守ろうとしてくれた勇ましい顔を思い出していた。

「若矢……どうしてよ! まだあんたに見せたい景色も、食べてもらいたい料理も、たくさんあったのに! どうしてあんたが死ななきゃならないのよ!!」
エレーナは泣いた。涙が枯れ果ててしまうと思えるほどに……。

「若矢……いいえ、死んでない……若矢は死んでない! 絶対に探し出すからね……」
彼女は夜空に向かってそう呟くのだった……。


翌日、ファブリスとエレーナはビブルスたちの見送りを受けていた。

「それではお気をつけて」
「ああ……世話になったな、ビブルス」

「ファブリス、エレーナ、ありがとう」
カルロッテは2人と軽く抱擁し、感謝の意を伝える。

「カルロッテを頼むぞ」
「……ビブルスさん、カルロッテのことお願いね?」
ファブリスとエレーナが念を押すように言うと、ビブルスは力強く頷いたのだった。
「ええ、命にかけても守って見せます!」

「リズも何かあったら、すぐに連絡しろよ? 俺たちは仲間なんだからな。修行が辛くなったらいつでも戻って来い」
「ありがとうございます! 2人もどうかお元気で!」

こうしてファブリス、エレーナの2人は一度シェコに戻るべく、マクロフの町を後にするのだった。

ビブルスとカルロッテは遺跡の撤去作業へと向かう。
彼らは遺跡の調査がある程度完了するまでの間、数日間はマクロフに滞在する予定らしい。

リズは脈導師の住む山小屋へと向かい、そこで生活することになっている。
彼女もビブルスとカルロッテに別れを告げると、山小屋へ向けて歩き始めるのだった。

「エレーナ、本当に旅を続けるのか? ちょうど今から向かうわけだし、辛かったらお前も故郷のシェコで暮らしていいんだぞ? シェコのギルド長には俺が話をしておいてやるからさ」
ファブリスはエレーナに声をかけるが、彼女は首を横に振る。

「あたしは大丈夫。それにあたしがいないとあんた1人になるじゃない。だからあたしもついて行くわよ!」

こうして2人は、新たなる旅の一歩を踏み出すのだった。


~完~


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