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PRIDE ~最強のわたくしを追放するだなんて、どうかしてますわ! あぁもう! 全部爆ぜてしまえばいいのですわ!~ ③
第3話 「勇者たちの輝き① 魔博士ベルフェゴールの実験」
第2話 「勇者パーティーとの出会い ハレンチですわぁ~っ!!」
翌日、ファブリスたちは若矢と本来向かうはずだった、モルディオの首都シェコへと向かうことにした。
旅に同行することになったマリナとエマも、もちろん一緒である。
もし若矢が無事ならば、本来の目的地であるモルディオに向かった可能性もある、というリズとカルロッテの案で、まずはそこへ向かおうと決まったのだ。
マリナがファブリスたちを見ると、リズやエレーナが空を見て、不安そうな表情を浮かべていた。
少し前にこの辺りに無数の隕石が降り注ぎ、そのせいで大怪我を負い、大切な存在である若矢とはぐれてしまったのだ。
彼女たちが強い恐怖を感じるのも無理はなかった。
「大丈夫ですわ。ワカヤが噂の転生者だというのなら、彼はきっと生きておりますわ」
マリナが静かに声をかけると、彼女たちはハッとした表情でマリナの方を向いた。
「あ……ごめんなさい。ちょっと不安になっちゃって」
リズは申し訳なさそうにそう言ったが、他の3人は暗い表情のままだった。
そんな時である、突然船が大きく揺れ出したのだ。
「な、なんですの!?」
マリナはバランスを崩して倒れそうになるが、咄嗟にエマに抱き留められる。
船は大きく傾き、波も荒れ始めた。
そして海の中から巨大な影が現れる。それは……
「クラーケンか! なんでこんなところに!」
ファブリスたちが武器を構えると、クラーケンは触手を振り回し、船に巻き付けてきた。その衝撃により船は更に大きく揺れる。
「まぁ、焼いたら美味しそうなイカ♪」
「言ってる場合ですか! そこそこ大きいですよ、このクラーケン!」
クラーケンに目を輝かせるマリナと、それにツッコミを入れるエマ。
船長は大慌てで船員たちに、備え付けの武器による応戦を指示している。
「くっ……! 皆、戦闘準備だ! 油断するなよ!」
「はいっ!!」
ファブリスたちは武器を手にする。
マリナがクラーケンを排除しようと前に出るが、ファブリスが手でマリナを制する。
「悪いな。ここは俺にやらせてくれ。あの時何もできなかった俺自身に腹が立ってしかたないんだ!!」
彼の力強い言葉を聞き、剣に手を掛けていたマリナはその手を下ろした。
「わかりましたわ。勇者ファブリスの力、拝見させていただきますわ」
マリナが微笑むとファブリスはフッと笑い、クラーケンに突っ込んでいった。
そして彼は剣を大きく振るい、クラーケンの触手を一閃したのだった。
「すごい……!」
船長が思わず感嘆の声を上げる。周りの船員たちも口々に彼を褒め称える言葉を発している。
「俺は今虫の居所が悪い。済まないな、クラーケン。こんな穏やかな海域に入り込んだ自分自身を恨むんだな! 食らえっ! "シャイニングブレイブーブーブー!!"」
「え? な……なんですの、その技名は……」
マリナは思わず聞き返してしまった。
しかしそんな技名とは裏腹に、彼の放った剣撃は光の刃となってクラーケンを真っ二つに切り裂いてしまった。クラーケンは、そのまま海に沈んでいく。
そんな光景に船員たちは再び大歓声をあげた。
「さすがファブリスさんだ! 剣の腕もさることながら、そのネーミングセンスも凄まじいぜ!」
「すごいよ、ファブリスさん! あの一撃ならクラーケンどころか魔王もイチコロだっただろうなぁ!」
ファブリスは船員たちにハイタッチをしながら船に戻る。
彼の表情もスッキリしており、先ほどまでの怒りはなりを潜めたようだ。
そんな彼にマリナは近づいていった。
「お疲れ様でしたわ、ファブリスさん」
「おう、マリナ! 見たか、俺の技! カッコよかっただろ! 」
ファブリスはニッと笑いながら、剣を背負い直す。
「ええ! わたくしには扱えない、勇者の証の一撃、お見事でしたわ」
マリナもニッコリと笑って返すのだった。
その後は何事もなく、翌日にはモルディオの首都、シェコの港町へと着港したのだった。
「あれがモルディオの首都、シェコの港町……。キレイなところですわね」
マリナは港から見える景色を見てそう呟いた。
街は太陽の光を受けてキラキラと輝き、まるで宝石のように美しい光景だった。
「ええ、そうでしょ! ここは昔は鉱山都市として栄えていたんだけど、今は商業が盛んなの。あたしの故郷でもあるのよ!」
エレーナが興奮気味に、そう説明する。久しぶりの帰郷に胸が高鳴っている様子だ。
船を降り、情報を集めるために冒険者ギルドを目指して町を歩いていると、
「ファブリスさん! 皆さん! もう良くなったのですね!!」
と、1人の男性が声を掛けてきた。ファブリスはその男性を見ると、嬉しそうに手を振る。
彼は、帝国軍海兵隊第二部隊ビブルス副隊長というらしい。
ファブリスたちとはある事件を共に解決した仲であるらしく、ファブリスも「あの時は世話になった」と、彼に対して親しげに話している。
「若矢殿は……やはりまだ見つかっていないのですか?」
ビブルスは暗い表情でそう尋ねた。
ファブリスは小さくうなずき、
「ああ……」と答えるのだった。
「そうですか……。カルロッテ殿、エレーナ殿、リズ殿も無事で何よりです! 若矢殿の捜索には我々も参加させていただきますので、何か情報が入り次第お伝えします!」
ビブルスはそう言うと敬礼をして去っていった。
「彼、やっぱりいい人ね」
カルロッテはビブルスの後ろ姿を見ながら、そう呟いた。
その後、ファブリスたちは冒険者ギルドで情報を収集していた。しかし若矢らしき人物の目撃情報は得られなかったのである。
ダメ元ではあるものの、ファブリスたちは当初、若矢と共にこなす予定だった魔族の拠点制圧のクエストに行くことにした。
場所はこのシェコから程近い、廃鉱山である。歩いても夕方までにはたどり着ける場所にある。
現地に到着したらすぐに廃鉱山に乗り込むのか、夜明けを待って少しでも明るい時間帯に乗り込むのか、ファブリスは仲間たちに意見を求めた。
「そうだな……。夜明けを待って突入しよう」
ファブリスが仲間たちの意見を聞き、そう提案すると全員がそれに賛同した。
だがマリナは口元に手を当てて、なにやら思案している。
「う~ん、その廃鉱山は現在使われておりませんのよね? 中には魔物がいるでしょうし、それらを退治したとしてもコボルトやゴブリンが棲みつくのは時間の問題ですわ。いっそのこと鉱山ごと爆破してしまえばよろしいのではなくて?」
「いや、それはさすがに……。鉱山を爆破する許可なんて取れないだろう」
ファブリスはマリナの提案に苦笑いを浮かべたのだった。エレーナたちもマリナの物騒な提案に苦笑している。
マリナは彼らの反応が意外だったのか、キョトンとした表情で首を傾げた。
「マ、マリナ様は時々こういうことを本気で口にしますが、どうかお気になさらず」
エマがそう言ってマリナをフォローすると、ファブリスたちは「ああ、うん……」と困ったようにうなずくのだった。
結局、マリナたちはクエストの前に、最寄りの宿屋で一泊し、日の出を待つことにした。
「皆、準備はいいか?」
翌朝、ファブリスが仲間たちに声を掛けると、全員が元気よく返事をする。
廃鉱山に到着した一行は、早速中へ突入したのだった。
中は薄暗く、ひんやりとしている。
依頼文では魔物の巣窟になっている、ということだったが魔物どころかコボルトやゴブリンはおろか、コウモリやスパイダー、ネズミといった野生生物の姿すら見えない。
「どういうこと? 生物の気配がまったくしないんだけど……」
エレーナが周りの様子を伺いながら、ファブリスにそう言った。
「確かにそうだな……。不気味な静けさだ」
そんな会話を交わしているうちに、坑内でもかなり開けた場所へとたどり着いた。
周りを見回すと、この場所はまるで闘技場のように上から見下ろされるような形になっている。
一行がその開けた場所の中央辺りまで進んだ時だった——。
先ほど通って来た道が、巨大な岩の扉で塞がれる。
「な、なに!?」
リズ、が思わず叫ぶ。
「くそっ、罠か! 皆、気を付けろ!」
ファブリスがそう叫んだ直後だった。
不気味な笑い声が上の方から聞こえ、全員がそちらに視線を向ける。
見るとそこには黒いローブを身に纏った老人が、魔法の杖のようなものを手に立っていた。
「よく来たな、勇者ファブリスとその一行たちよ」
老人は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「お前は誰だ! 答えろ!」
ファブリスは剣を抜き放ち、老人にそう叫ぶ。
すると彼は杖を上に掲げた。そして……
「ワタシか? ワタシの名前はベルフェゴール。魔界に住む研究者だ。……さて、転生者はどいつだ? そいつを差し出せば他のヤツには手を出さんと約束しよう」
ベルフェゴールと名乗った老人はそう言うと、杖をマリナたちに向ける。
「そいつなら今は一緒にいない。海の上ではぐれちまってな。俺たちも探してるところなんだ」
ファブリスがそう答えると、ベルフェゴールは、しまったというように頭を押さえて首を横に振る。
「なんだと!! うぅむ……一足遅かったか……。誰にか殺される前に、ワタシが手に入れなければならんのだが……。まぁいい、そう焦る必要もあるまい」
そこまで言い終わると、顔を上げて気味の悪い笑みを浮かべたベルフェゴール。
「せっかくだしお前たちに実験に付き合ってもらうとしよう」
ベルフェゴールはそう言うと、杖でトントンと地面を叩く。
すると闘技場に観客が集まるように、インプやグレムリン、レッサーデーモンといった魔物たちの群れが現れ、上の方から一行を見下ろしている。
「っ! こいつらは……!」
ファブリスたちが武器を構えると、ベルフェゴールはニヤリと笑う。
「今からお前たちには実験に付き合ってもらうが、観客がいた方が盛り上がるだろう? さて、実験が終わるまではここから出られないからせいぜい頑張るのだなぁ」
ベルフェゴールがそう言って杖を地面に叩きつけると、騒いでいたインプのうちの一体が下に降りてくる。
するとそのインプは体が膨張し、筋肉が異常発達していく。
ついには通常のインプを遥かに凌ぐ大きさになり、2メートルはあろうかという大きさまで成長した。
「まずはアークデーモンの遺伝子を組み込みんで筋力を強化したインプと戦ってもらおう。さぁ誰か1人代表を選ぶのだ」
ベルフェゴールの言葉に、剣を構えようとしたファブリスを制してカルロッテが前に出る。
「肉体派なら武闘家の私の出番ね。ここは任せて!」
罠かもしれない、とファブリスはカルロッテを止めようとするが、彼女は首を横に振る。
「大丈夫よ! 任せて!」
そう言って笑うカルロッテに、ファブリスたちは何も言えず彼女を見送るのだった。
~続く~
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