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PRIDE ~最強のわたくしを追放するだなんて、どうかしてますわ! あぁもう! 全部爆ぜてしまえばいいのですわ!~ ②

第2話 「勇者パーティーとの出会い ハレンチですわぁ~っ!!」


第1話 「始まりは突然に ~闇に煌めく陽星~」


翌日には、一命を取り留めた勇者ファブリスとその仲間たちは、モルディオと帝国軍による聞き取り調査に協力していた。
自分たちも話を聞きに行きたいマリナだったが、今は事件の調査が優先されており、関係者以外は接触できないようになっている。

長いこと足止めを喰らい、マリナのフラストレーションは溜まりに溜まっていた。
「あぁもう、いつになったらわたくしたちも話せるんですの! こんなところで足止めを食ってる場合ではありませんのよ!?」

テーブルをパンパンと叩く彼女だったが、エマは苦笑いを浮かべながら……。

「お気持ちはわかりますが、焦ったところで状況は変わりません。さぁ、美味しいケーキを買ってきたので一緒に食べましょう?」
と、ケーキと紅茶を差し出す。

マリナは先ほどまでの怒りが嘘のように、一瞬で目を輝かせた。
「まぁ! 美味しそうなケーキ!! これは最高ですわ!!」
エマはその様子を見て、クスクス笑うのだった。

それから3日ほど経ち、2人は再び病院へと向かう。
無論、目的は勇者ファブリス一行に話を聞くためである。
「さて……今日という今日は彼らとお話ができるとよいのですけれど」

少々不安そうだったマリナだが、勇者ファブリスと3人のパーティーメンバーは今日無事に退院したらしく、少しの間この町にとどまって仕事をする、と話していたそうだ。

「マリナ様、今夜あたりに酒場にでも顔を出してみましょうか? もしかしたら彼らが来ているかもしれませんし……」
エマの提案に、マリナはうなずく。

「そうですわね……。では今夜にでも」
日も暮れた頃、マリナとエマはファブリスたちがこの町で行きつけにしていた、という酒場へと足を運んだ。
そこは町の中央広場から少し外れた場所にある小さなお店だった。


店内に入ると、4人でテーブルを囲んでいる男女の姿があり、特徴からしてファブリスたちで間違いなかった。
「こんばんは、勇者ファブリスさんたちですわね?」

マリナが話しかけると、4人は一斉に彼女たちの方を向く。
そして先頭に座っていた男が口を開いた。

「えっと、あんたたちは? もしかして、あんたもあの船での出来事について聞きたいのか? モルディオの衛兵にも帝国兵士にも散々話して、もう話し疲れたんだけどな」
その男、ファブリスは想像通りというべきか、やはりまだ疲れ切った表情をしている。

「ええ、その件で少しお話がしたいと思いまして……。もちろん謝礼として、心ばかりですがゴールドもお渡しいたしますわ」
ファブリスたち4人は顔を見合わせ、少し相談をした後、マリナにこう告げた。

「わかった。ただ、俺たちはまだ完全には信用していないからな。……とりあえず話は聞いてやるが」
彼のその発言に、他の3人も同じ気持ちなのか小さくうなずく。

「まぁ、感謝いたしますわ! 申し遅れました。わたくし、マリナと申しまして……こっちはエマ。共に旅をしている仲間ですわ!」
マリナがそう紹介すると、エマも軽く頭を下げる。

「では早速なのですが……。実はわたくしたち、あの時はこの町の港から出る船に乗るところでしたの。そしたら水平線の先に、いくつもの赤い光が見えて……」

「なるほど、あんたたちがそこから見たのが、まさに俺たちの船が事件に巻き込まれてる瞬間だったてことか」
ファブリスも他の3人も同じように、マリナの話に納得しているような表情をする。

「ええ、あの時、あの現場で何があったのか……。教えていただけますでしょうか?」
マリナが尋ねると、ファブリスは顎に手を当てて少し考え込んだ後、話し始める。

「俺たちはあの時、どこの海賊団かは知らないが下っ端海賊に絡まれていたんだ。まさに一触即発って場面で、急に辺りが真っ暗になってな。そしたら上空から隕石みたいなのが降ってきて……」
ファブリスは悔しそうに下を向き、拳を強く握る。そんな彼の様子に、隣に座る女性が肩に手を置く。

「あの隕石は一体なんだったのでしょう? 魔法かなにかでしょうか?」

エマがそう尋ねると、ファブリスの隣に座る女性が
「はっきりとはわからないの……。でも隕石を降らせる破壊魔法の"メテオ"に近いと思うわ。ただしあんな大きさのものを、一度にあんなたくさん降らすなんて、ありえないことだけど……。あ、ごめんなさい。あたしはこのパーティーのメンバーで魔法使いのエレーナよ」
魔法使いの彼女は、自分の考えを述べながら自己紹介をした。

「エレーナさんですわね。よろしくお願いしますわ! それで……あの隕石は誰が降らせたのか、心当たりはありませんか?」
マリナが尋ねると、僧侶のような装備を身に着けた女性がリズと名乗ってから、話し始めた。

彼女曰く、最初は神の怒りによる天変地異か自然災害かと思ったが、一際強い光を放っていた太陽のような光が急に動き出し、空中で大爆発を引き起こした。
その爆発に巻き込まれて船は大破。
しかし自分たちは不思議な光に守られて、奇跡的に助かった。
爆発の煙が晴れると光も隕石も消えていた。
リズはそう説明してくれた。

「爆発に巻き込まれて死んだ、と思ったけれど……こうしてあたしたちは生きている。……彼のおかげでね」
エレーナは俯き、唇を嚙む。
彼女だけでなくリズ、そして長い手足でスラリとした武闘家風の女性、カルロッテも暗い表情だ。

「彼……とは、魔王討伐に多大な貢献をしたというワカヤ・ウシカタのことですわね?」
マリナの言葉に、エレーナはコクリとうなずく。

「そう、若矢よ……。あたしたちを守るために、たった1人で隕石を全て破壊しようとして……大爆発に巻き込まれたわ。その跡には隕石も若矢の姿もなかった……」

「で、ですが若矢さんならきっと無事でいるはずです! 彼はあなた達と共に魔王を打ち倒した実力の持ち主ですよ」

エマがそう励ますと、武闘家風の女性が暗い表情のまま口を開く。
「ええ……ありがとう。私たちも信じてるわ……。でも若矢のいない今、わたしたちはどうすればいいのかしらね……」
彼女はそう言うと、再び俯いてしまうのだった。

そんな彼女を慰めるように、ファブリスが肩をトントンと優しく叩く。

「若矢のことは俺も心配してる……。あいつは、魔王を倒した真の英雄なんだ。俺なんかよりもよっぽど勇者に相応しい男だった。魔王を倒して平和になったこの時代にあいつが必要だ」

「若矢は……あたしたちの大切な仲間で、異世界から来た人なの。あたしとリズ、カルロッテは全員、彼の恋人なの。あたしたちを平等に愛してくれて……」
エレーナは涙を流し、顔を手で覆う。

「ワカヤと3人は恋仲だったのですわね。……うん? ……3人? えっと、彼はあなた方3人全員と恋人関係だったとおっしゃいますの?」
マリナが意表を突かれたような表情でそう尋ねると、エレーナの代わりに、リズが彼女の背中を擦りながら答える。

「ええ……そうなんです。彼と私たち3人で何度夜明けの空を眺めたことでしょう。彼は私たち全員の想いを受け入れてくれました」
マリナは驚きを隠せなかった。

驚いている彼女にカルロッテがさらに付け加える。
「若矢くんはね、私たち3人以外にもモルディオのとある島の女性10人以上と愛し合ったのよ」

そこまで聞いたマリナは
「ハ、ハレンチですわぁ~っ!!」
顔を真っ赤にさせて、そう叫ぶのだった。

「ちょっ! マ、マリナ様!? なんてことを……!」
エマは慌ててマリナの口をふさぎ、小声で彼女に囁いた。

「(もー! 彼女たちの気持ちを考えてください! 確かに関係持ちすぎですけど!)」
「(ハッ! わたくしとしたことが……。でもワカヤ・ウシカタ、なんて不埒な方なの……)」

小声でそんなやり取りをしている2人を余所に、エレーナが再び口を開いた。
「確かに、たくさんの女性と関係を持ち過ぎって思うわよね。でもね、若矢はあたしたちを平等に愛してくれてたの」

「それに、彼ぐらいの人ならそういうことも許されるんじゃないかって」
リズはそう言って、クスリと笑った。

「そう……ですわよね? ……まぁ確かに? 英雄は色を好むともいいますし……ね?」
マリナはそう言って、納得していないような表情を見せつつも、話を本題に戻そうと話題を変える。

「と、ところで! この後あなたたちはワカヤを探すつもりなのですわよね?  その旅同行させていただけませんかしら?」
マリナの言葉に4人は驚き、顔を見合わせる。

そしてエレーナがこう答える。
「確かにあたしたちは若矢を探すつもり……。でも、あなたたちを危険な目に合わせたくないし……」

「大丈夫ですわ! こう見えてわたくし、戦闘には自信がありますのよ!」
マリナはそう言うと腰に下げた剣の柄をポンと叩き、ニッコリと笑うのだった。

その後、ファブリスたちは少し話し合いをしたが、結局マリナたちの同行を許すことになった。
「まぁ……人数が大いに越したことはないしな。俺は別に構わない」
「私もいいと思います。一緒に行きましょう!」
ファブリスに続いてリズもニッコリと笑う。カルロッテとエレーナも顔を見合わせて、納得したようにうなずく。

こうして彼女たちは勇者パーティーに同行することになったのだった。


~続く~

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