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「おいちちょう!」 【とある者の記憶】

春のある日、私は森で出会った、不思議な赤ちゃんに心を奪われた。
その子は天使の翼を持つ愛らしい赤子で、私はキュートという名前を付けた。

「大丈夫?」
声をかけると、キュートは微笑んで答えた。

「可愛いなぁ」
とつぶやきながら、私はその子を抱き上げた。

驚くことに、キュートは言葉を話せるだけでなく、どうやら頭もすごくいいみたいだった。

私はこの子との旅にも慣れてきていた。
キュートの不思議な力で、どちらかというと私の方が助けられてばかりだった。

キュートは様々な奇跡を見せてくれ、私たちはどこに行っても困ることはなかった。


ある日、キュートがふと呟いた。
「ニーナちゃんの故郷に行きたいな」
キュートのそんな言葉に、私は嬉しさと共に故郷への懐かしさを感じた。

キュートを連れて町へ戻ると、皆が驚いていた。
ママに至っては、私の子供だと勘違いしたみたい。
それでも、キュートは町の皆に可愛がられた。

ある夜、私はキュートがいないことに気づいた。
「あれ? キュート?」
急いで探しに出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「やぁ! この町の人はみんなおいちちょうだから、僕もう我慢できないや!」
キュートが突然、分裂したかのように増えだした。

たくさんのキュートが笑っている。
いつもの可愛らしい笑顔ではなく、白い歯をむき出しにした不気味な笑顔。

「おいちちょう! おいちちょう!」
首を左右に高速で振りながら、不気味に笑うキュートの大群。
その数は100や200どころじゃなかった……。

「君のことも早く食べたかったけど我慢してたんだ」
そう言って、私が見繕った服を脱ぎ捨てて裸になると、その体躯に似つかわしくないモノを取り出すキュート。
たくさんの裸のキュートは、首を左右に高速で振っている。
私は叫び声を上げて逃げ出した。

町の至るところで悲鳴が聞こえる。
「ごめんなさい、私のせいでこんなことに……」
背後から迫る無数のキュートたち。

「おいちちょう! おいちちょう!」
「おいちちょう! おいちちょう!」

キュートの声と、町に響き渡る悲鳴。
その声が響く中、私は絶望ままに逃げ続けた。

終わりの見えない恐怖と、キュートの悪夢のような笑顔が、私の心に深く刻まれた。
これが、森で出会った愛らしい赤子の正体だったのか……。

その時、背後から強い力で押さえ込まれ、嬉しそうな声が私の耳元で響いた。
「捕まえた! おいちちょう! おいちちょう!」
「いただきま~す!!」

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