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合唱にいい思い出がないという話。

中学時代の話なのだが、学園祭の出し物的な奴で我がクラスは合唱をすることになった。このクラスの出し物で合唱をするというのは人生の中で避けては通れないイベントであり、よっぽどでない限り負けイベである。相当息の合ったクラス、もしくは全員合唱経験者でもなければ、たいていどこかでほころびが出る。

我がクラスもご多分に漏れずほころびまくっており、まず曲がflumpoolの君に届けである。ごりっごりの恋愛ソング。いや、非常にいい曲である。たしかこの曲で紅白歌合戦にも出場している。がしかし、思春期真っただ中の中学二年生にとっての君に届けは少々恥ずかしい。この時点で女子の常套句「ちょっと男子ちゃんと歌って!」は逃れられない。なぜ同じflumpoolでも「証」にしなかったのか。テンポもゆっくりめだし、歌詞も恥ずかしくないのに。まあしかし決まってしまったものはしょうがない。flumpoolもこの曲もすきなのでよしとして私たちは練習にはいった。

練習中もいくらか問題はあったが、進行は良好だった。ポップスだったからか、わりかしみんな練習には前向きだったと思う。基本的に練習は授業後に教室で練習できる人が集まって行っていた。そして事件は、発表まであと一週間ほどというときに起きた。

その日は、いつもいない担任が教室にいた。「学園祭も近いし見てやる」といった。見てやるってなんだよと思った。いつもいないくせにこんな時だけでしゃばってきやがって何様だよ、と。担任は40代の男の数学教師だった。「俺はこう見えても歌は得意だからな」と聞いてもいないことを宣言しつつ、担任は私たちを教室の一番後ろに並ばせると、自分は教室の一番前の黒板の前に立ち、「ここまで届くでかい声で歌えよ!」といった。そういうのは体育館の端と端でやんだよ、と思いながら私たちは歌った。

すると担任は、「いや全然聞こえない!」といい、歌わせるのを止めた。頭がおかしいのかと思った。がしかし、すぐに私も思い直した。まあ本番は体育館だ。たしかにこの声では届かないかもしれない。すまん担任。言い過ぎた。すると担任は男女合わせて背の順に並ばせ、背の低いチームと高いチームに分けた。当然低いチームはほとんど女子で、かつ偶然内気な生徒が多く集まっていた。そしてなぜか低いチームの方が人数が少なかった。するともう一度歌うように指示し、「声の小さいほうはそのチームだけで歌わせるからな!」といった。前言撤回。こいつはやべー。

こんな分け方をしたらどう考えても低いチームが負けるに決まっている。担任からすれば大きな声で歌うようにさせるための荒療治のようなものかもしれないが、こちらからすれば辱めを受けさせられているようなものだ。全員こいつは何を言っているんだ?という思いはありながらも逆らうことができず、もう一度歌った。先ほどのこともあったのでみんなかなり声が出ていた。特に低いチームは見返してやろうという気持ちからか、先ほどとはくらべものにならないほどの声を出しており、結果的にすばらしい合唱になった!そして歌い終わって担任は立ち上がり、「低いチームだけで歌え」といった。

基本的に私は怒らない。というか怒れない。たいてい自分に完全に非がないとは言えないし、自分のことを棚に上げて他人に怒れるほど私は図太くない。はずだった。

じゃあお前が歌えや!

自分でもびっくりした。別にクラスで目立つ方でもなかったし、担任のことは嫌いだったがそれもわざわざ反抗するほどではなかった。しかし、その時ばかりは言葉を飲み込むことができなかった。口をついてでたというよりも、言わなきゃと思って声に出したと思う。人の頑張りを素直に評価できない人間に、理不尽なことを強要する人間に、反抗しないと心が死んでしまうとおもったのだろうか。

そこからのことはあまり覚えていない。たしか担任と口論になった。敬語を使うことも忘れて地元の方言丸出しでぶちぎれた。そのあと担任が教室を出ていきそのあとかなり恥ずかしい気持ちになった。。感情を抑えるほどの理性もない人間なのかと自戒した。あんな人間はごまんといる。そのたびにきれちらかしていたらそちらの方がヤバいヤツである。どう考えても黙って頷いていた方がかしこい。クラスのみんなは驚いていたがそこからいじめられるみたいなことはなかった。もともと担任は学校中から嫌われていたし、状況的に怒って当然という状況だったからか、前と変わらず接してくれた。その担任は私たちが卒業してからすぐ不祥事を起こして学校を去った。

そして私は今教師への道を歩んでいる。自分もああいう教師になってしまうのではと今のうちから怖い。もしもあの担任がストレスによってあのような人間になったのだとすれば、私も可能性は大いにある。そうなるのだけは絶対に避けたいものである。とりあえずもし自分のクラスが合唱をすることになったときは、「君に届け」ではなく「証」を勧めたいと思う。

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