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「イノベーションの民主化」で「日本式経営の逆襲」は可能だ|【特集】諦めない経営が企業をもっと強くする[Part2]

日本独自の技術・組織・人を守れ

かつては日本企業から世界初の新しいサービスや商品が次々と生み出されたが、今や見る影もない。その背景には、「選択と集中」という合理化策のもと、強みであった多くの事業や技術を「諦め」てきたとの事実が挙げられる。
バブル崩壊以降の30年、国内には根拠なき悲観論が蔓延し、多くの日本人が自信を喪失している。
だが、諦めるのはまだ早い。いま一度、自らの強みを再確認して、チャレンジすべきだ。

日本の強みとは何か? 平成生まれの筆者が「イノベーションの民主化」をキーワードにして、「日本式経営の逆襲」を実現する方策を示す。

文・岩尾俊兵(Shumpei Iwao)
慶應義塾大学商学部 准教授
1989年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、近著に『13歳からの経営の教科書「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』(KADOKAWA)。


 かつての日本経済は米国さえも凌駕し「Japan as No.1」とまでいわれた。1987年には日本の1人当たり名目国内総生産(GDP)は米国を抜き去り、88年にはスイスに次いで世界2位になった。その時期には、GDP総額も米国に次いで世界2位であった。

 しかし、その後の日本経済は、「失われた30年」と呼ばれるほどに落ち込んだ。その結果として、現在では日本企業の経営は全否定の様相だ。すなわち、日本企業の多くは、「米国を追随するために、あれもこれもやる」ことに躍起となり、「自らの強みを保持する」ことをしていない。これは明らかな戦略ミスである。

 そもそも、経営戦略の要諦は「何をするか」ではなく「何をしないか」を決めることだ。つまり、多くの日本企業が繰り返した「安易なリストラ」のようなことをするのではなく、自社の強み、リソースに目を向けることだ。

「日本の経営はすべて遅れている
はず」という思い込みの罠

 たとえば、製品の設計・製造においては中核部品を決定し、それ以外は外注に頼る。そして、中核部品を作る技術や組織能力は伸ばしていきつつ、戦略的にアウトソーシングを利用する。ならば、組織能力を生み出す企業独自の経営コンセプトも、中核的なコンセプトと借りもののコンセプトを分けるはずだろう(下図)。

現代の企業間競争の3層構造

(出所)各所資料を基に著者作成

 しかし、この「当たり前」が、経営のやり方そのものである経営コンセプトレベルの層においてのみ、なぜか抜け落ちてしまっているのが今の日本企業の病理である。

 ここでいう、「経営コンセプト」とは、組織運営のやり方そのものを指す。人と人が協働するための脳内プログラミングだと考えてもよい。「朝は必ず社員全員でミーティングする」とか「営業のときは最初の10分は必ず雑談をする」などといったノウハウから、トヨタ生産方式のように1つの思考体系になっているものまで、さまざまあり得る。

貧弱な学校体育館から世界一の
技術を創出した体操日本

 経営コンセプト間競争において、「体操日本」の事例は示唆に富む。日本は、2022年現在、体操競技のオリンピックメダル累計103個(金33、銀34、銅36)であり、特に1960年から20年間は主要な国際大会で負け無しの体操王国であった。56年にオリンピック金メダルを獲得しこの伝統の嚆矢となった小野喬(メルボルン、ローマ、東京オリンピックで5つの金メダルを獲得)は、大柄で力強い海外の選手に対して、小柄で俊敏な日本人の特性を生かした演技に活路を見出した。

 さらに、旧ソ連などが国家を挙げて体操施設を設立して選手を育成したのに対し、日本のオリンピック選手たちは貧弱な大学の体育施設で練習を行った。それがむしろ大学施設における同輩・先輩・後輩間の技能伝承を助けた。体操世界一の技は、豪華な国家施設ではなく、設備の整わない学校体育館の中からでも着実に育まれていたのだ。

 体操日本は96年のアトランタオリンピックで惨敗するが、体操日本の強みを伸ばすために、所属を超えて選手たちが集まる合宿の回数が増やされ、同輩・先輩・後輩間の技能伝承が強化された。それからの体操日本の復活と活躍は衆目の一致するところである。

 このように、貧弱な設備の現場にも、世界一のノウハウが存在しうる。ならば、現在世界第3位の経済大国日本の経営現場であればなおさらであろう。大事なのは、経営コンセプトにおいて、「何を育て、何を外から取り入れるのか」を見極めることだ。

Japan as No.1
をもたらした経営の本質は何か

 それでは、「Japan as No.1」時代における日本企業の強みとは何だったのだろうか?

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