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軍人確保に躍起の中国 日本はどう対応すべきか|【WEDGE REPORT】

軍事力増強に邁進している中国だが、内部では軍人の人材確保が困難になりつつある。優秀な人材の確保に向け、彼らはどのようなことを行っているのか。

文・飯田将史(Masafumi Iida)
防衛省防衛研究所 米欧ロシア研究室長
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学後、防衛研究所に入所。スタンフォード大学修士(東アジア論)、同大学客員研究員、米海軍大学中国海事研究所客員研究員を経て、2020年より現職。専門は中国の外交・安全保障政策。

 中国人民解放軍による能力強化の動きが止まらない。昨年8月には、音速の5倍以上で飛行する極超音速兵器を宇宙空間に打ち上げ、地球を周回した後に地上の標的に向けて着弾させる実験を行った。米軍人のトップであるマーク・ミリー統合参謀本部議長は、この実験について「『スプートニク・モーメント』(1957年に人工衛星打ち上げでソ連に先を越されたこと)に近い衝撃を受けた」と述べ、強い警戒感を示した。

 また、強襲揚陸艦や空中給油機、レーダーや通信システムなどを攪乱かくらん ・無力化する電子戦機などを新たに就役させており、その攻勢的な作戦能力は急速に高まっている。最近では台湾周辺の海空域における艦船や航空機による活動を活発化させており、東アジアの軍事的な緊張の高まりを引き起こしている。米国に並ぶ「世界一流の軍隊」を目指して、人民解放軍は軍事力の増強に邁進している。

 他方で、能力を強化する上でさまざまな「壁」に直面してもいる。とりわけ高い「壁」となっているのが、必要な人材を確保することが困難になりつつあることである。軍隊にとって優秀な人材を確保できるか否かは、その能力を左右する重要な要因である。

人材確保が困難になりつつある人民解放軍だが…… (VCG/GETTYIMAGES)

 昨年11月に開催された中央軍事委員会人材工作会議において、習近平主席は「強軍の道は、人材を得ることにある」と指摘した。そして今後必要となる人材として、統合作戦を指揮できることや、科学技術のイノベーションを進められることなどを例に挙げて、こうした人材を獲得し養成することによって人民解放軍の強化を目指す「人材強軍戦略」を推進するよう指示したのである。

 人民解放軍は軍内の教育制度の強化を進めているが、人材確保のカギとなるのが、優秀な人材を採用することである。それができれば、軍内の教育でも高い効果が期待できる。しかし軍の採用活動は、待遇面などで人気の高い民間企業との厳しい競争に直面している。

 また、「一人っ子」政策による少子化が進む中国社会では、……

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