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次なる技術を作るのはGAFAではない|【特集】〚人類×テックの未来〛テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ[COLUMN1 未来を拓くテクノロジー]

メタバース、自律型ロボット──。世界では次々と新しいテクノロジーが誕生している。日本でも既存技術を有効活用し、GAFAなどに対抗すべく、世界で主導権を握ろうとする動きもある。意外に思えるかもしれないが、かつて日本で隆盛したSF小説や漫画にヒントが隠れていたりもする。テクノロジーの新潮流が見えてきた中で、人類はこの変革のチャンスをどのように生かしていくべきか考える。

『WIRED』誌創刊編集長で、テクノロジーの進化について長年、考察し、論じてきたケヴィン・ケリー氏に話を聞いた。
聞き手・構成 土方細秩子

聞き手・土方細秩子(ひじかた・さちこ)
ロサンゼルス在住のジャーナリスト。
同志社大学卒、ボストン大学大学院コミュニケーション学科修士課程修了。

5000日後の世界
すべてがAIと接続された「ミラーワールド」が訪れる

ケヴィン・ケリー(著)、
大野和基(編)、服部桂(訳)
PHP新書 1045円(税込)

 私が未来の技術として最も注目しているのは自動運転だ。ただし完全な自動運転社会が実現するにはまだ20年以上は必要だろう。そこに至るには長くじっくりとしたプロセスが必要だからだ。

 ウェイモ(グーグルの自動車開発部門)が現在自動運転では先行していると言われる。自動車そのものを自動で走らせる技術はすでに存在する。しかし、社会の中で自動運転を実現していくには、道路インフラそのものを作り変えていく必要がある。車のレーン、信号、自動運転タクシーのピックアップエリアなど、なすべきことは多い。

 私は常々、次の時代を作る新しい技術はGAFAではなく無名のスタートアップから起こる、と主張している。GAFAそのものが古い技術や企業を変革したが、巨大になれば斬新な変化には対応しにくくなるためだ。

 自動車業界を見れば明白だ。新興企業であるテスラが今や電気自動車(EV)の中心になりつつある。中国では格安で性能も良いEVが作り出されている。こうした波に、既存の大企業が飲み込まれていくかもしれない。

 話題の「メタバース」でも同じことが言える。フェイスブック(現メタ)が参入したが、これがメタバース全体を席巻することはないだろう。パイオニアであってもメタバースの覇者にはなれない、というのが私の考えだ。

 私が注目しているのは、AR(拡張現実)を使い、現実世界の上に仮想の情報空間を重ねていく「ミラーワールド」の存在だ。例えば、何かの製品をAR用のサングラスなどを通して見たときに、その製品情報が目の前に現れる。生産地、価格、素材など、さまざまな情報を瞬時に確認できる。

 対人でも、その人の名前や略歴などが見られるようになるかもしれない。他人に対して自分の情報をどのように公開するかにより、デジタルツインという概念にもつなげることができる。

 個人的にはVR(仮想現実)を使ったメタバースよりも、こうしたミラーワールドの方が先に到来するし、広く普及するのではないか、と考えている。

 もちろんメタバースはまだ生まれたばかりの概念であり、定義も定まっていない部分がある。没入型のゴーグルを使ったVR空間のままでは多くの人をそこに引き寄せることは難しいが、ARと組み合わせて日常生活の中にメタバースの概念を持ち込む、つまりミラーワールドとのハイブリッドのようなものが生まれるかもしれない。

 いずれにせよ、自動運転、メタバース、ミラーワールドといった新しい技術の普及にはまだ時間がかかり、一気に実現させるには、今はまだ存在しない画期的なブレークスルー技術が必要になる。

 世界を一気に変えるような新しい技術は、中国から生まれてくるのかもしれない。中国では次々に新しい企業が生まれ、新しい技術に挑戦し、今や世界の製造業の中心になりつつある、という事実から推測することだ。

 だからといって既存の企業が駆逐されるわけではないし、GAFAはそれなりに大きな影響力を持つものとして残るだろう。しかし現在のようなGAFAによる富の独占状態がそれほど長く続く、とは考えていない。自動車業界においてGM、フォード、トヨタといった大企業が新興勢力に押されているように、やがて生まれる新しい技術によりGAFAもその地位を脅かされる時代が必ずやって来るだろう。

出典:Wedge 2022年2月号

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