YouTuber『魚屋の森さん』が挑む水産業のファンづくり|【特集】魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない[Column3]
四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか。
編集部(以下、──)日本では「魚離れ」が進んでいると言われます。
森 結婚して子供がいる親しい友人に、「この魚おいしいよ」と提案してもなかなか買ってもらえません。なぜかと聞くと、「処理に手間がかかるし手に匂いがつく」「お肉のほうが冷凍できて保存がきく」「魚は外食で十分」と。一般の方が魚に手を伸ばしにくくなっている背景にもこのような理由があると思います。
最近では大手のスーパーが骨のない魚やキューブ状の魚などを販売するようになりました。「魚を食べる」という点では同じなのですが、これが定着してしまった場合、水産業全体が疲弊していってしまいます。
──街の魚屋さんもかなり減っている印象です。
森 魚屋が減る一方、スーパーの魚売り場は充実しています。当社はもともとスーパーの魚屋からスタートしましたが、今では卸売や飲食店の運営が主体です。ですが、原点を忘れないため、月に一度「魚屋の朝市」というイベントを開催し、店頭で少量単位の魚をお値打ち価格で販売しています。そこで感じるのは、魚の魅力を伝える声掛けがいかに大切かということです。
例えば、「この魚は下処理がしてあるので後は鍋に入れるだけですよ」「この魚は今めちゃめちゃ脂がのっていて食べないと損ですよ」「この価格ではなかなか買えないですよ」とお客さまに声を掛けると、あまり食べたことのないような魚でも絶対に買って帰ってくれるんです。
でも、スーパーの魚売り場には魚やその食べ方の解説をしてくれる店員はほとんど常駐していません。消費者は自分が食べたことのある魚を選び、やがてワンパターン化し、調理方法も限定されてしまう。市場もスーパーには「売れる魚」しか送らなくなり、あまり知られていないけど本当はおいしい魚が家庭に行き渡らなくなります。
だからこそ、YouTubeでは「対面で接客するならこういう声掛けがおすすめだろう」とか「お客さまが知りたいポイントはきっとこれだ」など、視聴者が魚を食べたくなるような発信を意識し、魚食のハードルを少しでも下げるために活動しています。
大事なのは「数」ではなく
「価値」で勝負すること
──YouTubeの反響も大きいのではないでしょうか。
森 同業者の方に「どうすればフォロワーや『いいね』の数が増えるか」などの質問をいただくことが増えました。でも、私はフォロワー数を増やすことを目的に発信しているわけではありません。100万人のフォロワーを獲得することよりも、100人でも1000人でも私たちの取り組みに共感して応援してくださる「魚好き」が集まることに意味があると考えています。大事なのは「数」ではなく、「価値」で勝負することです。
例えば、職人がおせち料理を三日三晩寝ずに仕込む様子や、この魚を購入することで存続が危ぶまれる生産者を支援できるなど、普段消費者が見ることのない職人、生産者の苦労や想い、魚が食卓に届くまでのストーリーやプロセスにこそ、他にはない価値があるはずです。YouTubeではそうした発信も行い、その価値に共感していただける方が当社のファンになってくださり、ECサイトや飲食店を継続的に利用してくださいます。
これからは水産業全体をみんなでいかに盛り上げ、共存していけるかが大事です。そのためにも、生産者の想いを消費者に伝え、両者をつなげる役割を果たしていきたいです。消費者の関心が高まればおのずと「魚好き」が増えると思います。
──これからの時季においしく食べられる旬の魚を教えてください。
森 そろそろ貝類がおいしく食べられる時季になっていきます。また、身近なところで今年は水揚げ量がじわじわ増えてきている、春告げ魚のニシンがおすすめです。お子さんでも食べやすい魚だとサクラダイ。脂がのったシーズンに食べていただくと好きになってもらえるはず! 是非旬の魚をおいしく召し上がってください。
YouTube『魚屋の森さん』チャンネル
出典:Wedge 2022年3月号
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四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量…
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