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一帯一路の旗艦“中パ経済回廊” まだら模様の両者の思惑|【特集】「一帯一路」大解剖 知れば知るほど日本はチャンス[PART-7]

青木健太(中東調査会研究員)

インド洋沿岸のグワダル港から、中国内陸部まで続く中国パキスタン経済回廊。しかしそのルートが経済的に理に適っているとは言い難い。中パ両国にはどのような思惑があるのだろうか。

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整備が進むグワダル港。〝ハンマーヘッド〟の形をした良港だが、土地は枯れ果てている(BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

「水もないのに一体どうやって発展させるというのだ?」

 これは、パキスタン南西部、グワダル港開発の展望について、パキスタン人経済学者に尋ねた際の返答だ。

 筆者は2019年3月、中国パキスタン経済回廊(CPEC)に関するパキスタン人研究者・ジャーナリストらとの意見交換、国際セミナーでの報告、および資料渉猟のためパキスタン最大の港湾都市カラチを訪問した。その際、グワダル港開発の将来に対して、こうした懐疑的な意見を数多く耳にした。中には、思うように開発が進んでいないからパキスタンはグワダル港を隠したいのではないか、と訝しがる声も聞かれた。秘密のヴェールに包まれた同港の実態を垣間見た気がした。

 中国が推し進める「一帯一路」構想の旗艦プロジェクトとも言えるのが、中国西部の新疆ウイグル自治区のカシュガルからグワダル港までをつなぐ、全長3000㌔メートルに及ぶ巨大インフラプロジェクトのCPECである。中パが関係を深めたのは1960年代だが、その後中国の経済成長が加わり、両国関係は重層的なものに発展してきた。

 CPECは2015年4月の習近平国家主席によるパキスタン訪問時に公式発表され、当初は460億㌦と見積もられていた総工費は現在620億㌦以上に膨れ上がっている。このCPECの玄関口として開発が進められているのが、グワダル港である。同港はアラビア海に面し、中東と南西アジアの結節点に位置する戦略的要衝である。中国がこの港の租借権を持ち開発していることから、今後の中国の影響力拡大を推し量る上で注目されている。

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グワダル港はパキスタンの中でも「辺境」に位置している
(出所)各種資料を基にウェッジ作成

見えぬ経済的合理性
容易ではないグワダルの開発

 CPECおよびその玄関口のグワダル港の全貌については、入境の制限などもあり必ずしも明らかでない。しかし、カラチでの調査結果からはその実用性に疑問符がつく。

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