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止まらぬ円安 耐える国民 機運を変える3つの処方箋|【WEDGE OPINION】

円安が止まらない中でも、岸田政権は高い支持率を維持している。「世論」ではなく現実を直視し、次世代のために「正しい」決断をすべき時だ。

文・唐鎌大輔(Daisuke Karakama)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局を経て、08年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)。著書に『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)など。

 本稿執筆時点(6月1日)でも円安相場が収束する雰囲気が感じられない。この状況に際し、「どうやったら円安は止まると思うか」という照会が多くなっている。歴史上、円安で苦しんだことがほとんどない日本だけに「本当に止まるのか」という言いようのない不安を抱く人々が増えているのかもしれない。

 日本の為政者が本当に「円安を止めたい」と考えた場合、自ら講じることができる処方箋は3つある。今回の円安の背景は金利と需給から説明されることが多いので、処方箋もそれに沿う必要がある。前者にアプローチする処方箋としては①日本銀行の正常化プロセス着手、後者には②原子力発電所の再稼働および③訪日外国人旅行者(インバウンド)の解禁が考えられる。いずれも実施によって円安の潮流を覆せる保証はない。為替は常に「相手がある話」であり、日本の事情だけで方向感は決まらないからだ。だが、市場では「参院選前に対立論点はつくらない」という岸田文雄政権の決定力のなさを見透かし、半ば「高をくくった円売り」にいそしんでいる向きも多いように思える。とすれば、①~③を実施する価値がないとはいえない。

政府・日銀はいつまで
「見ないふり」をするのか

 最も分かりやすいのは①だが、この選択肢は4月28日の金融政策決定会合や日銀総裁会見を踏まえる限り、ほぼ全面的に否定されている。4月会合で黒田東彦総裁は「粘り強く金融緩和を続ける」と言い続けた上で、現行枠組み維持を前提として指値オペ(日銀が指定した利回りで国債を無制限に買い入れる措置)を毎営業日行うことが決定された。どちらかといえば緩和強化で応戦しており、「為替市場との全面対決」を選んだ格好だ。しかし、その日の会見で黒田総裁は「過度な変動はマイナスに作用する」とも述べ、既に「悪い円安」論を唱えていた鈴木俊一財務相の見方に寄せた感もあった。今後、止まらない円安に耐えかねて日銀が何らかの手を講じなければならなくなる可能性は十分考えられる。

 具体的には何が考えられるか。イールドカーブコントロール(YCC)における誘導目標金利の短期化などが取りざたされやすいが、「次の一手」に対する催促相場を確実に断ち切りたいならば、……

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