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迫る〝2025年の崖〟 企業は「レガシーシステム」の刷新を|【特集】デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築[Column1]

 日本型雇用の終焉──。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。
 わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。
 安易に〝欧米式〟に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。

「根本的な問題の先送り」は大企業の悪癖の一つともいえる。基幹系システムの刷新に合わせ、知識技能のアップデートを図るときだ。
話し手・角田 仁
聞き手/構成・編集部(川崎隆司)

 2025年の崖──。18年9月に経済産業省が公表した「DXレポート」で指摘されたこの問題を、現在多くの日本企業が抱えている。大手企業の基幹システムの約6割が、高度経済成長期の1980~90年代にかけて作られたが、当時30~40代で主要技術を担った団塊世代の多くが2025年には定年退職を迎える。

 その先に何が起きるのか。老朽化した複雑な基幹系システム(レガシーシステム)がトラブルを起こしたとしても、ユーザー企業・ベンダー企業双方にシステム構築当時を知る者がおらず、ブラックボックス化したまま機能不全に陥ってしまう。経産省は、この問題によって25年以降、年間最大12兆円(18年時点の3倍)の経済損失が生じると見込んでいる。

 実はこの課題の背景にこそ、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅々として進まない要因が潜んでいる。まず、日本の多くの企業経営者はデジタルを活用した新しい商品・サービスの開発や業務効率化には積極的だが、レガシーシステムの刷新には及び腰だ。なぜなら、前者はコストも小さく、失敗しても社内外への影響はさほど大きくない一方で、後者は多くの時間と多額の投資を要し、切り替えに失敗した際のリスクが大きい。結果、時代に即さないシステムの保守・運用に自社のIT人材が割かれ、ベテラン技術者が退職する現状を目の当たりにしながらも「自分が経営者の数年間、なんとか無事に稼働してくれれば」と問題を先送りにしてしまうのだ。

角田 仁(Hitoshi Tsunoda)
千葉工業大学 教授・デジタル人材育成学会 会長
1989年に東京海上火災保険に入社し、国内外の部門で、主にIT戦略の企画業務を担当する。2015年からはIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員を歴任。18年に博士号取得後、19年に同社を退職、21年に千葉工業大学社会システム科学部教授に就任。(WEDGE)

 さらに、日本特有のユーザー企業(事業側)とベンダー企業(開発側)との関係性も影響している。日本のIT人材の7割以上はベンダー企業に属しており、基幹系システム構築についてベンダー企業に丸投げのケースも多い。だが本来、将来事業を踏まえたシステムの企画構築を考えられるのはユーザー企業側であり、彼らが手綱を握らなければ事業の実態に即したシステムにはならない。また、みずほ銀行の度重なる不具合にみられるように、稼働後にトラブルが起こっても、運営主体であるユーザー企業自身がシステムの全容を把握できず適切な対応がとれない、といったことが起こりうる。

スキルの継承と更新を

 だが、勝機はある。企業情報システムはこの20年で、国内におけるIT投資の減少により後塵を拝することとなったが、日本企業の社内研修制度など「会社が人材を育てる文化」は健在だ。これは個人でのスキル習得が中心の欧米にはない日本企業の良さであり「仕組み」だ。

 今後はこの仕組みを生かして、デジタル技術の学習や最新プログラム言語の習得といった日本のIT技術者のスキルチェンジ(リスキリング)と、ベンダー企業からユーザー企業への人材シフト(ユーザーシフト)を大規模に実施すべきだろう。その点においても、レガシーシステムの刷新は、当時の技術を継承するとともに、知識技能のアップデートと人材配置の適正化を促すための〝好材料〟にもなりうる。

 トップの旗振りで、社員一丸となって新たな方向へ動けるのが日本企業の強みだ。経営者は目先の実績作りにとらわれず、本質的な課題に向き合うべき時期にある。

出典:Wedge 2022年4月号

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