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国際化の時代 真に必要なのは英語力より国語力|【WEDGE OPINION】

日本人は日本語を軽視し過ぎている──。国際化が進む今、育むべきは国語力だ。それこそが激動の時代、日本の立ち位置を確かなものにしていくことにつながる。

文・松井孝典(Takafumi Matsui)
千葉工業大学学長・理学博士
1946年生まれ。東京大学理学部卒、同大学院博士課程修了。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授などを経て現職。東京大学名誉教授。専門は惑星物理学、文明論。86年、国際的な英・総合科学誌『Nature』に海の誕生を解明した「水惑星の理論」を発表した。『宇宙誌』(講談社学術文庫)など著書多数。

 英語教育の早期化が進んでいる。小学校では2011年度から5・6年生を対象に「外国語(英語)活動」が必修化されたばかりだったが、20年度からは3・4年生に早まった。

 私は、英語教育自体を否定するつもりはない。だが、「幼い頃より英語教育をすれば、グローバルな人材が育つ」かのような安易な考えが根底にあるように思えてならない。

 日本の英語教育は総じて、外国人とスムーズに会話できるようなスキルを身につけることに重きを置いている。しかし、会話以前に、どのような「中身」を伝えるかが重要である。国際社会における日本の立ち位置は今後、ますます複雑なものになるだろう。だからこそ私は、英語教育よりも国語教育が重要であると確信しており、この考えは決して揺らぐことはない。

 なぜそう言えるのか。その背景には忘れもしない二つの実体験がある。

 一つは学生時代、世界を見てみたい一心で、半年かけてユーラシア大陸を横断する自動車旅行をした時のことだ。当時大学で選択した第二外国語はロシア語だったが、旧ソ連を旅行中、現地の人に日本語で考えた自分の考えがロシア語でも通じたことはとても新鮮であり、その時の高揚した気分は今でも忘れることができない。同時に、語学を学ぶ重要性を身をもって感じたとともに、スムーズな会話よりも、自分の考えや思いを伝える「中身」が重要であることを痛感した。

 もう一つは、東京大学の助手になってからの経験だ。私は、英国の総合科学誌『Nature』で1986年、海の誕生を解明した「水惑星の理論」を発表したが、その後、旧ソ連で講演した時のことである。拙い英語での講演だったが、聴衆は熱心に私の話に耳を傾け、終了後、米国人ポスドクらが「感動した」と称賛してくれたのである。しかも、その後の質疑は数時間にもわたって続いた。

 彼らが「感動した」のは私の英語力ではない。講演した「中身」そのものである。私はその時、「どんなに英語が拙くても、内容がしっかりしていれば、外国人であろうと必死になって聞く。流暢に英語を話すかどうかは関係がない」ということを実感したものだ。

 今でも米国に行けば当然、英語で話すが、せいぜい、日本語で表現する水準の3割程度でしか話せていないであろう。それでも、「この人の主張は聞くに値する」と相手が思えば、聞いてくれるものだ。これは、日本人同士の会話でもまったく同じである。

 また、……

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