膨らみ続ける社会保障費 前例なき〝再構築〟へ決断のとき|【特集】破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか[PART5]
日本の借金膨張が止まらない。世界一の「債務大国」であるにもかかわらず、新型コロナ対策を理由にした国債発行、予算増額はとどまるところを知らない。だが、際限なく天から降ってくるお金は、日本企業や国民一人ひとりが本来持つ自立の精神を奪い、思考停止へと誘う。このまま突き進めば、将来どのような危機が起こりうるのか。その未来を避ける方策とは。〝打ち出の小槌〟など、現実の世界には存在しない。
高齢化によって今後伸びゆく社会保障費をどのようにして抑えるべきか。改革にはまず、「歴史的な大きな転換点」に立たされているという認識を持つことが重要だ。
ワクチン接種や治療薬の開発が進み、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う問題にも一定の目途がついてきた。いずれ第6波も到来し、しばらくの間、新型コロナとの攻防が継続すると思われるが、この問題も徐々に人類が制御可能な領域に誘導できるだろう。そのときわれわれはコロナ禍前に直面していた最も大きな問題に再び直面する。それは「財政・社会保障の問題」である。
改革議論の「たたき台」となる試算は既に存在する。それは、2018年5月に政府が公表した社会保障給付費の将来試算だ(下図参照)。この試算のうち名目国内総生産(GDP)成長率が1%程度の低成長ケースでは、18年度に対GDP比で21.5%であった社会保障給付費(121.3兆円)は40年度に約24%(約190兆円)になり、給付費は約2.5%ポイント増加する。
消費税率を1%引き上げると概ねGDPの約0.5%分の税収増が見込めるため、この給付費の伸び(約2.5%ポイント)を仮に消費税のみで対応すれば約5%の引き上げが必要となる。加えて、現在の財政赤字の縮小を目指すならば、40年度の消費税率は22%にまで引き上げなければならない。
社会保障財政の持続可能性を高めるために必要な負担を国民全体で分かち合うことは当然だが、コロナ危機で傷ついた人々や企業に対する配慮も必要だ。また、低成長で賃金も伸び悩んでおり、現役世代の負担にも一定の限界があるのは明らかだろう。40年に向けて人口減少・少子高齢化は一層進むが、目前に差し迫る超高齢社会を前に、改革のデッドラインは刻一刻と迫っている。いま最も必要なのは「社会保障制度の再構築」である。一定の痛みを伴う改革は避けられないが、その痛みを少しでも緩和する制度改革の「仕掛け」を講じることはできるはずだ。
ここでは、拙著『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社)の政策提言をベースに、社会保障給付費のおよそ7割を占める「年金」(35.8%)と「医療」(35.3%)の分野における具体的な改革案の方向性を示しておこう。
「保険」と「税」の機能分け
年金制度の防貧機能を維持せよ
まず、年金制度の改革案だ。財政再建は不可避だが、それだけが目的であってはならない。日本の年金制度が抱える課題は「急増する貧困高齢者への対応」と「世代間格差の改善」であり、これらの課題も同時に解決する制度的な「仕掛け」の確立が急務だ。
解決に必要なのは、①公的年金の1階部分(基礎年金)を完全に税方式化し、②公的年金の2階部分(報酬比例部分)を保険料で賄う「積立方式」に移行する改革案だろう(下図参照)。
そもそも年金の本来目的は寿命の不確実性に対する「リスク分散機能(保険)」だが、労働所得を失った高齢者の防貧機能も果たすため、公費投入による「再分配機能(税)」を備えている。改革には哲学も重要で、公費投入を抑え、かつ両者の機能を生かすにはそれぞれの機能を切り分け、裕福な高齢者の基礎年金部分への公費投入は一部カットし、公費は本当に困っている高齢者(資産も少なく低年金や生活保護水準の者)に集中投下すべきだ。
04年に導入された「マクロ経済スライド」(現役世代の人口減少や平均余命の伸びに合わせて年金の給付水準を自動的に調整する仕組み)によって年金の給付水準は徐々に低下する。当初の予定よりも調整が遅れており、現役世代(男性)の平均賃金と比較して、基礎年金が将来的に約3割も目減りする可能性が高い。これは現在の基礎年金(満額で月6.5万円)が約4.5万円に低下する感覚で、低年金の高齢者が急増する可能性を意味するが、その救済のためにも①の改革が必要となる。雇用期間の延長や資産運用などによる貯蓄(私的年金)も重要だが、そういった自助機能を備えられなかった高齢者の貧困が一気に加速する可能性も高い。
解決策(①)で問題なのは財源だが、…………
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