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値決めは企業経営の命 経営者よ、「価格」ばかりで戦うな|【特集】価値を売る経営で安いニッポンから抜け出せ[PART2-1-「脱価格戦略」を考える]

バブル崩壊以降、日本の物価と賃金は低迷し続けている。 この間、企業は〝安値競争〟を繰り広げ、「良いものを安く売る」努力に傾倒した。 しかし、安易な価格競争は誰も幸せにしない。価値あるものには適正な値決めが必要だ。 お茶の間にも浸透した〝安いニッポン〟──。脱却のヒントを〝価値を生み出す現場〟から探ろう。

価格の安さを売りにすると、従業員や関係者を犠牲にした経営から永遠に抜け出せない。経営者は強い危機意識と変革の覚悟を持ち、非価格競争力を高める経営に転換すべきだ。

話し手・坂本光司(Koji Sakamoto)
人を大切にする経営学会 会長
1947年、静岡県生まれ。経営学者。専門は中小企業経営論、地域経済論。静岡文化芸術大学教授や法政大学大学院教授などを歴任し、現職。著書に『日本で一番大切にしたい会社』シリーズ(あさ出版)など多数。


 「良いものをより安く売る」

 日本社会で頻繁に取り上げられるこのフレーズを聞くたびに、私は「これは正しい日本語なのか?」と考えてしまう。本来、良い原材料を使い、従業員が手間暇をかけてつくっている良いものは、適正な価格があって然るべきだ。

 しかし、日本では「安さ=正義」とばかりに、そのことがあまりにも軽んじられている。

 収入が限られる中、より安いものを選ぶという消費者心理は分からなくもない。だが、無理な価格設定の背景では、誰かが必ず〝犠牲〟になっていることを忘れてはならない。

 本来、企業経営の目的は、その企業に関わる全ての人々の幸せの追求・実現である。適正な値決めをすれば、従業員に適正な賃金を支払い、福利厚生も充実させることができる。そして、適正価格は、生産者はもとより、販売者・物流業者・顧客などを含めた関係する全ての人々(=関係者)が、企業活動を通じて、幸せや喜びを実感できるものでなくてはいけない。

 価格とは、企業経営の命・根幹であり、良心でもある。したがって、価格決定権は本来、企業側にあるが、日本ではその当たり前のことが困難な情勢になっている。

 私はその要因を探るべく、2016年に全国の約1000社の中小企業を対象にして「貴社の競争力は価格か、非価格か」というアンケート調査を実施したことがある。その結果、自社の競争力が「価格である」と答えた企業の割合は81.1%、「非価格である」と答えた企業は18.9%であった。

非価格競争は一朝一夕には実現できない

非価格経営企業が非価格商品を創造・確保するまでに要した期間
(出所)筆者が2016年に実施した「非価格経営に関する実態調査」より抜粋

 価格の安さを売りにしている企業が8割を超える結果に私自身、驚いたとともに、この傾向は現在でもほとんど変わらないと考えている。

 価格の安さをセールスポイントとした経営では、……

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