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[対談]転換期の世界経済と中国 問われる経営者の覚悟(中島厚志×阿古智子)|【特集】「共産党100年」論に踊らされず 中国にはこう向き合え[PART-4]

中島厚志(新潟県立大学国際経済学部教授)
阿古智子(東京大学大学院総合文化研究科教授)

新型コロナ禍の影響で、世界は転換期を迎えた。他方、米中の対立構図は世界を覆い続ける。いま中国の経済的なトピックから日本企業は何を意識すべきなのか。国際経済学者と、中国研究者の対談からヒントを探る。

編集部(以下、――)新型コロナウイルス感染症発生から1年半。現在の世界経済・情勢をどう見ているか。

中島 今回のコロナ禍は、明らかに世界経済の大きな「転換点」になるということだ。人々の安心・安全意識が強まり、消費行動が日本のみならず世界的にも変わる。

 また、ポストコロナを見据えてグリーン経済化とデジタル経済化が加速する契機になるだろう。特に、米国や欧州連合(EU)は、大規模な財政政策を打ち出している。

 さらに、今回のコロナ禍で、出生率が世界的に下がっている。人口増加が成長率を決めるとはいえないが、世界の経済成長には下押し圧力となる。また、休校などにより学業に滞りが出ている。特に途上国では、すぐにオンライン授業に振り替えられない。国ごとの平均修学年数と一人当たり国民所得には相関関係が見られることから、数十年後にイノベーションの鈍化や人材の高度化が遅れるなどの影響が出てくる可能性もある。

 一方で、大きな自然災害後は復興の過程で経済成長が加速するという状況が内外問わず観測されている。今回は、主要国では従来にも増して巨額の財政出動を行っており、今後、ワクチン接種が順調に進めば、世界経済の拡大もあり得る。

阿古 私は今回のコロナ禍で、「民主主義国家」と「権威主義国家」で、その対応方法が大きく分かれたことに注目している。民主主義国家の中でも、リスクに対応できる国とそうでない国に分かれてしまった。

 一方、権威主義国家の代表である中国は、強力なロックダウン(都市封鎖)を行い、封じ込めには成功した。だが、初期段階で情報を隠蔽した疑いが強く、告発した医師や専門家たちが次々と逮捕され、SNS上で発信する市民の情報も封じ込められるなど、権威主義国家の陰の部分も露呈した。

――今後の世界経済の中で、中国の行方をどう見ているのか。

中島 中国は、一人当たりの所得が、まだまだ伸びる余地がある。また、広大な国土や、集積で成長を押し上げる膨大な「都市人口」も持つ。沿岸部は現在、相当な過密状態になっていることは事実だが、さらに多くの人口を許容できる環境整備などが進めばさらなる成長余地があるといえる。

 逆説的な言い方だが、国有企業にさらなる成長ポテンシャルもある。他国では類を見ない多額の国家資金を投入し、企業買収する形で、10年前には小規模な半導体やITの国有企業が世界有数の企業に成長している。

 これらを総合的に勘案すれば、中国経済の伸びしろは十分にあるということだ。

 一方で、注視すべきことは人口減少である。20年の国勢調査で中国の出生数は2割減、生産年齢人口(15~64歳)は8年連続減となった。また、高齢者の割合が高まっており、人口動態面では成長力が高まる余地は乏しい。したがって、少子高齢化の中で、生産性をどこまで高められるかがカギだ。

阿古 人口減少によって中国でも社会保障の財源が厳しくなる。そもそも、中国は社会保障システムが全国で統一されていない。戸籍制度があり、上海に住んでいても上海の戸籍がない外地出身の人は、上海の水準の医療保険や教育サービスが受けられない。また、中国は富の偏在が極めて大きい。

 食糧安全保障もある。14億人をいかに満足に食べさせていくかは、いつの時代も中国の為政者の重要な役割である。農村部で一定数の食糧生産力を維持しなければならない。大都市のみならず、中規模都市でも経済を発展させる戦略が必要になるだろう。

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