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まちの魅力をさらに高める AIチャットの意外な活用法|【特集】漂流する行政デジタル化 こうすれば変えられる[INTERVIEW2]

コロナ禍を契機に社会のデジタルシフトが加速した。だが今や、その流れに取り残されつつあるのが行政だ。国の政策、デジタル庁、そして自治体のDXはどこに向かうべきか。デジタルが変える地域の未来。その具体的な〝絵〟を見せることが第一歩だ。

自治体向けチャットボットを提供するビースポークの綱川社長。彼女の視点を通じて、行政が抱える課題や新たな可能性を探る。
話し手・綱川明美
聞き手/構成・編集部(川崎隆司)

綱川明美 Akemi Tsunagawa
ビースポーク創業者・代表取締役社長
1987年神奈川県生まれ。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)卒。新卒入社の外資系投資銀行を退社後、海外企業の進出支援、戦略コンサルティング、機関投資家向け金融商品の開発などを経て2015年にビースポーク(東京都渋谷区)を設立。政府機関や自治体、交通機関、ホテルなど、さまざまな業種業態にサービスを提供。

 職員の採用が増えていないにもかかわらず、少子高齢化に伴う社会保障サービスを始め、行政業務の守備範囲を広げている自治体も多い。新型コロナウイルスのワクチン接種対応も3年前には存在していなかった。従来のアナログな仕事の進め方を改め、デジタル技術を採り入れながら行政業務の最適化を図ることは、全国の自治体にとって喫緊の課題だ。

 弊社が提供するAIチャットボット 「Bebot」は〝24時間稼働の接客窓口〟として、仙台市や富山市など100以上の自治体に導入されている。開発当初は訪日外国人向けの接客機能をメインとし、多言語型AIチャットとして国内ホテルに導入されていたが、その後、成田空港や東京駅といったターミナル施設にも広まり、2019年から自治体にも採用され始めた。

 「Bebot」では、行政手続きに関する問い合わせ対応や観光案内など、これまで自治体職員が対応してきた簡易な窓口相談をAIチャット機能によって代替するが、その過程を通じて従来業務の見直しを提案することも多い。行政内各課にまたがって発生する業務も、「窓口相談」という住民視点の〝入り口〟から見ればつながっており、チャットボットのアルゴリズムを構築しながら、質問内容や業務改善について職員の方と一緒に知恵を出し合うのもわれわれの重要な役割だ。

 そうしたやりとりの中で、AIチャットボットの新たな利点にも気づいた。ある自治体で育児関連のチャットボットを提供した際、市役所側では当初、子ども手当などの申請様式に関する質問が多いだろうと想定していたが、いざサービスの提供を開始すると「一時的に子どもを預かってくれる施設は?」といった担当課としてはニーズが低いと思っていた質問が利用者から多く寄せられた。住民のインサイト(隠れた欲求や動機)をデータとして〝見える化〟することで、行政サービスを提供する自治体と受け取る住民間の認識ギャップを埋めるツールとなるのだ。

 さらに、多くの導入自治体から「住民からの質問が多い分野はどれか」「質問の文字数をどれくらいに設定すれば有効回答を得やすいか」といったデータが集まるため、それらの傾向を分析することで行政サービス改善につなげることもできる。

デジタルの世界が
町と人をつなぐきっかけに

 高齢者など、インターネットに不慣れでAIチャットボットを利用できない住民の声は拾えないのでは、といった懸念もあるだろう。もちろん、高齢者でも使いやすいサービスを提供するよう心掛けるが、一方で、むしろデジタルを活用して住民以外の声を拾える機会にもなりうる。日本最南端の町である沖縄県竹富町の窓口相談チャットボットには、住民4000人に対し、8000人以上の利用があったが、その多くは観光や移住定住関連の、町の外の人たちからの質問だった。

 その町に関することを知りたい人は市役所を直接訪れる住民以外にも、実は世界中に存在するかもしれない。コロナ禍で地方への移住や定住を希望する人が増えているが、インターネットを通じて便利で快適なサービスを提供し、その情報を全国に広く届ける市や町が増えれば、地方への移住が加速する可能性もある。多様化する社会のニーズに応えるためにも、行政サービスのデジタル化は欠かせない。

出典:Wedge 2022年9月号

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