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時間切れが迫っている! 「ロスジェネ問題」から目を背けるな|【特集】人をすり減らす経営はもうやめよう[Part-3]

日本企業の〝保守的経営〟が際立ち、先進国唯一ともいえる異常事態が続く。人材や設備への投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、従業員給与も上昇しない。また、ロスジェネ世代は明るい展望も見出せず、高齢化も進む……。「人をすり減らす」経営はもう限界だ。経営者は自身の決断が国民生活ひいては、日本経済の再生にもつながることを自覚し、一歩前に踏み出すときだ。

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文・小林美希(ジャーナリスト)

文・小林美希(Miki Kobayashi)
ジャーナリスト
1975年生まれ。神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。著書に『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(共に岩波書店)など多数。

今後、確実に高齢化が進む就職氷河期世代「ロスジェネ」。この問題を放置すれば、ロスジェネ自身はもちろん、社会的にも大きな問題となる。解決の糸口はないのか? 現場の動きから探った。

 コロナ不況の中、最も置き去りにされているのが就職氷河期世代、いわゆる「ロスジェネ(失われた世代)」ではないだろうか。1991年のバブル崩壊後に高校や大学を卒業した世代は、就職氷河期に直面。正社員になりたくてもなれず30年近くが経過した今、ロスジェネは「いくら努力しても非正規から脱せられない」と希望を失い、絶望感を募らせている。

 2000年に大卒就職率が統計史上初めて6割を下回り、03年に史上最低の55.1%を更新。2人に1人は就職できず、「無職になるよりはマシ」だということで、やむを得ず非正規雇用を選んだ。

就職カンファレンス(600×450)

2000年3月、就職カンファレンスに集まった学生でごったがえす会場(THEYOMIURISHIMBUN/AFLO)

 就職氷河期世代が問題視され始める中、内閣府の『国民生活白書』(03年)で15~34歳のパート・アルバイト、契約社員などのフリーター人口が417万人(01年)いると発表されると、社会に衝撃が走った。15~24歳の若年失業率も9.5%(総務省、04年)という高さだった。それから20年を経た19年の35~49歳の非正規雇用は、589万人に上る。40代後半だけでも230万人が非正規雇用となっているが、多くのキャリアカウンセラーが「正直、45歳以上の正社員化は難しい」と頭を悩ます。

 ロスジェネ対策の重い腰をあげた政府は19年に行動計画を策定。就職氷河期を「おおむね93年卒から04年卒」と定義し、現在37~46歳を中心層として集中支援している。対象は、非正規雇用になった理由が「正社員の仕事がないから」という42万人と、非労働力人口のうち長期無業者42万人などの84万人(下図)。19年からの3年間で30万人を正社員にすると目標を掲げた。

図(タイトル入)

 ロスジェネの特徴として、初職(初めて就いた職業)が非正規だと、そのまま非正規であり続けるという問題がある。総務省が5年ごとに行う『就業構造基本調査』(17年)では、35~44歳で初職が非正規雇用の場合、過半が非正規のままだと示されている。派遣社員として働くうちにスキルアップして、職場で「正社員になってほしい」と期待されたとしても、派遣の上限期限となる3年が近づくと「次の契約更新はありません」と、あっさりクビを切られる。企業のスタンスは「代わりはいくらでもいる」だった。

 内閣府は、男性の正規雇用と非正規雇用で生涯年収の差は最大で1億円以上と試算している。低賃金で先行き不透明では未婚率も高くなる。同じく『就業構造基本調査』(17年)によれば、35~39歳の大卒男子正社員では未婚率が24.7%であるのに対して、派遣・契約社員では同60.6%、パート・アルバイトでは同79.4%と高い。

 結婚しても女性は妊娠解雇といったマタニティーハラスメントを受け、就業継続ができないことが多い。15年の連合のマタハラ調査では、女性の3割がマタハラ被害を受け、正社員の約5割、非正社員の約7割が妊娠後に辞めている。産後に就業継続できたとしても男性の雇用が不安定であり、正社員であっても長時間労働であることでワンオペ育児を強いられる女性が労働市場から離脱するケースは少なくない。

 今後、問題が顕在化しそうなのがロスジェネの親世代の介護だ。

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