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Big Brother is watching You

イギリスの作家ジョージ・オーウェルが1949年に発表した有名な小説「1984」はディストピアの近未来を描いた暗い物語。「・・・1950年代に発生した核戦争後、世界は3つの超大国によって分割統治されていた。そこでは絶えず戦争が繰り返されている。その一つオセアニアでは、市民のあらゆる生活が「テレスクリーン」という双方向性のテレビや、街中いたるところに配備された隠しマイクによって監視されている・・・」(詳しくはWikiPedia参照)。

デジタル機器もインターネットも存在しない1949年時点で、双方向性コミュニケーション機能を備える「テレスクリーン」などという装置をイメージしていることは驚きだ。またこの小説は1984年に米国スーパーボールのテレビ中継時に流されたアップルのテレビCMのモチーフになっていることでも有名。このCMは当時、IBMなどの巨大企業や軍によって独占的に使用されていたコンピュータを、個人の能力を拡張するクールなツール=パーソナルコンピュータとして再定義しようとするアップルの心意気を表したCMとして高い評価を受けている。そのアップルが今ではGAFAと呼ばれる巨大企業群のひとつになっているのも時代の皮肉だ。

ただしここでnoteのテーマとするのはGAFA企業群そのものではないことをあらかじめ宣言しておきたい。ただぼくにはそれら企業群と1984のビッグブラザーのイメージがダブってしまう。特に暮らしそのものを市場とするシアトルのあの企業がビッグブラザーそのものに思えてしまうのはなぜだろう?同社について書かれた書籍は無数に出版されているし、どうしても強い興味を持って研究する気にはなれない。同社のビジネスや戦略そのものに興味のある人はそちらを読んでいただくことにして、ここではそこに触れるつもりはない。どれだけ一生懸命勉強しても、そんな企業をこれから我々が作ることは不可能だし、そんな思いも持てないし、言うまでもなくそんな器量も度胸もない。なにしろ大きなビジネスに強い興味を持てない体質なのだ。

ところが数年前のある時、考えてみたら、自分の財布から出ていくお金のかなりの部分がアマゾン・コムに流れていることに気づいた。実は、ぼくは書店という環境があまり得意ではない。書店に入ると背表紙のタイトルがみんなこちらに向いて叫んでいるように感じてしまうからだ。だから多くの場合、何かの書籍が必要になって書店に入っても、何も手に取れず、何も買えずに、そのまま書店を出ることになる。そのためアマゾンの存在は自分にとっては非常にありがたいものでもある。アマゾンがあるから何とか本を読むことができる、といっても良い。

また趣味のギターに必要になる弦などの消耗品やイフェクター類も、安いし早いし、情報も豊富で、返品も楽だし、ということで結局アマゾンをポチってしまう。さらには、ほぼ毎日飲んでいるハイボールに欠かせない炭酸水に至ってはアマゾンの定期購入サービスを利用しているので、なくなる前に自動的に24本ケースが自宅に届く。このサービスは実によくできていて、たとえば冬場のハイボール消費が少なくなるときなど、夏場と同じ頻度で配送されると家庭内在庫が増えすぎるので、配送間隔を調整して先延ばしすることも可能だ。細かな部分にまで配慮が行き届いた素晴らしいサービスなのだ。

そんなぐあいに、自分の暮らしの中でアマゾンに依存する部分が、知らない間にどんどん拡大している事実に気づいたのが数年前。このままいくとそれほど遠くない将来、グローサリーからアパレルから家電からペットケアから、暮らしのための出費の何から何までがアマゾンに吸い込まれていく、、、というイメージが膨らんでしまった。そしてポチるたびに必ず表示される「アマゾンプライム」の甘い誘惑。月々わずかな費用で、配送料は無料になるし、映画も見放題になる。良いことばかりが待っているユートピアの魅力に負けそうになるのを、何とかこらえるという状態が続いた。

そんなとき、世界の名著を紹介するTV番組で取り上げられた「1984」の「Big Brother is Watching You」という言葉が、頭のなかにくすぶっていた何かにつながった。もしかしたらアマゾンって近未来のビッグブラザーじゃないのか、、、? 気づかないうちに、暮らしのすべての部分を担うようになり、暮らしに関するすべての情報を蓄積し、何が欲しいのか、何を使っているのか、どう暮らしたいのか、、、生活レベルから銀行口座まですべてを知っている万能な存在。

調べてみると、アマゾンってほんとうは怖い存在なんじゃないのか、という感覚はかなり多くの人が持つようになっていた。特に、米国のミレニアル世代、つまり生まれつきインターネットとともに成長してきたような世代などにそうした考えが広がっていた。ブランド企業の中には「アマゾンで商品を販売するリテーラーとは取引を中止」と明確に打ち出すところも出始めている。

アマゾンはほんとうにビッグブラザーなのか?
とはいえ、一つの企業が悪か善か判断することはもちろんそう簡単ではないし、その結果を知るためには時間も必要になる。まずは個人としてそれを5感すべてで体感してみようと思う。まず感覚(直感)から生み出されてくる仮説を得ることを優先し、その仮設から遡って論理の組み立てを試みる、という方法(Abduction)だ。ぼくにはそれが性に合っているし、仮説が間違えではない、という自信はそれなりにある。
(次号につづく)

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